サイマスはシャーファが報告したことと言って、嫌な予感を感じた。
なるべくその報告をケルンにはさせたくないと思ったが、
「報告とはなんじゃ。お主には姫の姿を写すよう命じているはずじゃが」
ケルンもシャーファの来訪には気づいていた。
姫の写真をもっともっと欲しいと思っているケルンは、不機嫌そうな表情で命令する。
「もっと姫の姿を撮ってくるのじゃ! それがお主の役目じゃ! 今すぐ行けい!」
「も、申し訳ありません! 姫からケルン様へのお願いを聞いたのですが、あとでお伝えいたしますね」
「待て、お願いの方をまず伝えるのじゃ」
さっきまで今すぐ撮りに行けと言ったが、マナからお願いがあると知ったケルンは態度を一変させる。
シャーファはどうすればいいか戸惑った後、お願いを伝える。
「え、えーと……マナフォース姫は、ケルン様に会いたがっているようです。お会いしてあげたらどうでしょうか?」
「な、何と姫がわしに!? よし、今すぐ行くのじゃ!」
ケルンは即答し、早速マナの下へと向かおうとする。
断ると思っていたシャーファは面くらう。
「ま、待ってください! いけません!」
サイマスはケルンを止める。
ほかの家臣たちもケルンを止めにかかる。
「向こうが会いたいと言っているのじゃから、会わんわけにはいかんじゃろう!!」
「だ、駄目ですよ! ケルン様の野望はどうなります!」
「もうそんなことは知らん! わしは会いに行く! 邪魔をするな!」
今度ばかりは説得では止まりそうもなく、家臣たちは邪魔をするなという命令を守り、ケルンがマナの下へと向かうのを黙ってみているしかなかった。
「おっと会いに行く前に準備をしなくてはな。この格好で姫とは会えん。シャーファを着替えを手伝え」
「は、はい」
ケルンはマナと会うために身支度をすることにして、衣装室へと向かった。
(こ、これはまずいことになったぞ……)
サイマスは心の底から狼狽える。
このままではケルンが、人間の姫に完全に従わされてしまう。
主を心の底から慕っている彼にとっては、看過できない事態であった。
(しかし言葉で説得するのはもはや不可能……となると……もはや諸悪の根源を討つしかない……!)
マナの力は扱う事さえできれば、ケルンの野望を叶えるのを大きく手助けしてくれるだろうが、こうなっては扱う事は最初から不可能だったと思うしかない。
もしかしたら、マナを殺すことでケルンが大激怒し、死罪になる可能性もある。
(俺の死で、ケルン様が姫に従わせることを止めることが出来るなら……それでいい)
サイマスは死を覚悟しながらも、主のためマナを討つことを心に誓った。
〇
「来るかなぁ~」
マナは、ケルンが来るのを待っていた。
ただ答えはノーであるだろうとマナは予想していた。
そう甘くはないだろう。
そのため、駄目だった時どうするかを考える。
(ここから脱出するのって、意外と難しいというか……やっぱりシャーファの好感度をもっと上げないと無理かなぁ)
具体的な案は中々でない。
そんな時、部屋の扉が何の前触れもなく開いた。
シャーファはいつも声をかけてから入ってくるので、マナは驚く。
入ってきたのは見知らぬ男であった。
その右手には剣が握られている。
(だ、誰? い、いやそれより何をする気?)
男は無表情でマナに近付いてくる。
身の危険を感じ、マナはジリジリと後退する。壁が背中に当たり、これ以上後ろに下がれなくなる。
その男は、マナのすぐ近くまで来て、冷たい表情で見下ろし、
「貴様にケルン様を操らせるわけにはいかん。ここで死んでもらう」
そう言い放った。
(ま、まずい! み、魅了しないと!)
そう思ったが、男はすでに剣を振り上げており、間にあいそうにない。
魅了スキルは強力であるが、このように問答無用で殺しにかかってくる相手には、全くの無力であった。
(し……死ぬ……!)
死を覚悟した。その時。
「マナ様!!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえたあと、部屋の窓ガラスが割れ、何者かが部屋に乱入してくる。
乱入してきたのは二人の翼族。
一人がマナを殺そうとしていた男を突き飛ばし、凶行を阻止した。
「大丈夫ですかマナ様!」
「はぁ……はぁ……疲れた……」
そこにいたのは、バルスト城でマナが魅了した、ハピーとジェードランの二人であった。
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