38.出発

2020年12月20日

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「あの、それでは皆さん行ってらっしゃいませ」

 俺たちは準備を終えてヴァーフォルを出るとき、リコに暫しの別れの挨拶をした。
 リコはまだ街の復興で色々やることがあるので、俺たちの旅に同行することは出来ない。リコは寂しそうな表情で俺たちを見送る。

「まだ俺の刻印のことについても図書館で調べないといけないから、またここには戻ってくる」
「はい、待っていますね」

 最後リコは笑顔で俺たちを見送ってくれた。

 ルクファナの森のあるクレンフォス王国までの道のりは遠いらしい。

 移動は馬車などは使わず徒歩で行く。

 馬車は金がかかるというのもあるが、俺とレーニャなら生身で行っても早いという理由がある。メクは遅いが、俺に背負われているので、あまり問題はない。

 道中魔物を倒して、ステータスを強化できるというメリットもある。

 ただとにかく遠い遠い言うだけあって、本当に遠かったのでクレンフォス王国に着くまでに、60日は費やした。

 流石に60日間も移動し続ければ、疲労もたまる。

 ちなみに道中倒した魔物はすべて吸収し、これで俺のステータスは、

 名前  テツヤ・タカハシ
 年齢  25
 レベル 1/1
 HP   2302/2302
 MP   1765/1765
 攻撃力 1455
 防御力 1533
 速度  1456
 スキルポイント 2

 スキル【死体吸収】【鑑定Lv5】【隕石(メテオ)Lv8】【強酸弾(アシッドショット)Lv3】【雷撃(サンダーショック)Lv4】【吸い取り糸(アブソーブスレッド)Lv2】【炎玉(フレイムボール)Lv7】【弱点結界(コア・ガード)Lv2】【闇爆(ダーク・ブラスト)Lv10】【解放(リリース)Lv2】【伝説化(レジェンドモード)】【再生(リジェネ)】【毒手(ポイズンハンド)Lv2】
 耐性 【毒耐性Lv5】【雷耐性Lv5】【炎耐性Lv5】【氷耐性Lv3】

 こうなった。
 初期から考えれば信じられないほどの躍進ぶりだな。
 スキルは【闇爆(ダーク・ブラスト)Lv10】を積極的に上げた。
 一番威力が高いのは【隕石(メテオ)Lv8】であるが、少し使い勝手の悪いところがあるので、【闇爆(ダーク・ブラスト)Lv10】を上げることに決めた。
 Lv10ともなると相当威力が上がる。多少強力な敵でもこれなら確実に一撃で葬り去れるだろう。

 それと【毒手(ポイズンハンド)】という、触ったものを毒で侵すスキルを獲得した。
 これ自体はそこまで強いスキルでもない。わざわざ毒を使って倒さなければならないほどの敵と出会っていないというのもあるが。

 そして問題がひとつあり、この【毒手(ポイズンハンド)】を獲得した後、もう一つスキルを獲得できそうになったのだが、その時これ以上スキルを獲得できない的なことを言われたのだ。

 メクに尋ねてみると、個人差はあるが獲得できるスキルには上限があるらしい。
 上限に達していても新しいスキルを習得したい場合は、上限を開放するポーションや、現在覚えているスキルを忘れさせるポーションなんかを使うのが有効だそうだ。

 どちらも高価だという。
 ただ忘れさせるポーションは買えないレベルではないし、現時点で使っていない不必要なスキルもあるので、今度金でそれを買うつもりである。

 そして俺たちはクレンフォス王国を歩き続けて、一度王都に立ち寄ってみた。

「ここがクレンフォスの王都かぁ……」
「アタシみたいなのがいっぱいいるにゃ」

 そこら中、獣人だらけの町である。
 ヴァーフォルには色んな種族がいたので、当然獣人もいたのだが、ここまでの数はいなかった。

 人間が来るのは珍しいのか、俺は結構見られる。
 ちなみにメクは俺に背負われているので、現状ただのぬいぐるみしか見えないという状態だ。

 何というか凄く異世界感にあふれる街なので、本来ならばもっと観光したいところだが、今日は立ち寄っただけなので、一泊したらすぐに発つつもりだ。

「何だか懐かしい気持ちになるにゃ。どうしてかにゃ? 初めて来る街なのに」

 レーニャが街並みを見ながらそう言った。

 そう言えばレーニャは死の谷に落ちる以前の記憶がないと言っていたな。
 もしかしたらこの国の出身だったりするのだろうか。

「ふむ、そう言えばレーニャは記憶がなかったのう。お主の記憶も取り戻さねばなるまいか」
「え? 別にいいにゃ。記憶なんてなくても、テツヤと師匠といればいつもたのしいにゃ」

 そのレーニャの言葉に嘘はなさそうだった。過去の記憶にはまるで興味を抱いていない様子である。

「いや、そういうわけにもいかんじゃろう」
「そうだよな……もしこの町に何か手掛かりがあるのなら、探してみたらどうだ?」
「本当に思い出さなくてもいいのにゃ~。今回は師匠を元に戻す旅だから、思い出すにしてもあとにするにゃ」
「……まあ、それもそうじゃな。じゃが今回の旅が終わったら、またここに来るとしよう」

 レーニャの記憶を取り戻すため、町を散策してみることは今回はやめにして、ルクファナの森の場所を尋ねる。

 王都から少し南に行った場所にある、トーカと呼ばれる村のすぐ近くにルクファナの森はあるらしい。

 俺たちは王都の宿に泊まり、トーカまで向かった。

 早朝、王都を出発してトーカに向かって歩いていく。

 それなりに整備されている道を歩いたため、道中魔物とは出くわさなかった。
 早くメクの呪いを解いてあげたいので、なるべく早く行きたかったのでわざわざ魔物を探して倒すという真似もしなかった。

 トーカまではあまり時間はかからず、日が暮れる前には到着していた。

 到着して最初にのどかな村だな、という感想を抱いた。

 獣人の村だが、レーニャのようなケットシ―は一人もおらず、ほぼ狼の獣人ライカンスロープが住んでいるようだ。

 村人たちから、森についての情報を聞き出すことにした。

「少しいいだろうか?」

 村を歩いているライカンスロープの男に声をかける。

「何だ? 人間か? 人間がこの村に来るのは珍しいな」

 人間はやはりあまり来ないようだったが、そこまで敵対心を持たれているというわけでもなさそうだった。

「ルクファナの森というのは、この村の近くにあるのか?」
「あるぜ。ここから北側にある森だな。だがあそこは危険な場所だから行かない方がいいと思うぜ」
「危険なのか?」
「ああ、この村の連中は誰も立ち入らないな。魔物のレベルがとにかく高いんだ。あんたもよほど腕に自信があるというわけじゃない限り、入るのはやめておいた方がいいぜ」

 腕にはよほど自信があると言ってもいい。
 危険でも入るのは、何の問題もない。

「ルクファナの森に生命の魔女がいるという話を聞いてここまで来たんだが、心当たりはないか?」
「……生命の魔女? そう言えば噂だけど、森には魔女の家があるとか聞いたことがあるようなないような。でも詳しくは知らん。だって入ったことないからなルクファナの森には」
「そうか」

 ほかの者たちも聞いてみたが、ほとんど同じ反応だった。

 全員に話しかけるのも、時間がかかるので次は知っている人に心当たりがないかを尋ねることにした。

 すると、

「村長ならもしかしたら何か知っているかもしれないわ。今はおじいちゃんなんだけど、昔は強くてルクファナの森に何度か行ってたらしいから。確か魔女の話も村長がしてたと思うわ」

 村長の情報を聞くことが出来た。
 住んでいるところを聞いて、俺たちは村長の家へと向かった。

「ここか」

 一際大きな家に、村長は住んでいるようだった。

 家の近くを掃除している女性がいたため、俺はその人に話かける。

「ここに村長が住んでるって聞いてきたんだけど……」
「人間……? 珍しいわね。村長に何か用?」
「ちょっと話が聞きたくて、ルクファナの森に棲んでいる魔女について話を聞きたくて……」
「魔女? そういえばそんなこと昔聞いたことがあったわね。ああ、私は村長のサマンの娘のキャンシーよ。ちょっと待っててね」

 キャンシーは家の中に入る。
 しばらくして戻ってきて、

「話してくれるって。本人も魔女の話は誰かに聞いてもらいたいと思っていたみたいね。あんまり村の住民は興味持ってくれなかったみたいだから」

 そう言った。
 話してくれるようである。

 俺たちは家の中に入る。

「お主が魔女について聞きたいと思っておる人間か!!」

 入った瞬間、怒鳴り声が飛んできた。

 顔にいくつものしわがある、ライカンスロープの老人がこちらに向かってきた。

「早速わしの話を聞くといい」

 自己紹介も何もせず、いきなり話を始める。
 どうもかなり話したかったらしい。

「わしが魔女と会ったのは、数十年も前の話じゃ。こう見えて昔は強くてな。ルクファナの森におる凶悪な魔物どもも、わしにかかれば倒すことが出来たのじゃ。今は無理じゃが。その日も森で狩りをしており、獲物を狩り終えた時、家を見つけたのじゃ。何でこの森に家が? と思ったな。当然じゃろう。わし以外森に入るものはほとんどいなかったからのう。気になって調べてみると、人が住んで居る痕跡がある。昔誰かが住んでいた家とかではなく、現在も誰かが生活しておるようじゃ。驚いたわしは家の中に入ると、そこに綺麗な女がおった。種族は獣人ではなく、魔人じゃったな」
「魔人?」
「高い魔力を誇る強力な種族じゃ。角が生えておるのが特徴じゃな。そいつは自分を生命の魔女と名乗った。中々気さくな人物で、すぐに仲良うなった。次に森に行ったときにその家があった場所に行ってみたら、家はあったのじゃが、魔女はおらんようになっておった」
「いないのか?」
「そうじゃ、あれ以来一度も会えておらん。もう一度会えたらいいと思っておるのじゃがな……」

 どうやら今は住んでいないようだ。

「ふむ、じゃが家はあるんじゃな? もしかしたら今どこにいるのか手掛かりがあるかもしれんぞ」
「手掛かりか……わしは失礼じゃと思って、中はあまり探さなかったがな。お主らは何で魔女に会いたいのじゃ?」

 俺はメクの事情を話した。

「珍しい獣人の一種と思っておったが、呪いでそんな姿になっておったのか。しかし、あの魔女がそんなことをするとは思えんがのう……なんかの間違えじゃないか?」
「確かに本にぬいぐるみにすることがあると書いてあった。まあ、間違いの可能性は否定できんがのう。とにかくあって話を聞かんことには、本当なのかどうか判別はつかん」
「それもそうじゃが……」
「それで、その生命の魔女がいる場所は森のどの辺になるんだ?」
「お主ら森に入る気か? 腕に覚えはあるのか?」
「ああ、大丈夫だと思う」
「自信満々じゃな。まあ、止めはせぬが。わしが案内出来れば早いのじゃが、この老体なので無理じゃな。ルクファナの森の中央には一際巨大な木がある。外から見てもすぐに分かるほど高い木じゃ。まずはそこに行って、その樹から西側に行けば、家はあるはずじゃ」

 場所を教えてもらった。
 お礼を言って、俺たちはルクファナの森へと向かった。

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