35.vs勇者オオシマ

2020年12月20日

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 剣を抜いたオオシマは、まずは俺に斬りかかってきた。

 はっきり言って遅い。敵の表情から見て、恐らく本気で攻撃してきてはいないだろう。俺が限界レベル1だということで、相当油断しているようだ。

「まずは一匹」

 この攻撃は避けるまでもない。右肩で受け止めた。ダメージはゼロ。

「あ?」

 攻撃の手応えがおかしいと気づいたオオシマは、呆気に取られたような表情を浮かべる。
 俺は剣を抜き、オオシマの心臓を狙って攻撃した。

「うお!」

 俺の剣はヒロシの鎧に阻まれた。やけに硬い鎧だな。俺の攻撃を受けても、貫かれないとは。

「なんだこいつレベル1の癖に」

 予想が外れて、だいぶ焦っているようだ。

 レーニャが【獣化(ビースト・モード)】を使用し、オオシマ後ろから飛びかかる。

「にゃあああああ!」

 鎧のない場所をするどい爪で切り裂こうとする。
 不意の攻撃だが、オオシマは間一髪で回避する。
 回避したあとレーニャを斬ろうとするが、レーニャは攻撃が避けられたと思ったら、すぐにオオシマの剣の間合いから離れていたので、斬られることはなかった。

「剣を強化せよ!」

 メクが魔法を使った。
 俺の持っている剣が赤い光に包まれる。

 初めて見た魔法であるが、呪文からどんな魔法か大体想像はつく。恐らく剣の斬れ味を鋭くする魔法であろう。鎧を斬ることが出来なかったのを見て、使ってくれたのだと思う。

「鎧を脆くせよ!」

 さらにメクは魔法を使用した。今度はオオシマの鎧の耐久力を下げる魔法か。
 しかし、俺の剣のように光に包まれたりする事はなく、何も起こらない。

「やはり効かぬか」

 どうやら失敗したようだ。
 オオシマの鎧には、魔法を寄せ付けない、特別な力があるようだった。

「ったくレベル1が弱くないってどういうことだよ。限界レベルが低いやつは必ず弱いんじゃなかったのかよ。あいつら嘘教えてたのか? まあいい。少しは本気(マジ)で戦うか」

 オオシマはそう言って、今度はさらにスピードを上げて攻撃してきた。

 とはいえ、正直、速いとは思わない。この程度の速度なら、避けるのも受け止めるのも楽勝である。

 俺は攻撃を避けて、それからオオシマの頭に斬りかかった。

 攻撃は当たった。しかし、斬れてはいない。ガァン!! というまるで金属にでも当たったかのような音が響き渡った。

「いてっ!」

 オオシマは額を抑えながら後退する。

 何だ今の硬さは。

 俺はオオシマのHPを見る。

 1521/1587

 あまり減っていない。
 速度重視で斬ったから、それほど凄まじい威力はなかったとは出ていなかったとはいえ、この程度のダメージとは。

 こいつ防御力に特化しているタイプなのか。

 まあ、防御力はすごくても、ほかの能力はそれほどずば抜けてはなさそうだ。
 これならしっかり戦っていてば勝てるだろう。

「っち、しゃーないあれを使うか。【伝説の勇者の盾レジェンド・シールド】」

 オオシマがそう言った瞬間、光り輝く盾が出現した。オオシマはそれを手に取った。

 あれが奴が勇者として持っているスキルか。

 先ほども俺の攻撃を受けても、そこまでダメージを受けなかったし、やはりオオシマは防御力が高いタイプの勇者なのだろう。

「あんまりかっこよくねーんだよな盾って。正直剣でぶった斬りまくる方が、俺としては好きなんだけどな」

 本人の性格としては攻撃型なのかもしれないが。

 勇者が出してきた盾だし、ただの盾とは思えない。慎重に攻めないとな。

 そう思っていると、レーニャがオオシマに飛びかかる。

 オオシマは俺に向かって盾を向けているし、レーニャは気付かれないよう背後から攻撃したので、オオシマはレーニャの攻撃に反応できていない。

 これは攻撃が通ると思ったら、そこでオオシマは常人離れした反応を見せて、レーニャの攻撃をガードした。

「にゃ!!」

 すると盾を攻撃したレーニャが後ろに吹き飛ぶ。
 ダメージを受けているみたいだ。鑑定で見てみるとHPが20ほど減っている。オオシマは攻撃した素振りなど一切見せなかった。恐らく攻撃を反射する力があるのだろう。

 しかし、レーニャの奇襲を止めた超反応。
 元々オオシマはあれほど早く動けるのか、もしくは盾を出したおかげで、あれだけの動きが出来るのか。

 メクが呪文を唱え始める。結構長い。
 何の魔法かは分からないけど、高威力の魔法だと思う。

 オオシマは呪文を唱え始めたメクを攻撃しに行く。俺はそれを止める。盾を出す前よりもスピードが上がっているように見える。剣の威力も上がっている。恐らく気のせいではなくステータスが強化されているのだろう。オオシマのHPを見てみると、1766/1776となっていた。限界値が、増えているし、HPが回復しているみたいである。タケイの【再生リジェネ】のような効果もあるのか。

 何度か切り結ぶと、オオシマは盾を構えてきた。攻撃しそうになったところで一度止める。反射する効果があるのだった。

 攻撃を誘ったのを無視されたオオシマは、舌打ちをして後ろに下がる。

 確かにステータスは上がっているが、それでも全然対応できるレベルだ。動きも俺より遅く、攻撃力もそこまで脅威があるわけではない。

 ただ反射機能のある盾は厄介である。敵の攻撃力がさほど高くなくても、防がれて反射されたらこちらがダメージを受けてしまう。オオシマは素の防御力も高いので、半端な攻撃でダメージを与えることは出来ないだろうから、本気の攻撃をする必要があるしな。

 メクが呪文を唱え終えたあと、

「レーニャ、テツヤ! 離れるのじゃ!」

 大声で指示を出してきた。
 指示に従い、俺とレーニャは後退して距離を取る。

 すると、空から燃えている巨大な岩が落ちてきた。

 メクの指示はオオシマも聞いていたはずだが、彼は全くその場から動いていなかった。盾で防ぎ切れる自信があるのだろう。

 オオシマは盾を岩が落ちてくる場所を予測して構える。

 盾に当たって隕石は跳ね返っていくと思いきや、当たる直前に爆発した。

 なるほど、広範囲にわたる攻撃なら、盾で防いでもダメージは入るだろう。

 爆発で土煙が上がり、それが徐々に晴れて、オオシマの姿が映る。

 無傷だった。

 鑑定で見てもダメージは受けていない。

「ふむ、威力が足らんかったかのう」

 爆発の威力が足りなくて、ダメージがゼロだとメクは思ったみたいだ。
 しかし、食らっていたら1くらいダメージを受けていてもいいと思うがな。

 あの盾には、まだ何か効果があるかもな。

 とにかくあの盾に防がれないように、スピードを活かして攻撃するか。

「疾風の如く速くなれ!」

 メクが呪文を唱えた。
 俺の全身に緑色の光が纏った。

 これも初めて聞く魔法である。
 恐らくかかったものの移動速度を上げる魔法だろう。

 オオシマを攻略するには、盾を壊すのではなく速く動いて直接奴の体に攻撃を入れるのが、やはり効果的である。メクが魔法を俺にかけたということは、俺とメクの考えが一致したと考えていいだろう。

 メクは同じ魔法をレーニャにもかけた。

 俺は全力で動き、オオシマの後ろに回り込んでみる。

 かつてないほどの速度で動くことができた。

 オオシマは、俺の動きを全く捉えることが出来ていない。
 これなら攻撃を当てられると確信した俺は、オオシマの背中に斬りかかる。

 これは確実に当たる、そう思った直後。

 先ほどレーニャの攻撃を防いだ時と同じく、物凄い反応を見せて、当たる寸前で俺の剣を防いできた。

 剣での攻撃が反射され、肩の辺りに斬撃が入る。

「ぐっ!!」

 俺も防御力が高いタイプなので、斬れはしなかったのだがダメージは受けた。肩に痛みが走る。

 俺にはタケイを倒した時に得た、【再生リジェネ】がある。痛みはすぐに和らいでいった。

 しかし、あの超反応。
 流石におかしい。

 あれだけの速度が出せるのなら、もっとそれを活かして攻撃すればいいはずだ。しかし、しないということはあのスピードになるのに、条件があるのだろう。

 恐らく攻撃か。
 あの盾には攻撃が来た場合、本人の意思とは反して超速で攻撃を防ぎに行くみたいな機能が付いているのかもしれないな。

 そうなると、面倒だ。
 あのタイミングでも当てられないとなると、オオシマに攻撃を当てるということは、今の俺には不可能という事になる。

 あれを……使うしかないか。【伝説化レジェンドモード】を。

 俺は正直、タケイから得た能力はなるべく使いたくないという感情がある。
 あんな奴の能力を使うなんて、何とかく気分が悪く感じるからだ。まあ、悪いのはタケイであって、スキルではないんだけどな。

再生リジェネ】は、俺の意思に反して発動するため、止めることは出来ないから、使わざるを得ないのだが、【伝説化レジェンドモード】は使わないなら使わなくていいので、なるべく使わずに戦いたいのだが、この場面は使うしかないだろう。

 個人的な気分よりも、この戦いに勝てるかだ。
 負けてしまったらメクとレーニャが危ない。
 やるしかないんだ。

 俺は使いたくないという気持ちを封じ込めて、【伝説化レジェンドモード】を使用した。

 このスキルは使用しても、周りから目に見えて分かる変化は起こらない。

 使用者である俺は使った瞬間に、このスキルの効果を実感していた。

 とにかく凄まじい力が湧き上がって来たのだ。

 ステータスを見るまでもなく、遥かに自分が強化されたということが分かる。

 今の俺ならば、奴の盾に反応できない速度で動けるかも知れない。

 よし、やろう。

 俺は剣を構え、全力で動き始める。

 今まではありえない速度で、俺は動く事が出来るようになっていた。

 まずは正面からオオシマに向かっていき、近づいたらすぐに方向転換をしてオオシマの後ろに回り込む。

 俺は剣でオオシマを斬った。

 盾は超反応をするのだが、予想どおりこの状態の俺の速度にはついていけていないようである。

 剣はオオシマの肩に命中した。

「っぐ!」

 相変わらず丈夫なやつで、結構全力で斬りかかった割に、それほど攻撃は効いていないようにも見える。斬れて血が出ているというわけでもない。鑑定してHPを見てみたが、やはりそれほど減ってはいない。

 剣での攻撃ではなく、スキルで攻撃した方が効くかもな。攻撃が当たる間合いまで入って、【闇爆ダークブラスト】を放つ。

「ぐあああ!!」

 顔に命中、先程の剣撃よりかは効いているようだ。【闇爆ダークブラスト】は、スキルポイントをだいぶ使い、スキルレベルを7まで上げている。そのため攻撃力がかなり上がっているため、そのおかげでオオシマにもだいぶダメージが入っている。HPは150くらい減っていた。

 幸いオオシマには、タケイにあった【再生リジェネ】がないようだ。ダメージを自動的に回復していない。

「クソが……てめーいきなり速くなりやがって……駿みてーな能力でも持っているのか? 駿の能力には制限時間があったが……まあ、奴のにもあるか。なかったらずっと使ってるはずだしな」

 このスキルは自分で使うのは初であるので、制限時間の存在は知らなかった。

「ふん、俺の盾には制限時間はねー。あくまで盾はダサい感じがするから、普段は出してないだけで、別にずっと出していてもいいんだ。お前のスキルの効果が切れるまで防ぎ切ったら俺の勝ちだ。お前は俺に攻撃する手段がないんだからな」

 確かに、【伝説化レジェンド・モード】が切れれば、攻撃を当てる事は困難だ。
 ただ、相手も素の俺に攻撃出来ない程度の実力なので、勝ちとはならないと思うが。まあ、オオシマを倒すという目標が達成不可能になった時点で、実質的に負けであるがな。

 制限時間がどれだけあるかは不明であるが、スキルの効果が切れるまでに奴を倒さなくては。

「にゃー、戻ったにゃー」
「テツヤ、後は頼んだぞ」

 レーニャとメクが元の姿に戻った。もう二人は戦えない状態である。自分一人で倒さないといけない。

 俺はそれから何度も攻撃をした。

 攻撃が通る可能性は100%ではなく、たまにオオシマの盾に防がれることもあった。当然そうなると【闇爆ダークブラスト】をその身で受ける羽目になる。【伝説化レジェンド・モード】で防御力が上がっているとはいえ、かなりダメージを受ける。

 ただ、オオシマに攻撃が入る場面の方が多かった。

「……ク、クソ」

 十発ほど攻撃が入ると、奴のHPも残りわずか。
 まだ【伝説化レジェンド・モード】は続いている。

 これで決める。

 俺は全速力で動き、オオシマの背後に回り込む。

 敵の反応より、俺の方が速い。

 オオシマの顔に【闇爆ダークブラスト】を叩き込んだ。

「ぐ……は……」

 オオシマのHPはゼロになり、その場で倒れ込んだ。

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