第三十六話 前世の記憶①

2020年12月20日

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 ――――500年前。

 人間と魔族の大戦『第四次人魔大戦』が起こっているまさにその時代にマナは誕生した。

『第三次人魔大戦』で、人間と魔族、両方に甚大な被害が出て、停戦協定を行ってから100年後、力を蓄えた人間側が、魔族の領土に侵攻を仕掛けたことで、魔族が応戦し大戦がはじまった。

 この大戦に勝利をするため、人間はとある計画を立てた。

 人間一人一人の力はたかがしれているのだが、稀に千の軍勢に匹敵するほどの、強力な才能を持って生まれてくる人間がいる。

 その人間を国中から集めて、最強の精鋭部隊を作り上げようという計画だ。

 その部隊は、戦の神の名にあやかり『プラニエル』と名付けられた。

 貧困家庭に生まれたマナであったが、プラニエルに才能を見出された。

 当初マナは魔族との戦をする部隊に所属するということが嫌で、話を断ろうと思っていたのだが、家族が人質に取られ、強制的に部隊に入ることになった。

 数年間、マナはプラニエルで訓練を積み、白魔導士としての高い才能を開花させていた。

 そんな時、プラニエルに新人が入隊した。

「はぁー、いつ戦が終わるのかなー」

 マナは憂鬱な表情で、呟いた。
 すでにプラニエルは実戦に投入されており、数多くの戦果を打ち立てていた。
 その中で、マナは時に味方を回復し、時に敵を薙ぎ払う強力な光属性の魔法を使う、凄腕の白魔導士として、隊の仲間から一目置かれる存在となっていた。

 しかし、元々戦いたくないマナにとっては、そんな事嬉しくも何ともない。
 一刻も早く戦が終わることを祈りながら、日々を過ごしていた。

 そんな時、

「今日は新人を紹介する」

 プラニエルを指揮する隊長がそう言って、一人の女を連れてきた。

 ほぼすべての隊員が新人を見て絶句した。

 綺麗なストレートの黒髪。
 鋭い目つき。綺麗に整った顔立ち。
 スタイルはいい。
 それだけなら、女はまだしも男は喜びそうだが、そうはならなかった。

 純白の翼が八枚生えていたからだ。

 彼女は翼族の女であった。

 魔族と戦うための隊に、魔族である翼族が入るというのは、間違いなく異質な事であった。

「こいつは見ての通り翼族だが、父親は人間だ。この隊を創設したラプトン将軍の弟の娘である。魔族と人間は子をなすことが出来るのだ」
「ハーフ? 汚らわしい……」「そんなのと一緒に戦えるか」

 隊員たちは新入りを睨み付けながらそう言った。

 魔族は敵として侮蔑されている時代である。どちらかというと人間に近い容姿を持つ翼族も、例外ではない。

 新入りの翼族は、その視線を受けても、ピクリとも表情を変えない。無表情で興味なさげに、悪口を言う隊員たちを見ていた。

「私も何で翼族を隊員にせねばならんのか最初はわからなかったが、はっきり言ってこいつは規格外に強い。今の戦は使えるべきものは使うべきだ」
「しかしですね隊長」
「これは将軍の命令でもある。貴様らに反抗する権利はない」

 結局翼族の女は、プラニエルに入隊することになった。

 彼女を気に入らないと思った者たちが、まず実力を確認するため決闘を仕掛けた。

 そして、僅か数秒で捻られた。

 プラニエルに所属している者は、戦闘能力に秀でた者たちばかり。当然彼女に決闘を仕掛けたものも、達人と言っていいほどの腕前である。
 それでも軽くひねられて、全員が彼女が隊長の言う通り、規格外の力を持っていると理解した。

 力尽くで追い出すのは無理となると、もはやプラニエルの隊員たちは、無視するくらいしか方法はなく、隊員たちは翼族の新入りを無視することにした。

 ただ一人、マナを覗いて。

「今の戦い凄かったね! めっちゃ強いんだ君!」

 元々魔族に強い偏見を抱いていないマナは、彼女に躊躇なく話しかけた。

「さっき隊長、君の名前を紹介してなかったね。教えてよ」
「…………」
「アタシはマナ・メリシアだよ! 君は?」

 翼族の女は無視しようとしたが、マナが先に名乗ったので仕方ないという表情で名を名乗る。

「エマ・サンハインだ」
「意外と可愛い名前だね」

 笑顔で言うマナに、エマが不満げな顔で、

「意外ととはどういう意味だ」

 そう追及した。

「え? や、何かエマってかっこいい感じがするし。名剣の名前みたいな感じだと思ってたよ」
「例えば?」
「スターンソードとか、アレンドバルドルートソードとか」
「お前はソードという言葉が名前に使われると思っていたのか? それに後者は長すぎる」

 エマはあきれ顔でツッコミを入れる。

「ね、ね、名前以外にも色々聞きたいな。どこから来たの?」
「お前さっきから普通に話しかけてくるが、私の翼が見えないのか?」
「え? 綺麗だよ。羨ましいなぁ。これ飛べるの?」
「飛ぶことは可能だ……ってそうではない! 翼族はお前にとって敵だろ!」
「うーん。エマは敵じゃないからこの隊に入ってきたんでしょ?」

 マナの言葉は正しかったが、エマの言いたいことはそういうことではなかった。

「魔族はお前たち人間にとって、憎むべき対象のはずだ。お前にとってもそうだろう? 何の目的があって話しかけてくる」

 エマは、マナを睨み付ける。

「目的って。新しいは行った子が、可愛い子だったし気になったから声をかけたんだけど……駄目だったかな?」
「か、可愛い?」

 言われ慣れてないセリフを言われ、エマは顔を赤くする。

「ふ、ふん、とにかく人間と仲良くする気などない。話しかけてくるな」

 エマはそう言い残して、自分の部屋に戻っていった。

「うーん、何が悪かったのかな?」

 悩んでいるマナにほかの隊員が、

「マナさん、翼族なんかに話しかけては駄目だよ」

 そうアドバイスをしたが、マナは聞く気がないようだった。

「たぶん今のは照れただけだ! 顔赤かったし! もっと話しかけてみよう!」

 ポジティブに考え、次の日からもエマに話しかけ続けた。

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