第3話 現状確認
国が消えた。
グロリアセプテムが消えたという事実に、ペペロンはショックを受ける。
それほど長い時間をかけて、作った国だったのだ。苦労に苦労を重ねて、やっと強大な国にした。
その時間が全て無駄になったと思うと、さすがにへこんでくる。
「ペペロン様……グロリアセプテムは無くなってしまったのでしょうか……」
ララが少し俯きながら尋ねた。その表情は暗い。
「その可能性が高いだろう」
ペペロンは動揺している所を見せないように、毅然とした態度で返答した。そのようすを見てララの表情が少し安心したものへと変わったが、ペペロンは見ていなかった。
――国が消えたという事は、ステータスは? ステータスも初期化されたのなら、確実に死ぬよな? 装備は見る限り、元々装備していた超高級な服と、それから武器として使っていた中で最強クラスの片手剣がちゃんと腰にかかっているけど。
ステータス画面を開こうと、ぺペロンは「ステータス」と言ってみるが、残念ながら出てこない。
どうやって、調べるか? ペペロンは考え、とりあえずその場で、垂直飛びをしてみた。軽く飛んだだけなのだが、かなり高く飛んだ。木を飛び越えれるくらいの高さに到達している。
――ステータスはそのままか……ジャンプ力だけが元のままとも考えづらいし、全部のステータスが元のままだと思っていいだろうな。
「ララ、お主もステータスは元のままか?」
「はい。私以外のみんなも弱くなっていたりはしていないみたいですわ」
「そうか」
ステータスが元のままなのはペペロンもさすがに安心した。マジック&ソードはとにかく難易度の高いゲームだった。初期ステータス、最弱の小人族という条件下では、いくらやりこんでいるペペロンとはいえ、あっさりと死んでしまう可能性が高い。
ゲームでは死んでもセーブしたところから再開できるが、現実になるとそうはいかない。
(ステータスが元のままなのは良かったが、1つ懸念があるな。今の状態だと魔法はどうなっているのだろうか)
マジック&ソードでは、魔法がかなり強いのだが、拠点が発展していないうちは使える魔法が限られている。
魔法の習得方法は少し特殊だ。まず拠点に研究所と呼ばれる建物を作る。そして、魔法書と呼ばれる本を研究所に持ってくる。魔法書には読むために必要な知力があり、読めるだけの知力があるものに、一定期間研究所内で魔法書を読ませ研究させると、拠点に所属しているすべての者が魔法書に書いてあった魔法が使えるようなれるのだ。
ちなみに研究所では、魔法書以外にも、農業の書、建築の書などを読んで研究する事で、それらの技術、スキルを習得する事も出来た。
強い魔法を使えなければ結構弱体化する。
それ以前に、そもそも魔法は使えるのかと疑問に思い、念のため試し打ちしてみる事にした。ペペロンは右手を開いて、前に突き出し、
「フレイム」
そう唱えた。すると、手のひらから炎の塊が発射された。
――使えるみたいだな。
魔法は使えるようだった。
次にペペロンは初期では使用不可の強い魔法を使おうとする。
もしかしたら、拠点は初期に戻ってしまったが、魔法はそのまま使えるかもしれないと考えたからだ。
「ギガ・フレイム」
そう唱えるが発動しない。使える魔法は初期に使える弱い魔法3種類だけのようだ。
ペペロンは現状わかっている事をまとめてみる。
ここはマジック&ソードの世界で、自分は部下6人と共にこの世界に転移した。
苦労して作った国、グロリアセプテムは無くなる。ステータスはそのまま、魔法は使えるが初期のものしか使えない。こんな所だろう。
あとは部下達が偵察に行っているらしいので、小屋の中で待つことにした。
ペペロンは小屋に入りイスに座る。ペペロンの傍らにララが立つ。
傍らに立つララを見て、彼女はNPCではもうないのだな、とペペロンは思った。
ララがそうであるなら、ほかの部下もNPCではない。心を持っているだろう。
マジック&ソードでは、部下の好感度が下がると裏切る事もある。だが、所詮ゲームなので、こつさえ掴めば部下の好感度をMAXまで上げ、維持する事は容易かった。
ララのようすを見る限り、自分への忠誠度はMAXのままであるとペペロンは分析する。恐らくほかの部下達も同じだろう。
ただ、今はMAXでもこれからはどうだ? 現実世界になった今では、マジック&ソードのやり方は通用しない。ペペロン自身にリアルでの対人スキルがあればいいのだが、悲しいかな、彼は友達が決して多いほうではない。むしろ少ないタイプの男だった。
果たしてこのまま忠誠度を保ったままいけるのか? ペペロンは疑問に思う。
何せ国を失ったのだ。国を失った事を部下達はどう思っているのか。こんな小さな小屋一つが拠点だという事をどう思っているのか。それで悪感情を抱かれ反乱を起こされたらかなりまずい。
1対1の戦闘では、どの部下と戦っても負けはしないだろうが、複数で来られるとまずい。高確率で敗北するだろう。
ペペロンは悩む。ゲームならこんなに悩まなくてもいいのにと、少し現実逃避したい気分になっていた。
ペペロンが悩んでいた時、いきなり小屋の扉が開かれ、
「あーペペロン様ー! 起きてるー!」
女の子の大声が聞こえてきた。
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