第12話 村になる

2020年12月20日

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「この村の者、全てを配下にか?」

「はい、そうでございます」

 ペペロンは少し驚く。この村からは少量の人材を取るつもりだった。とういうより、全員を配下にするという申し出が出るとは、はっきり言ってまったく思っていなかった。少なくともゲームでそんな申し出をされた事はないし、想定外な申し出である事は間違いない。
 申し出自体は悪い話ではない。村のエルフの数は約60人。これだけいれば拠点レベルが1から2に上がり、集落が村になる。食料的な問題も、優秀な部下達をもってすれば解決は可能だろう。
 ただ、一つ問題がある。

「その申し出を受けると、この村は放棄する事になると思うが良いか?」

 この村から、拠点まではかなり距離が離れている。二つを同時に維持する事は難しい。この村に拠点を移すということも、立地的な条件を考えるとメリットが薄い。現在拠点のある場所は、ほかに中々ない世界的に見ても良い土地だった。エルフたち全員を配下にするのなら、村の者達は全員、拠点に移動する事になるため、必然的にこの村は放棄する事になる。

「構いません……村民の命が1番大事でございますので……この村はほかから分かりにくい場所にあったので、襲われるのは遅かったのですが、この村以外のエルフの村……いや、劣等7種族の村は次々と集中的に襲われ奴隷にされていっているのです……」

 劣等7種……恐らく不遇7種族の事だろう。BBCは弱い村から徹底的に襲って、奴隷にしていっているんだな。
 しかし、弱い種族は当然安くなるだろうし、何故、集中して襲われているのかは分からない。

「我々エルフを含めた劣等7種族は、ほかの全ての種族から蔑視されております。なので不当に襲われても誰も助けにはこないのです……」

(なるほど。ローリスクで奴隷を獲得するなら、不遇7種族の奴らにしよう。みたいな感じなんだろう。ほかの普通の種族を奴隷にするには結構リスクがあるからな)

 とペペロンは納得する。

「あの先ほど7種族の救世主とおっしゃっておられましたが、ペペロン様は我々のような劣等7種族を助けておられるのですか?」

「そうです。ペペロン様は偉大なお方でございます。我々のように蔑まされて来た者たちの唯一の希望なのです」

「そ、そうなのですか」

「それといいですか? 我々は劣等7種族などではありません。
 栄光の7種族グロリアセプテムです。その呼び方はもう二度としてはいけませんよ?」

「グ、栄光の7種族グロリアセプテム……」

 ルーシーは感動したような表情を浮かべる。

「今深くペペロン様に心服いたしました。どうか村の者たち全て、ペペロン様の配下に加えていただけるとありがたいです」

 ルーシーは跪きながら懇願した。
 断る理由は無い。ペペロンの返事は決まっていた。

「よいだろう。お主ら全て、我が配下としよう」

 こうしてエルフたち全62名が、ペペロンの新たな配下に加わった。

 ○

 アーシレス村から拠点に帰るのだが、かなりの時間を要した。
 元々、ペペロン、ララ、ファナシアの3人で行ってもそれなりに時間がかかっていたが、エルフ達を連れるとあまり早く移動できないので、余計に時間がかかった。
 2日くらい歩いてようやく拠点に到着した。

 拠点に着くと、かなり家が建っている。留守番組みがかなり頑張った結果だろう。

「おかえりなさいませ」「おかえりっす」「おけーりです」

 ノーボ、ガス、ポチの三人が挨拶をした。

「あ、おかえりなさい。研究は無事全て終わりましたよ」

 研究を終わらせたエリーもいた。

「そうか。皆ご苦労だったぞ」

 ペペロンがそう言って、拠点に帰還した。その直後、

『拠点レベル1上昇。集落から村になりました』

 とペペロンの頭の中に声が響いてきた。そして、拠点の小屋の前にある地面が、光を放ち出し、そこから宝箱が出現した。
 ここはゲームの時と同じなのか、とペペロンは思う。

 これは、拠点レベルが上昇した時に起こる現象だ。エルフ達を連れてきて条件を満たしたことで、集落から村に拠点レベルがアップしたのだろう。あの宝箱の中には、拠点にある拠点主住居を改築するための設計図が入っている。拠点主住居とは最初にあった小屋のことだ。あれを改築する事で、村なら村長の屋敷、町なら町長の屋敷、そして都市なら城に改築する事が出来るようになる。拠点レベルが国なら巨城にまで改築する事が出来る。
 この拠点主住居を改築する事で得られるメリットは、まず改築することが次の拠点レベルに上げるための条件となっていため、村を町に、町を都市にするには、必ず改築しなくてはならない。それ以外にも、拠点にくる旅人が増えたり、配下希望のものがやってくるようになったりもする。
 それなりにメリットは多い。

「おー、拠点レベル上がったっすね。よく見ればなんかすげー数のエルフ連れてきてるっすね」

「これはまた多いなぁ。これ食料持ちますかねぇ?」

「現状では難しいだろうから、皆、急ピッチで畑を作り、狩りを行い食料集めをしてくれ」

「「「了解しました」」」

 ペペロンの命令で一斉に作業を開始する部下達。

 食料に関しては、大物のモンスターでも何体か倒せば十分だろうと、ペペロンは思っていた。
 ちょうどエリーがブリザードの魔法の研究を終わらせたので、ブリザードが使えるようになっている。
 ブリザードは氷属性の魔法で、周囲のものを凍らせたりする効果がある。食料の保存をするのにも使える魔法である。
 こうすれば食料を集めるのは簡単だが、主要の部下である者たちに、いつまでも食料集めをやらせるのもよくない。畑をいっぱい作り、あとはエルフたちに農業を任せれば狩りに行かなくても全食料をまかなう事が出来る。それ以上に、余った食料を売って金にする事もできる。
 1度野菜が実るまでは、狩りで得た食料で生きていく必要があるが。

 最初の方針を決め、その方針通りに部下達は仕事をし、20日後ほどで畑から野菜が収穫できるようになった。これで無理に狩りに行かせる必要も無くなった。とペペロンは思った。

 拠点が村まで発展したら必ず来る奴らの存在をペペロンは完全に忘れていた。


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