第三話 スキルの効果

2020年12月20日

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「さて、この前使ったトイレ作戦で一度看守の情報を見ようか」

 魅了は他人の情報を見ることが出来る。
 まずは看守相手に試してみようとマナは決めた。

「……トイレ作戦ってか、普通にトイレ行きたい」

 朝起きたばかりなのでマナは尿意を感じていた。

「まだ我慢できるくらいだし、最初に情報を見てからトイレに行こう」

 マナは扉を叩き、「トイレに行きたい」とお願いをした。

 扉が開き、看守の姿が目に入ってくる。

 情報を見るには他人の目をじっと見る必要がある。
 目を合わせる必要はない。一方的に見るだけで問題ない。

 今回は看守が目を合わせてきたので、鋭い目つきに気圧されるが、目を逸らさずじっと見つめた。

 看守の情報が目の前に浮かび上がってくる。

「これは……」

 名前 ハピー・シアンケル 18歳♀
 好感度100 好きなタイプ ロリ 好きな物 ロリ 趣味 ロリを観察する
 性格 真面目な性格 公私混同はしない

(好きなタイプ……ロリ…………ロ、ロロロ、ロリィ!?!?)

 あまりの情報にマナは混乱する。

(ロ、ロリって、子供の女の事だよね……? まさに今のアタシのような。えぇ? 好きなタイプロリで、好きな物ロリってどんだけ重度のロリコンなんだよ……真面目なタイプで公私混同はしないから、今までばれないように振る舞っていたけど、実はそんな目でアタシを見ていたのか……)

 若干寒気を感じるマナ。

(しかし、これはチャンス。こいつの好感度を上げることは、案外簡単かも……ってあれ?)

 出てきた数値をもう一度見ると、100から120に上がっていた。
 その数値が130、140と凄まじい勢いで上昇して行っている。

(ええ!? アタシ何もしてないんだけど! 見つめてるだけなんですけど!
 これが魅了の力なのかな? それともロリコンすぎるから? ていうか両方か)

 しばらくマナは、看守のハピーを見つめ続ける。
 最終的に好感度が200まで上昇し、ストップした。

 200に上がった直後、ハピーはマナを見つめる。

 すると、いきなり土下座をし、

「私をマナフォース様の下僕にしてください!」

 必死に懇願を始めた。

「げ、下僕? アタシの?」
「はい」

 あまりに突然の事で、マナは心底困惑する。
 好感度が上がったとはいえ、いきなり下僕にしてくれと頼まれるのは、完全に予想の範囲外にあった。

「いや……あの……態度変わりすぎじゃない?」
「今までもマナフォース様が世界一美しい存在で、こんなところに閉じ込めているのは畏れ多きことだと思っておりました。しかし、私はこの城の主である、ジェードラン殿に仕えておりましたので、私情を消して職務を全うしていたのです。ですが、マナフォース様の瞳で見つめられ、今までの判断は全て間違っているという事を悟りました。マナフォース様はまさに女神を超えるほどの神聖な存在であり、私が命を投げうってでもお仕えすべき存在だと確信いたしました」

 ハピーはまるで信仰心から神に身をささげる信者のような表情をしている。

 マナは思わず寒気を感じた。

 だが冷静に考えて、これはかなり良い状況であると理解してくる。

(下僕にしてって言っているくらいだし、何でも言う事聞いてくれそう。これなら脱出の手助けもしてくれるはず)

 自分のスキルがこれ以上ないほどの効果を発揮し、マナは喜びと安心感を感じていた。

 少し気が緩んで尿意が強まってきたので、脱出のお願いをする前にまずトイレに行くことにした。

「ちょっとトイレ行ってくるから」
「そういえばそうでしたね。あ、トイレならちょうどいいです」

 ハピーはそう言ってバケツを持ってきた。

「はい、お願いします」
「……どういうこと?」
「このバケツにお願いします」
「……え? 何で? トイレ使えなくなったりしたの?」
「いえ、使えますよ」
「じゃあ何で?」
「何でって勿体ないからに決まっております」

 ハピーはきょとんとして表情を浮かべる。
 マナも言っている意味が分からなかったので、同じくきょとんとした表情を浮かべた。

「勿体ない?」
「ええ、マナフォース様は女神さまを超えるほどの神聖な存在です。そのマナフォース様の神聖な部位から放たれた液体は、まさに神水と言うべき存在です。それをまさか便所に流し込むなど、あまりに勿体ないことであります」
「…………なるほど、アンタどうやらド変態のようね」

 マナは奇想天外な理由を聞いて、心底呆れかえった。

「それではお願いいたします!」
「お願いいたしますじゃないわ! このド変態! 気持ち悪い! 死ね!」

 率直にそう感想を言うと、ハピーは、

「かしこまりました」

 と言って、懐から短剣を取り出し、それを首に押し当てた。
 何をしようとしてりるのか瞬時に察しさマナは、

「や、やっぱなし! 死ぬな!」

 慌てて止めた。

「かしこまりました。死にません」

 ハピーは短剣を首から話した。

 突然のことで焦り冷や汗をかいたマナは、額にかいた汗を服の袖で拭う。
 ここでハピーに死なれたら、マナとしては非常に困るため、何も本気で死んでほしくて死ねと言ったわけではない。

(死ねという命令も聞くとか……恐るべし魅了スキル……)

 自信が開花させたスキルの強力さを思い知った。

「とにもかくにも、アタシはバケツでトイレはしない」

 マナはそう宣言した後、バケツを蹴り飛ばした。

「じゃあ、行ってくるから」

 トイレの場所は知っているのでマナ一人で向かう。
 三歩歩き、振り向いて、

「覗きに来ないでよ」

 ハピーに念を押した。

「そのような畏れ多いことはいたしません」

 返答を聞いたマナだったが完全に信頼は出来ず、落ち着かない心持ちでトイレに行き、用を足した。

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