「ところで荒野のどの辺に、神殿はあるんだ?」
ジェードランが尋ねた。
「中央にあるらしいのう。このままずっと南東に向かえば付くじゃろう」
ケルンは地図を見ながら説明する。
軍勢は荒野に入り、南東に歩いた。
「足跡がありますね」
荒野には大勢の人間が歩いたと思われる、足跡が残されていた。
「飛王たちの足跡か……俺たちの向かっている方向に足跡も向かっている」
こちらの道が正しいのだろうという証明と、もう飛王は神殿に到着している可能性が高いという事をその足跡は示していた。
(土の精霊さんが、守ってくれてるはずだけど……どうなるんだろう……)
不安になってきたが、確かめないまま帰ることは出来ない。
マナは引き返すよう命令は出さなかった。
荒野はそれほど規模が大きい場所ではなく、数時間歩くと神殿らしきものが視界の遠くに映った。
(あそこだ……間違いない)
思い出した景色と全く同じ。
周囲に何もない荒野に、寂し気にポツンと立つ神殿であった。
神殿に近付いてみると、兵士の遺体がいくつか転がっていた。
「戦いのあとだ。飛王は何かと戦ったのか……」
「飛王の遺体はどうやらないようだな……」
死んでほしいとマナは思っていなかったので、それには安どするが、ではエマはどこにいるんだと疑問に思う。
(もしかして、神殿の中にいるの?)
そうなると、土の精霊はエマに敗れ、滅された可能性がある。
マナは不安な気持ちになる。
ジェードランが全軍に支持を送り、神殿に侵入しようとする。
すると、神殿の中から何者かが出てきた。
四対八枚の翼を持つ翼族。
飛王エマであった。
エマの登場に全軍に緊張感が走る。
彼女の傍らに兵は一人もいない。
全員死んだのだろうかと、マナは推測した。
エマは悠然と歩く。軍勢に囲まれている事など、どうとでもないというような仕草だ。
「ここに来るという事は……やはりそうなのか……」
エマの呟きは、マナの耳に届いたが意味を理解することは出来なかった。
「何でここに来たの? 中に土の精霊がいたはずだけど、殺したの?」
「奴を殺す? あり得ないな。邪魔をするので、一時的に無力化はしたがな」
そう言うエマが光り輝く何かを持っていることに、マナは気が付いた。大きめの赤い宝石のようだ。
その宝玉が放つ光は禍々しくて、見る者の恐怖感を煽る。
(あれを取るのが目的でここを訪れたの? でも……何だろう……あの赤い宝石を見ていると、何だか胸騒ぎがする)
あれがどんな物かは分からなかったが、なぜかエマから取り上げなければいけないという衝動にかられた。
転生した目的を果たすために、何か重要なアイテムなのではないかとマナは思う。
確証も何もないが、ここで持っていかれるのはまずいとマナは思った。
ジェードランにエマを取り押さえるよう、命令しようと思う。
だが、その前にエマは剣を抜き、目にもとまらぬスピードでマナのすぐ近くまで走ってきて、首を斬ろうとする。
近くにいた者たちは速すぎて誰も反応できない。
斬られようとしているマナも、微動だに出来なかった。
エマの剣はマナの首を寸前でストップする。
「なぜ……なぜ来たんだ」
常に無表情だったエマだが、その言葉を言う時だけ、妙に悲し気な表情をしていた。
そのあとエマは翼を広げて、飛び去っていった。
一同呆気に取られており、気を取り直した時には、エマの姿は目視できる位置にはなかった。
「マ、マナ様! 怪我はありませんか!?」
ハピーが血相を変えてマナの下へと駆けつける。
「う、うん。寸止めしてくれたから……」
「そ、そうですか……しかし、許せません……マナ様の首元に剣を突き付けるなど……万死値します!」
「そ、そうじゃ! あの女! 今すぐ追いかけて討ち取るのじゃ!」
周囲は激怒していたが、マナは、
(なぜあんなに悲しそうな表情をしていたんだろう……)
去り際に見せた表情が気になっていた。
「とにかく今すぐ追いかけて討ち取るぞ。許せん」
飛び去っていったエマを追い仕留めようと、ジェードランたもしようとしていたが、マナはそれを止める。
「待って、今から行っても間に合わない。飛び去る速度見たでしょう?」
あのスピードには現実的に考えて追いつけない。
彼女が持っていった物は今すぐ取り返さないといけないのだが、それは難しいだろう。
(エマは土の精霊を殺していないと言ってた。嘘の可能性もあるけど、多分嘘は付いていないと思う)
まずは当初の目的を果たすため、ポーラハム神殿に入ろうと考えた。力を取り返すことが出来たら、エマから宝石を取り返す難易度も下がる。あの宝石が力を取り戻すために必要なものだったら、お手上げであるが。
「最初の目的通りポーラハム神殿に行く。飛王が持っていった物を取り戻したいし、あとで戦うかもしれないけど、今はポーラハム神殿に行くのを優先するから」
マナがそう決めたので、ジェードランたちも従うしかない。
ポーラハム神殿の中にマナは入っていった。
(これでついに前世の記憶が戻るかもしれない……)
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