第10話 開戦
盗賊の首を刎ね飛ばし、血が噴き出す。コロコロと首が地面に転がる。
ペペロンはそのようすを極めて冷静な表情で見ていた。
(やはりスキルによって動揺しなくなっているのかな。マジック&ソードの世界観はかなりバイオレンスだから、殺しをせずに征服なんて無理難題なんで、殺しても平気なのは良いことなのか?)
殺しても心が動かないのは結構気味が悪かったが、ペペロンは前向きに受け止める事にした。
「金目の物があれば取れ。死体は邪魔だから焼却処分するんだ」
「了解しました」
そう命令をして、ペペロンは、ファナシアとララを伴って、当初の目的である配下増やしに行った。
○
「拠点からだいぶ北に行った所の山の麓、分かりづらい場所にエルフの村があったはずだな」
「アーシレス村ですね」
「じゃあ、そこにいこー」
ペペロン達はエルフの村に向かって、そこで移住志願者を募集する事にした。
北にアーシレスという名のエルフの住む村があるので、そこまで向かう。
それなりの距離を移動する。村まで結構遠い。移動速度が常人より圧倒的に速いペペロン達だったが、昼に出発したら夕方になっていた。
「この辺りにあったはずですが。私は来たことがあるので、見覚えがあります」
ペペロンはマジック&ソードかなりやりこんでいるとはいえ、その全ての場所を正確に記憶しているわけではない。世界が広すぎる上、村の数など馬鹿みたいにあるから、覚えようと思っても全てを正確に覚えるのは無理なのだ。
アーシレス村での人員募集は全てララに任せていたので、あるという事は知っていても、詳細な位置までは覚えていなかった。
ペペロンはララの記憶を頼りについていく。
「あ! ありました。ここです」
村の入り口が見えた。門がある。
「やっとついたー。お腹へってたんだよねー」
ファナシアは腹を抑えながら言った。
移動している最中に発見したイノシシを、昼に焼いて食べたのだが、それでもファナシアは腹が減っているみたいだ。かなり食欲が旺盛なようだ。
ペペロン達は村に入るため門に近づく。だが、何やら村のようすがおかしい。
「キャー!」「やめろー!」などと、悲鳴が聞こえてくる。
良く見れば、村から煙が立ち上っている。
何事かと思って見てみると、エルフたちが何者かに襲われていた。
「なっ!!」
ララは怒りと驚愕で顔を歪ませる。ペペロンはあくまで冷静に状況を分析する。
殺されている者は少ないようだ。縄で縛られている。どうやら奴隷として捕まえにきたようだ。
良く見れば襲っている連中は、全員が頭に黒いのバンダナをつけている。そのバンダナに髑髏を象ったマークが描かれていた。
(あれは、『BBC』の奴らがつけている、バンダナだよな)
ペペロンはそのバンダナに見覚えがあった。
あれは『ブラック・ブラック・カンパニー』通称BBCに所属している者が身につけているバンダナだ。
BBCはマジック&ソードの世界全土で、人身売買、麻薬販売、違法魔法書販売、暗殺、窃盗、賭博、誘拐、密売、さまざまな犯罪を生業にしている組織である。
世界最大の犯罪組織で泣く子も黙ると恐れられている。
恐らく今回はエルフ達を捕らえて、奴隷として売るつもりだろう。
正式な形式に基づいて奴隷にするのは合法とされているが、金に困っておらず罪を犯したわけでもない者たちを強引に捕らえて奴隷とするのは、犯罪行為とみなされている。今回は完全に犯罪だろう。
強引に奴隷にしたものでも普通にかなり需要はある。売ればそれなりの値段になるし、労働力にして働かせる事も出来る。とにかく金になる事は間違いない。
ペペロンは、マジック&ソードで犯罪者になるプレイもしたこともある。
そこでBBCに所属し、そこから成り上がってBBCの頂点になったことがある。そのため、結構BBCには詳しかった。
(BBCとは、現時点で関わり合いになりたくないな)
ペペロンはそう思っていた。BBCに目をつけられると、傭兵どもが拠点に攻めて来たり、暗殺者に狙われだしたりと、面倒なことが多い。世界中にアジトを持っているので、簡単に撲滅することも出来ない。ペペロンとしてもまだ拠点レベルが村にもなっていない段階で、相手をしたくはない面倒な連中なのだった。
(ここのエルフ達を配下に出来ないのは痛いが、ここは仕方ないか)
エルフ達を配下に出来なくなるというデメリットを考えても、BBCに睨まれるリスクは回避すべきだとペペロンは判断する。
ペペロンはララ達に撤退するよう命令を出そうとした、その時、
「やめなさい!!」
ララが大声で叫んだ。
エルフの村を襲っていた、BBCの連中が一斉にこちらに注視しだす。
「あ?」「なんだあいつら?」「エルフと小人とハーピィー?」「ゴミ種族じゃねーか」
BBCの連中がそう言う。
(いや、ちょ、ラ、ララさん? 何してんの? やばいよ。完全に注目集めてるじゃん)
注目を集めてペペロンはかなり動揺する。そんなペペロンの様子などお構いなしに、
「ここにいる方は、我らが大英雄ペペロン様です! エルフを含めた7種族に対する暴力行為は絶対に見過ごしません。今ここでやめないというのなら、成敗いたします!」
ララは高らかに宣言した。
――や、やりやがった……やっちまったよララさん。
ララが宣言した瞬間BBCの連中から、
「ガハハハハハハハハ! 大英雄!? あの、あのチビが!」
「笑わせるなよ! 成敗? 出来るならやってみろよ! ハハハ」
「ハハハハハハハ、雑魚種族どもの癖に、よく言えたなぁ!」
と思いっきりバカにするような笑い声が響く。
その笑い声を聞いたララは、
「忠告はしましたよ」
物凄く低い声で言った。
(こ、これは……もう逃げるわけにはいけないよな……うそーん。こんな初期の段階でBBCに目つけられなきゃ駄目なのか?)
ここで逃げるなんて無様な行動を部下の前でするわけにもいかない。仕方ないから戦うしかない。
(……皆殺しにして誰がやったか分からないようにすれば大丈夫か? ゲームでは攻撃した瞬間、皆殺しにしようがどうしようが、関係の悪化は避けられなかったが、これは現実。誰がやったか分からないようすれば、何とかなるかも……?)
ペペロンは覚悟を決めて、
「ララ、ファナシア、殲滅する。1人たりとも逃がすな」
「はっ」
「りょうかーい」
そう命令した。
BBCとの戦いが始まる。
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