第二十八話 危機

2020年12月20日

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 サイマスはシャーファが報告したことと言って、嫌な予感を感じた。

 なるべくその報告をケルンにはさせたくないと思ったが、

「報告とはなんじゃ。お主には姫の姿を写すよう命じているはずじゃが」

 ケルンもシャーファの来訪には気づいていた。

 姫の写真をもっともっと欲しいと思っているケルンは、不機嫌そうな表情で命令する。

「もっと姫の姿を撮ってくるのじゃ! それがお主の役目じゃ! 今すぐ行けい!」
「も、申し訳ありません! 姫からケルン様へのお願いを聞いたのですが、あとでお伝えいたしますね」
「待て、お願いの方をまず伝えるのじゃ」

 さっきまで今すぐ撮りに行けと言ったが、マナからお願いがあると知ったケルンは態度を一変させる。

 シャーファはどうすればいいか戸惑った後、お願いを伝える。

「え、えーと……マナフォース姫は、ケルン様に会いたがっているようです。お会いしてあげたらどうでしょうか?」
「な、何と姫がわしに!? よし、今すぐ行くのじゃ!」

 ケルンは即答し、早速マナの下へと向かおうとする。
 断ると思っていたシャーファは面くらう。

「ま、待ってください! いけません!」

 サイマスはケルンを止める。
 ほかの家臣たちもケルンを止めにかかる。

「向こうが会いたいと言っているのじゃから、会わんわけにはいかんじゃろう!!」
「だ、駄目ですよ! ケルン様の野望はどうなります!」
「もうそんなことは知らん! わしは会いに行く! 邪魔をするな!」

 今度ばかりは説得では止まりそうもなく、家臣たちは邪魔をするなという命令を守り、ケルンがマナの下へと向かうのを黙ってみているしかなかった。

「おっと会いに行く前に準備をしなくてはな。この格好で姫とは会えん。シャーファを着替えを手伝え」
「は、はい」

 ケルンはマナと会うために身支度をすることにして、衣装室へと向かった。

(こ、これはまずいことになったぞ……)

 サイマスは心の底から狼狽える。
 このままではケルンが、人間の姫に完全に従わされてしまう。
 主を心の底から慕っている彼にとっては、看過できない事態であった。

(しかし言葉で説得するのはもはや不可能……となると……もはや諸悪の根源を討つしかない……!)

 マナの力は扱う事さえできれば、ケルンの野望を叶えるのを大きく手助けしてくれるだろうが、こうなっては扱う事は最初から不可能だったと思うしかない。

 もしかしたら、マナを殺すことでケルンが大激怒し、死罪になる可能性もある。

(俺の死で、ケルン様が姫に従わせることを止めることが出来るなら……それでいい)

 サイマスは死を覚悟しながらも、主のためマナを討つことを心に誓った。

「来るかなぁ~」

 マナは、ケルンが来るのを待っていた。
 ただ答えはノーであるだろうとマナは予想していた。
 そう甘くはないだろう。

 そのため、駄目だった時どうするかを考える。

(ここから脱出するのって、意外と難しいというか……やっぱりシャーファの好感度をもっと上げないと無理かなぁ)

 具体的な案は中々でない。

 そんな時、部屋の扉が何の前触れもなく開いた。

 シャーファはいつも声をかけてから入ってくるので、マナは驚く。

 入ってきたのは見知らぬ男であった。

 その右手には剣が握られている。

(だ、誰? い、いやそれより何をする気?)

 男は無表情でマナに近付いてくる。
 身の危険を感じ、マナはジリジリと後退する。壁が背中に当たり、これ以上後ろに下がれなくなる。

 その男は、マナのすぐ近くまで来て、冷たい表情で見下ろし、

「貴様にケルン様を操らせるわけにはいかん。ここで死んでもらう」

 そう言い放った。

(ま、まずい! み、魅了しないと!)

 そう思ったが、男はすでに剣を振り上げており、間にあいそうにない。

 魅了スキルは強力であるが、このように問答無用で殺しにかかってくる相手には、全くの無力であった。

(し……死ぬ……!)

 死を覚悟した。その時。

「マナ様!!」

 聞き覚えのある叫び声が聞こえたあと、部屋の窓ガラスが割れ、何者かが部屋に乱入してくる。

 乱入してきたのは二人の翼族。

 一人がマナを殺そうとしていた男を突き飛ばし、凶行を阻止した。

「大丈夫ですかマナ様!」
「はぁ……はぁ……疲れた……」

 そこにいたのは、バルスト城でマナが魅了した、ハピーとジェードランの二人であった。

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