28.スキルの効果
その言葉を聞いて、私は驚愕します。
アイサのステータスを見ました。
レベルは19/34となっていた思います。
元々のアイサのレベルは知らなかったので、その時は上がったのかよく分かりませんでした。
「本当に上がったから、見てて!」
もう一度、アイサは赤い水を舐めます。
すると、どうでしょう。
アイサのステータスに書かれているレベルが、19/34から21/34と変化しました。
「こ、このお水凄いよ! 全部飲めば最大レベルまで上がるでしょ! リコおねちゃん飲んでみて!」
アイサはコップを取ってきて、私に手渡しました。
私はそのコップで、赤い水を掬い、そして飲みます。
味は非常に美味しかったです。甘いイチゴジュースのような味でした。
コップ一杯分、飲み干したら私は何やら、体の奥底から物凄い力が湧き出してくるような、そんな感覚を味わいました。
そして、
『レベルが1から41へと上昇しました』
と機械のような音が響いてきました。
レベルが上がる時の音声はこの時初めて聞きました。
あ、テツヤさんはレベル1より上には、ならないので聞いたことありませんでしたか。レベルが上がると、こうやって声が聞こえてくるんです。
へー、テツヤさんがスキルで能力を上げた時のみ、声が聞こえるんですねー。よく考えれば不思議ですね。誰の声なんでしょう。神さま?
すみません、話が逸れてしまいましたね。
コップ一杯分、全体量の半分くらいでここまでレベルが上がったので、それはもう仰天しました。
もう半分は、アイサが飲んで、彼女は限界レベルまでレベルが上がりました。
「これ全部飲んじゃったらどうなるんだろう?」
「もう一回出せないの?」
「そうだね……【虹色の神水】!」
と言いましたが、赤い水は出てきません。というか出ていた水が全て消えました。
もう一度言うと、赤い水以外は全て、出てきました。
「も、もしかして、一度飲んじゃったらもう飲めないの……?」
「そ、それは大変な事を……ん?」
よくよく見たら、先程まで赤い水があった場所に、小さな小さな赤い水がありました。
本当にちょっとずつですが、水は膨張していました。
これは、あとで知ったのですが、水は出していない時でも増えます。全部飲み干してから、元の大きさに戻るまで、五日ほどかかります。
「ほかの水もどんな事が起こるか試してみようよ!」
「うん、そうだね」
アイサの提案に私は乗りました。
何だか自分にこんな不思議で強い力が備わっているなんて、ワクワクドキドキした事を今でも覚えています。
ほかの水も試してみました。
・赤
【効果】レベルが上がる
【味】イチゴ味
・オレンジ
【効果】二時間ほど、凄くパワーが手にできる
【味】みかん味
・黄
【効果】二時間ほど、凄くスピードが上がる
【味】バナナ味
・緑
【効果】二時間ほど、凄く防御力が上がる。
【味】キウイ味
・青
【効果】二時間ほど、凄くMPが上がる。
【味】ブルーベリー味
・藍
【効果】二時間ほど、凄くHPが上がる。
【味】ブドウ味
・紫
【効果】空腹をなくす。栄養もちゃんと摂取したことになるので、食べなくてもよくなる
【味】無し
こんな感じでした。
紫だけは最初お腹が空いていない状態で、飲んでみたので、味のしない無駄な水だと思っていたのですが、後に気づきます。
確か森に狩りに行った時、お腹が減ったので、食事を取ろうとしたときです。最初にアイサが喉が渇いたというので、使えないと思っていた紫の水を飲ませてあげたときに、気づきました。
ちょっと舐めた程度で空腹が癒えて、何も食べなくてよくなります。
味はしないので、やはり何か食べたくはあるのですが、それでもこの紫の水さえあれば、飢えなくて済むので、非常に安心です。
もっと早くにこれに気づいていれば、最初にあんなに飢えることもありませんでしたね。
それからしばらく暮らし続けます。
私のスキルのおかげで、だいぶ暮らしぶりは楽になりました。
強くなれるので、狩りもだいぶ楽になりますし、何も取れなくても、紫の水さえあれば、飢えはしのげるわけですから、私の能力は非常に役に立ちました。
それからある日、狩りに行っていると、何かがいきなり頭にぶつかりました。そこで気を失ったんですが、その時ですね、気づいたら右手の甲に刻印が刻まれていたのは。
もしかしたらその時、私を気絶させたのは、テツヤさんのおっしゃっていた黒騎士かもしれませんね。気絶してから特に後遺症もなく、それ以降、特に何もなかったので、かなり気味が悪かったですが、あまり深く気にしないことにしていました。
それから確かに、水の効力が上がった気がします。
そういえば赤い水の新しい効力が発見されたのも、あの後くらいでしたかね。
これは私、以外の者では出来ないのですが、赤い水を大量に飲むと限界レベルが上がるんです。
今の私は、限界レベルが48じゃなくて、もっと上になっています。73でしたか。レベルも同じ数字です。だから結構強いんですよ。
先程も言いましたが、不思議と私以外の者の限界レベルは上げてくれないんです。スキル使用者の特権みたいなものでしょうかね?
黒騎士の事は特に気にせず暮らしていました。
もしかしたらこのまま一生、このまま暮らすのも悪くないかも、そう思っていた時、
「リコ、お前さんはこの家から出て行った方がええぞ」
イザベラさんにそう言われました。
私はイザベラさんに言葉を聞いた瞬間、心臓が縮み上がりました。
何かしたのだろうか?
そもそも、この家にいるのが迷惑だったのだろうか?
嫌な考えが次々と頭に浮かんできます。
イザベラさんはそんな私の表情を見て、
「ああ、別にリコをこの家に置いておくのが嫌というわけではねー。勘違いさせて、悪かった」
と謝ってきました。
「あ、そうなんですか」
私はほっと胸を撫で下ろします。
「あれ? じゃあどうして?」
「お前さんが持っているそのスキル。そりゃあ、まるで神様にでも貰ったようなもんじゃ。そのスキルを持っているのに、こんな周りに誰もいない小屋にいるのは、あまりにも勿体ないじゃないかね、と思っただけさ。お前さんには、何かやるべきことがある。そんな気がしてならいのさ、あたしゃね」
イザベラさんの言葉を聞いて、私は返答に困ります。
何かやるべきことがある。
その言葉に心を揺り動かされていました。
アイサとイザベラさんと、一緒に暮らすのは悪くはありません。
しかし、異世界に来て以降、私にはテツヤさんを見捨ててしまったという負い目を、常に感じながら生きていました。
これから何をして生きていけばいいのか、考えた時、一人でも多くの人間を救う。それがテツヤさんを見捨ててしまったという罪を少しでも晴らすため、私に出来ることであると、その時は思いました。
とはいえ、この家にもお世話になり、アイサとイザベラさんとも、親しくなりました。お別れするという決断をするというのは、とても悲しいものです。
すぐには返答できませんでした。
「別に出たくないならここにいてもかまわねー。あんたがきて迷惑どころか、むしろええことしかなかったからね。じゃが、もし出ると決めたんなら、どうかアイサも一緒に連れていってくれねーか」
「え?」
その言葉は少し予想外でした。
「あの子は昔は町で暮らしてたんだがね。自由都市ヴァーフォルちゅう、ここから結構距離はあるデカい町さ。息子夫婦が死んだってんで、息子の知り合いがここまで連れてきたんだ。あの子が三歳くらいの時だったかね。それ以来、ここにずっと住み続けておる。かわいそうだとは思わんかね。ずっとあたしと二人暮らしで、友達もおらん、食うに困ってひもじい思いをすることだってあった。あたしゃ、ここでの生活しか知らんから、町に引っ越す事もでけん。あの子はもっとほかに人がおるところで、暮らすべきじゃと思うのじゃ」
「……でもアイサは幸せそうですよ」
「そりゃここでの生活しか知らんから、そう思うとるだけじゃ」
「イ、イザベラさんはどうするんですか。一人になってしまいますよ」
「ははは、あたしゃ、三十年くらい前、夫が死んでから、あの子が来るまでのおおよそ二十年間、ずっと一人じゃったよ。慣れておるから、何てことはないわい」
イザベラさんは、本当に何でもないという風に笑いました。
「それに、あんたのスキルの水は貯められるんじゃろ? 現に今樽一杯分くらいたまっておったはずじゃ。あれがありゃー、寿命までは良い生活が出来そうじゃわい」
【虹色の神水】はコップかバケツに移すと、浮力を失い溜まります。その後、その水を飲まなくても、新しい水が出てくるようになるのです。
限界まで大きくなったら、もうそれ以上増えません。そうなると増えない時間が勿体ないので、常に限界になったらバケツに移し、それを樽に移して保管してきました。
確かに結構な量、その時点ではあったと思うのですが、いつまで効果がもつかは分かりません。ただ勘で、ずっともつだろうとは思っていました
「あの、アイサの意見を聞かないことには……あの子が行くと言ったら、連れて行くのは構いません。もし私がこの家を出ることになったらの話ですけど」
「それでええ、あの子はあたしが説得する。最初は行かんというじゃろうが、本心では町で暮らしたがっておるはずじゃ。きっと最後は行くというじゃろう」
私はその話をしてから三日後、この家を出るということを、二人に告げました。
「えーーー! リコおねーちゃん、出ていっちゃうの!? やだよー!」
「アイサ! リコが決めたことに口出しをするんじゃないよ。この子の力はきっと色んな人の役に立つじゃろう。こんなところにおってはいかんのだ」
「……う、そ、そうだよね……あのスキル凄いもんね……この家にずっといるのは勿体ないか……」
最初は嫌がったアイサも、イザベラさんの言葉を聞いて納得しました。
問題はこれからです。
「リコおねーちゃん。この家を出ても元気でね。私絶対リコおねーちゃんの事、忘れないよ」
「何を行っておる。アイサもリコと一緒に行くんじゃ」
「へ?」
イザベラさんの言葉を聞いたアイサは、呆気にとられたような表情をしました。
「な、なに言ってんのおばーちゃん」
「聞こえんかったか? お前もリコと一緒にこの家を出て、町で暮らせというたのじゃ」
「そ、それは出来ないよ」
「なぜじゃ」
「な、なぜって、リコおねーちゃんに迷惑だし」
「リコは、アイサが行くというのなら、連れて行くのは構わんというたぞ」
その言葉を聞いたアイサが、私を見てきました。私は言葉を発さずにただ頷きます。
「お、おばーちゃんを一人には出来ないよ!」
「アイサ、お前はずっとこの家にいるつもりではないじゃろ? いずれは町に行かなければならん時が来るはずじゃ」
「そ、それはそうかもしれないけど……それは大人になってからで……」
「いや、今行くのじゃ。子供のうちから行っておかねば、町でいきなり生活しても何をすればいいか分からんじゃろ」
「……でも」
「ええか、あたしのことは考えんな。お前が来る前はずっと一人じゃったんじゃ。今更一人になっても寂しくはない。リコの水もあるし、生きていくのには不便はせんじゃろう」
「……」
アイサは黙って話を聞きます。
心が揺れているように傍から見てて思いました。
「三歳くらいまでは、町で暮らしておったから、まだその時の記憶は薄っすらとじゃが、残っておるじゃろ? 行きたいと思わんか?」
「……町」
アイサは何かを思い出しているようでした。
まだ幼いアイサは三歳の頃の思い出を覚えていたのでしょう。
その後、アイサは長い時間悩んだ末に、
「あたし町に行きたい」
アイサは、イザベラさんが予想した通りの結論を出しました。
数日後、私とアイサは家を出て、昔、アイサが暮らしていたという、いま私たちがいるこの町、ヴァーフォルへと向かう旅にでます。
「アイサのことよろしく頼んだぞ」
別れる時、イザベラさんは私の手を握ってそう言ってきました。
彼女の目には薄っすらと涙が浮かんでいました。その時、寂しくないという言葉は嘘であると悟りました。しかし、イザベラさんのアイサを思う気持ちを考えると、特に言及はしない方がいいと考え、
「はい」
と、イザベラさんの手を握り返して、返事をしました。
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