第五十三話 結末
激闘が終わった。
レクタシオンは封印球に閉じ込められた。
レクタシオンの意思が抜けた、エマの体は、元に戻った。綺麗な白い肌と、純白の翼を取り戻す。
仲間たちがエマの拘束を解く。エマは、地面に仰向けに倒れた。
「エマ!」
マナは、エマを心配して、顔を寄せた。薄っすらとエマは瞳を開けている。
かすれるような声で、
「聞こえていたぞ……お前の言葉……」
そう呟いたあと目を閉じた。
息絶えたかと肝を冷やしながら、エマの顔に手を触れると、まだ暖かく呼吸もしていた。気を失っているだけのようだ。
エマが、人間に復讐するのを諦めたのかどうか、はっきりとは分からない。それでもエマの言葉を聞き、昔みたいに戻れるだろうとマナは強い確信を持った。
少しほっとした後、物凄く疲労が体に押し寄せてきた。魔力が完全に切れて、体力ももう残りわずかだった。気を失いそうになるが、何とか指示を送る。
「ドールット、エマを医務室に連れていって」
「え? しかし、飛王は猫たちの大敵では……」
「エマは悪霊に取りつかれて、猫を殺そうとしていたの。もう、元に戻ったから大丈夫」
「そうだったのですか。確かに色々様子がおかしかったですな。というか、飛王とマナ様はお知り合いだったのですか?」
「今は話している暇はないから、早く医務室に連れていって」
「分かりました」
ドールットは疑問を抱きながらも、気を失ったエマを医務室に運ぶため抱きかかえた。
「ジェードランたちは、この封印球を今すぐドンダのところに持って行って。アタシはちょっと動けそうにないから」
ドンダは一か月外に出たら、中の怨念が解き放たれると言っていので、しばらく猶予はあるのだが、本当にドンダの言葉通りになるという確証はない。なるべく早く持って行った方が懸命だと考えた。
「し、しかし、マナ様を置いて行くわけには……」
ハピーが、心配したような表情でそう言ったが、マナは厳しい表情で、
「いいから行って、お願い」
と命令をした。
強い思いを感じ取ったハピーたちは、命令に従わざるを得ず、真っ黒に染まった封印球を持ち、神殿へと向かった。
それを見届けたマナは、安心して気が抜け、フラッと地面に倒れる。
「マナ様!」
ドールットの叫び声を最後に、マナの意識は途絶えた。
〇
「ん……」
数時間後マナは目覚めた。体全体がだるくて重く、頭が痛い。随分長く眠っていたようなそんな気がした。
頭がぼうっとして、思考が止まっていた。現在の場所もよく分からない。見たことのない部屋にいた。
まだ眠いので、もう一度眠ろうと目を閉じた。
その数秒後、マナは重大な出来事を思い出す。
「そうだ! エマ!」
毛布をはねのけて、起き上がった。レクタシオンからエマを解放したという事を思い出した。
「私がどうかしたか?」
真横から声が聞こえてきた。驚いて横を見ると、エマが上体を起こして寝ていた。
「エ、エマ!」
マナは立ち上がり、エマのベッドの近くまで行く。
そして、勢いよくエマに抱きついた。
「良かった~……無事だったんだ」
「私がそう簡単にやられるか……まあ、奴に体を乗っ取られたせいで、強い疲労感を感じて、動けない状態になってしまっているがな」
「そ、それ大丈夫なの?」
「いずれ動けるようになる」
「そ、そっか」
レクタシオンがエマの体に与えたダメージは小さくないようだった。
「……止められてしまったな」
エマがポツリと呟いた。
「うん、止めた。エマが間違ったことしようとしたら、アタシは止めるよ。今度は間違わない」
真剣な表情でエマを見つめながら言った。
「まだ人間に対する恨みは消えない。でも、マナの言葉を聞いて思ってしまった。恨みを晴らすより、マナと一緒にいたいって。恨みを晴らすことより、私が楽しい思いをしている方が、父、母、村の皆も、喜ぶんじゃないかって。そう、思ってしまったんだ」
少しはにかみながらエマは呟いた。その表情を見て、昔みたいに戻れると、確信を抱いた。
「腹が減った。オムレツを作ってくれないか?」
「え、い、今から?」
「そうだ。久しぶりに食べたくなってきた」
「いや、でもアタシも結構疲れてるしな」
魔力を使い果たしたので、眠ったとはいえ、完全に回複しきってはおらず、疲労感を強く感じていた。
「そうか……お前の最高に上手いオムレツを食べたら、疲労も吹き飛ぶと思ったんだけどな……あれだけのオムレツはお前以外世界中探しても作れるものはいないだろうし……」
「む……」
「残念だな……この城の料理人も腕は良いが、それでもお前ほどのオムレツは作れないし……食べたかったな……」
「そ、そこまで言うなら作ってあげる! アタシしか作れないしね!」
ベタ褒めをされたマナは、意気揚々と厨房に向かい、オムレツ作りを始めた。
【あとがき】
完結まで読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。
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