21.宝具

2020年12月20日

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 王の間、テツヤとレーニャが退室し、メクとサクだけが残っていた。

「それでサクよ。わしに話とはなんじゃ?」

 メクはサクから、話があると言われて残っていた。

「これを言ったら、姉者には怒られるのかもしれんがのう……」
「話す前にちょっとよいかサク」
「なんじゃ?」
「お主、そのわしとそっくりの口調をやめるのじゃ。同じじゃとややこしくて敵わん。わしとお主は声も似ておるし、外から聞いたら、独り言を言っているみたいに思われるぞ?」
「な、なんじゃと?」
「お主は女王らしく話せるのじゃから、そっちに変えるのじゃ」
「ごめんじゃ! あの喋り方は好きではない! 姉者が変えればよかろう!」
「わしこの喋り方以外出来ぬもん。お主が変えるしかないぞ」
「ぐ……」

 サクはメクを睨みつけ、

「分かりました。こうすればよいのでしょうこうすれば」
「やっぱり、その喋り方は違和感があるのう」
「どうすればいいのじゃ! どうすれば!」
「まあ、違和感はあるがそっちの方がええわい」

 とりあえず、サクは女王っぽい喋り方をする事に決まった。

「本題に戻りますわ。私が姉上に話したかったことは、ズバリ一緒にいた人間のテツヤ様のことですわ」
「テツヤか? あやつが人間というところに引っかかっておったのか? テツヤはいい奴じゃ、この国に害をなすようなことをする男では……」
「そうではございません」

 サクは、メクの言葉を遮るように言った。

「あの者には何か不吉なオーラを感じました。テツヤ様は何か良くない者に目をつけられております」
「……サク……お主は昔から優れた感受性を持っておったが」
「心当たりはありませんか?」
「ない、と言えば嘘になるのう」

 メクはテツヤの右手に刻まれた刻印を思い出した。

「これをお持ちになられていてください」

 サクが何かを手渡して来た。
 それは青い宝石がつけられた金のネックレスだった。

「なんじゃこれは?」
「これは宝具でございます。いざという時は、これの宝石の部分をテツヤ様に押し当ててください」
「……お主、何か知っておるのか? テツヤに付いている不吉な何かのことを」
「……今はお話出来ません。確証がございませんので」
「……そうか」

 メクはネックレスを首にかけた。

「私からのお話は以上です。あと、姉上の呪いを完全に解く方法は私からも探しておきますので」
「いや、それに関しては迷惑をかけるつもりはない」
「姉上がその状態だと現時点で私に迷惑がかかっています。私のために、元に戻る方法を探しますので」
「そ、そうか……でも、やっぱ女王面倒じゃな……戻ってもそのままお主が……」
「ごめんじゃ! 戻ったら姉者がやるのじゃ!」
「わかったわかった。じゃあ、またのう」

 怒るサクから逃げるように、メクは王の間を後にした。

 ○

 一晩過ごして翌日になった。
 今からブラクセルに行く所だ。

「よし、では行くぞ!」
「はっ!」

 精鋭エルフ兵達100人が俺たちの仲間になった。メクがエルフの前に立ち大声で叫び、エルフ兵達がそれに応えた。
 まあ、メクの姿はぬいぐるみなんで、若干締まらない感じもするが……
 そういえば、メクの首にネックレスがつけられている。女王様にプレゼントされたらしい。結構綺麗なネックレスだった。

 そして、俺たちは王都を出て、ブラクセルに向かった。

 歩いて向かい、到着するまで4日かかった。
 ブラクセルにある城は少し小さめだった。俺達はエルフ達を伴ってブラクセルの城に入城を求めた。事前に事情が書かれた伝書が届いてたらしいので、簡単に入城する事が出来た。

 ブラクセルの城主に面会する。女のエルフだった。エルフは女の方が持っている魔力が多く、女のほうが強くなりやすいという特徴があるので、だいたい上の立場についているエルフ達は、女である可能性が高かった。

「ようこそおいでくださいました。私はブラクセル城主のルーファ・シレルピアンと申します。伝書によるとなんとそちらの方はあのメク様だそうで。これだけ精鋭兵をつれてきていただき誠にありがとうございます」

 礼儀正しい人みたいで、深々とお辞儀をしながら言った。俺たちも挨拶を返す。

「礼はよい。それで状況はどうなっておる。勇者は今何処におるのじゃ?」
「もうすぐここブラクセルまで来ると報告を得ています。早くて明日の昼辺りには到着すると」
「明日の昼か……それまでにどうするか決めておかねばな」

 作戦会議が始まる。

「人間の兵は勇者を含めて100人ほどです。勇者以外の兵は精鋭ですが、そこまで強いわけではございません。ただやはり勇者が正直強すぎてどうしようもないというのが、ほかの戦場で戦った兵たちの話です」
「戦った者がこの城におるのか?」
「ええ、命からがら逃げてきた兵がおります。そのものの話によると、勇者の動きはあまりにも常人離れしていて、倒せるというイメージがまったくわかなかったらしいです。レベルを調べてみたらしいのですが、93あったらしいです」
「93…とな……」

 確か限界レベルはそのくらいあったと思うけど、もうそんなに上がっているのか。
 リーザースが80後半くらいだったことを考えると、俺にとっては決して倒せないレベルではないはずだ。

「勇者は確かにかなり強いというのは確実じゃろうな。じゃが、ここにおるテツヤもかなり強い。恐らく勇者とも引けを取らぬ強さを持っておるはずじゃ」
「そうなのですか? それは心強いですが」

 とルーファは言ったが、その後、部下のエルフがルーファに近づき、ゴニョゴニョとルーファに耳打ちをする。

「あの、部下がその者の限界レベルを調べてみた所、1と表示されたらしいのですが、どういうことでしょうか?」

 ルーファは少し険しい表情で尋ねてきた。恐らくこの世界に来た日に使われた、限界レベルを調べる魔法を使われたのだろう。あの魔法は案外簡単に使えるらしいからな。

「あー。テツヤには特殊なスキルがあってな。そのおかげで、高いステータスと豊富なスキルを持っているのだが、ステータスを見てみるか?」
「出来ればお願いします」

 ステータスを見せるように要求される。俺はルーファにステータスを見せた。

 名前  テツヤ・タカハシ
 年齢  25
 レベル 1/1
 HP   988/988
 MP   689/689
 攻撃力 621
 防御力 778
 速さ  622
 スキルポイント 13
 スキル【死体吸収】【鑑定Lv4】【隕石メテオLv5】【強酸弾アシッドショットLv3】【雷撃サンダーショックLv2】【吸い取り糸アブソーブスレッドLv2】【炎玉フレイムボールLv.6】【弱点結界コア・ガードLv2】【闇爆ダーク・ブラストLv3】【解放リリースLv1】
 耐性 【毒耐性Lv2】【雷耐性Lv1】【炎耐性Lv3】

「な……このステータスは……」
「凄まじい……」

 エルフたちがザワザワと騒いでいる。

「勇者の相手はこのテツヤと、それから一定時間だけじゃろうが元に戻ったわしと、レーニャがやることにする。他の人間共相手をほかの者たちが引き受ける。と言う感じで戦いたいのじゃがどうじゃろうか?」
「なるほど……確かにこれほどお強いのなら、勇者と戦っても勝てるかもしれません……もう駄目かと思っておりましたが、希望が湧いてきましたね」

 ルーファは少し身を震わせながらそう言った。

「それでは、具体的にどうやって勇者と他の人間達を引き離すか、方法を考えましょう」

 俺達は対勇者戦の戦術を立て始めた。

「では具体的にどうやって勇者を引きつけようかのう」
「勇者はあまり賢くないという報告が入っております。結構罠にかかるらしいです。罠にかかってもビクともしないので、あまり意味はないらしいのですが、今回は役に立つかもしれません」

 頭が悪いか。確かに頭の良さそうな連中ではなかったな。
 その上、短気だったはずだ。俺が少し説教してやろうとしたらすぐにキレて殴りかかってたはずだ。

「挑発してみるとかどうだ?」

 俺は提案した。勇者を挑発して陽動する。
 かなり単純な手だが有効そうに思えた。

「挑発か……ひっかかるかのう」
「かなり短気な奴らだったしいけるかも」
「そうなのですか……あれ? そういえばテツヤ殿は勇者を知っているので?」

 ルーファが尋ねてきた。

「ええ、ちょっと因縁があるんです。勇者とそれから勇者を呼び出した人間に殺されかけた事があったんです」
「そうなのですか……だから勇者を……」

 少しルーファは納得したようだった。

「しかし、挑発するといってもじゃな、何と言えば挑発にひっかかりやすいじゃろうか」
「そうだな……うーん。相手の勇者はどんなやつだったんですか? 特徴とか教えて欲しいのですが」
「小柄だったと報告がありますね」
「小柄ですか……身長を馬鹿にしてみればぶちきれるかもしれない」
「身長が低いのはコンプレックスになるとは思うのじゃが、気にしていない可能性もあるじゃろ」
「背の低い男で、背の低い事を気にしていない奴はいないよ」
「そうかのう?」

 断言する俺の言葉に、メクは疑問を持っているようだ。

「まあ、乗ってこなかった場合はいろいろ罵倒すればいいよ。そのうち絶対ぶちキレるから」
「うまくいけばいいのじゃがな」

 少し不安そうだがメクは反対する気はないようだ。

「じゃあ、勇者を俺が罵倒して、勇者だけが追ってきたら、俺はどこか別の場所に誘導する。ほかの人間の兵はその間エルフ兵たちが足止めしてくれ。誘導した先でメクとレーニャはスタンバイしておいて、俺をあわせて3対1で勇者と戦う。これでいいか?」
「いいじゃろう。どの辺に誘導すれば戦いやすいかのう?」
「近くにある、荒野が最適かと」
「一応事前に場所を確認しておこう」

 俺達はその後、事前に荒野の場所を確認する。城からそこまで離れていない。10分ほど歩けばいける位置にある。

 城に戻って数時間経過し、

「勇者達が城に近づいてきております! あと1時間ほどで到着すると思われます!」

 そう報告が入った。

「じゃあ、メクとレーニャは、荒野に向かってくれ」
「ああ」
「分かったにゃ」

 メクとレーニャが荒野まで向かう。

 成功すればいいのだが、と俺は少し緊張しながら勇者の到着を待った。

 ○

 1時間後、予想通り勇者たちがブラクセルの目前まで迫ってきた。

 小柄な勇者が、鎧を身につけた騎士達を引き連れている。

「来たぜてめーら。降参してもいいぞー。レベル的には既にカンストしてっからこれ以上殺す必要もねーしなー。まあ、抵抗するなら確実に殺すが、どうするー?」

 勇者は大声でそう言った。エルフ達を殺す事をなんとも思っていないようだ。
 そのようすを見て、ふつふつと胸の内から怒りが湧いてくる。

「テツヤ殿」
「ああ、挑発してくる」

 俺は城の外に出た。

「あー? あれ? 人間じゃんてめー。なんだ? この城に捕まってたのか? まぬけだなー。あんたを外に出したって事は、抵抗する気はないって事か?」

 俺のことなどすっかり忘れているようだ。完全に初対面と言う感じで接してきている。
 こいつらにとって俺を谷に叩き落したのは、取るに足らない、記憶する価値もないような出来事だったのだろう。
 とりあえず最初に鑑定しておこう。勇者を鑑定する。

『人間。個体名:シュン・タケイ。Lv.93/93 16歳♂
 HP 1422/1422
 MP 1232/1232
 知能が高い。レベルアップによるスキルポイントの上昇が多いという特徴がある』

 何かめっちゃHPとMP高いんですが。リーザース変身形態より高い。
 レベルはそう違わないはずなのに何故こんなに差がある? 勇者だからか?
 単独だと勝てないかもしれないな。でもこちらには味方がいる。勝てるはずだ。

 俺は勇者タケイのステータスを見ても怯まずに、

「俺は人間側じゃない。お前等の敵だ」
「どういう意味だぁ?」
「お前らを追い払いに来たって事だよ。おいチビ、てめーなんぞ3秒でぶっ殺してやるよ」
「あぁ?」

 タケイの顔色が変わる。かなりイラついているようだ。やはり身長にコンプレックスがあるようだな。

「おい今なんつった?」
「おいチビ、てめーなんぞ3秒でぶっ殺してやるよって言ったんだ。聞いていなかったか?」
「……死にてぇーらしいな。分かった望み通り殺してやろう」

 タケイは息をふぅーと吐いて、次の瞬間、俺に向かって飛び掛ってきた。

 速い!

 早いけど、反応できない速度じゃない。
 俺はタケイから逃げる。向かう場所は荒野。

「待てコラ!!」
「テメーなんかに追いつかれるかノロマ!」

 俺は我ながら安っぽいな、と思うセリフを吐きながら、荒野に向かった。

 その後、タケイを後ろにいた騎士たちが追いかけようとする。そのタイミングを見計らって、エルフ兵たちが飛び出

 してきて、騎士たちを足止めし始めた。

 あとは荒野まで行って、コイツをぶちのめすだけだ!

 だいぶ長い距離逃げて荒野に到着。俺は逃げるのをやめた。

「逃げるのはやめか? っち、何でこんなにはえーんだてめー。つーかここどこだ? まあいい。俺を馬鹿にしたからには、確実にぶっ殺してやるよ」
「メク、レーニャ」

 俺がそう合図すると、勇者を取り囲むようにメクとレーニャが出てきた。

「さ、解放リリースしてくれ。手早く倒すとするかの」
獣化ビースト・モード!」

 メクがそういい、レーニャが獣化になる。
 対勇者戦が始まる。


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