「歩け」
カフスは、ハピーとマナを縄で拘束して、バルスト城まで連行を開始していた。
隠し通路ではなく通常の道を通って、バルスト城へと向かう。
翼族は三対六枚の翼が無ければ、空を飛ぶことが出来ないため陸路である。
もっとも三対六枚でも、飛行速度はあまり速くないため、平地ならば走った方が目的地に到達するのは早くなる。
「マナ様まで縛る必要はないでしょう。今すぐ解いてください」
「念のためだ。それと、お前が俺に指図をするな」
ハピーとカフスが睨み合う。
鋭い目つきを持つ一流の武人同士の睨み合いはかなり迫力がある。
「アタシは大丈夫だから。縄は痛くないように緩めに結んでくれたし……カフスさんって優しいんですね……」
マナはとりあえずカフスを褒めてみた。
褒められると誰でも嬉しいものだ。好感度が上がる可能性はある。
「……」
しかし、褒められたことにカフスは無反応。好感度メーターも同じく無反応だ。
「あれだけお強くて、その上お優しいなんて尊敬しますー」
一度では諦めず、褒めるのを続けるがやはり上がらない。
(むう……他人の好感度を上げる行動を取ったら、通常では考えられないくらい上がる、っていうのがアタシの頭の中にある、魅了の効果だ。つまり好感度を上げる方法を掴まないと、意味がないんだよね……)
現状何かプレゼントをするなどの、物を使う方法が取れないので言葉で何とかするしかない。
褒めても全く嬉しくないとすると、ほかに何があるか。
強い者が好みで、趣味はなし、となると好きな物である剣を褒めてみるべきだとマナは考えた
「その剣、凄く強そうでカッコいいですね!」
「子供にこの剣の良さは分からんだろう」
今度は反応はあったが、好感度は上がらなかった。
「ハピーにかけた洗脳を俺にもかけようとしても無駄だ」
マナは図星を突かれギクッ! とする。
「せ、洗脳なんてー出来ませんよー。カフスさんの事が気になってるだけですー」
「ふん」
「カ、カフス殿! マナ様に気に入られているという、最高の幸運を享受しておりながら、それを鼻で笑うとは! あまりにも畏れ多い行為です!」
食ってかかるハピーを見て、アンタは黙ってろ!! とマナは怒鳴りつけたい気持ちになるが、ここは抑える。
(け、警戒されちゃってる……うーん、こうなるとあんまり喋ってくれそうにないだろうなぁ……無理なのか?)
マナは首を横に振る。
(諦めちゃだめだ。まだ何か方法があるはず)
ポジティブに考える。
とにかくもっとカフスについて知る必要がある。
当人が話してくれそうにないので、ハピーに聞くしかない。
「カフスさんに興味があるんだけど、話してくれないからハピー話してくれない?」
「な、何ですと? そんなにカフス殿に興味を……!?」
ハピーは強いショックを受ける。
「話して」
「うぅぅ……悲しいです……でも、私はカフス殿とそんなに仲良くないですし、たいして知りません。バルスト城では二番目に強い人っていうことと、ジェードラン殿への忠誠心が家臣たちの間の中では一番厚いという事しか知りません」
忠誠心が一番厚いという言葉にマナは反応する。
「そうなんですか?」
「……間違いではない。ジェードラン様のためなら命だって惜しくはない」
警戒していたカフスであるが、その質問には答えた。
(もしかして、カフス本人ではなくて主君のジェードランを褒めるのが一番効果的なのかも)
そう思って褒めようと考えたが、マナは少し躊躇する。
(そこまで主君を思っている人を魅了していいのかな……ハピーみたいに慕う理由がありそうで、正直気が引けるけど……うーん、でも仕方ないか。こうしないとアタシはずっと閉じ込められたままだしね)
前世では戦に何度も参加していたマナは、目的を達成するためなら非情になれるという一面を持っていた。
やると決めたら、躊躇なくカフスを褒める。
「へー、カフスさんほどの人にそこまで慕われるなんて、かなり素敵な人なんですね」
ジェードランの人柄を知らないので、あまり効果的な褒め方が出来なかったのだが、
(あ! 上がった!)
数値が20から60まで上昇。
(めっちゃ上がったじゃん! これはいける!)
「あの方より素晴らしい人などいない」
「どんな人なんですか?」
「誰よりも強く、誰よりも気高く、誰よりも器の大きなお方だ。将来四対八枚の翼を得て飛王になると言われているおり、ほとんど家臣は心の底から信じてはおらんが、俺だけは信じている」
「そんなに凄い人なら、アタシも飛王になれると思うな」
「そう思うか!」
ジェードランの話で大いに盛り上がっているうちに、カフスの好感度がどんどん上がっていく。
(なんか150まで上がってるみたいなんだけど……せ、成功したのこれ?)
マナは実際に見逃してくれと、頼んでみようとする。それで頼みを聞いてくれれば、成功だ。
「あの……」
「実は俺とジェードラン様には、誰にも話していない過去の話があるのだ」
(えー!? 誰にも話してない話を出会って数時間の子供にするの!?)
魅了の効果恐るべしとマナは再認識する。
「俺の翼、一枚かけているのは見れば分かるな。欠損翼には、あとで斬られるなどして翼を失う後天的なものと、生まれた時から一枚かけている先天的なものがある。俺は後者だ」
「え? そうだったんですか?」
ハピーが意外そうに声を上げる。
てっきり後天的な欠損翼だと彼女は思い込んでいた。
通常先天的な欠損翼の者は、欠陥品、不吉な子として蔑まされ、まともな人生を歩めない者がほとんどだ。
城に仕えるなど、物凄く珍しいことである。
「あの方は、俺に秘めた才能を感じ、周囲の反対を押し切って俺を家臣にしてくれた。それまで俺は全ての翼族から蔑まれ、地獄のような生き方を送ってきた。誰にも必要のされない存在だと絶望したとき、ジェードラン様がその地獄から救ってくださった。この恩は何があっても返さないとならない」
「本当に素晴らしい方なんですね」
「ああ」
最後に褒めたときカフスの好感度が、200に到達した。
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