バルスト城では、マナの捜索を全力で行っていた。
最初は難航していたが、城に訪れていたケルンの発言で事態は一変する。
「私は実はケルン様ではなく替え玉なんです……名をパラソマと申します。本来はこれはケルン様への裏切り行為になるのですが……マナちゃんのためにお話しします」
パラソマはジェードランたちの前で、自分がケルンではなく替え玉であると白状した。
そのあと、ケルンが詳しくは知らないが、何らかの作戦を考えていたという事を全てジェードランたちに打ち明けた。
「なるほど……ルルット城にマナ様はいると。分かりました。今すぐルルット城へ行き、ケルンの首を刎ね、マナ様を取り返してきます」
憤怒に燃えるハピーが、無表情でそう言い放ち、城を出ようとする。
「待て、お前ひとりでそれは無理だ。俺も行く」
ジェードランが同行を申し出た。
その二人を見たカフスは慌てる。
「ま、待ってください! ここはもう少し慎重に行くべきです!」
「こんな時に慎重になどなれるものですか!」
「そうだ、早く助けなければ、マナがどんな目に遭わされているか……」
「ハピー、ジェードラン様、落ち着いてください。ここで二人で行っても到底勝ち目はありません」
「なら軍を率いていく!」
「それもまずいです! 人間の姫を助けるためと言って従う兵はおりませぬ!」
「じゃあ、どうしろというのだ! このまま見捨てろと!?」
「そうは申しておりません。まず落ち着いて考えてみて下さい」
ヒートアップするジェードランを、沈めるような口調でカフスは話す。
「敵の狙いは何だと思いますか?」
「姫を利用して……俺と取引をする……とか?」
「その可能性が高いと思われます。ならば向こうから書状が来るので、まずはそれを待つのが吉かと。恐らくマナ様は殺されたりすることはまずないでしょう」
「そ、そんなこと分かりません! 本物のケルンが幼女好きのとんでもない変態だったら、どうするんですか!?」
そう叫ぶハピーに、二人はお前が言うなという視線を向ける。
「マナ様はルルット城の連中にひどい目に遭わされているはずです……牢に閉じ込められ……粗雑な扱いを受けているに違いありません。何せ強引に連れ去るような連中ですから。命があるにしても、放っておくなんてできません! 今すぐ助けに行きます!」
「その通りだ! ケルンは血も涙もない冷酷な女だ! そんな奴のもとにマナを長時間おけるか!」
ハピーとジェードランは、行く気満々でこれはもう止まらないとカフスは思った。
「ならば俺も行きましょう」
「いや、お前は城に残れよ。俺がいない間、誰が城の運営をするんだ」
「え?」
「そうです! 頼みましたよカフス殿!」
それだけ言い残して、二人はルルット城へと旅立っていった。
城の事をすべて任されたカフスは、盛大なため息を吐き、自分もルルット城へと行きたいという気持ちをおさえて、仕事を始めた。
〇
一方その頃、ジェードランとハピーに、悲惨な目に遭っているだろうと心配されているマナはというと……
「おいちぃ……」
この世の天国を味わっていた。
好きなデザートは食べたい放題。
さらに温泉設備も整っており、大浴場に入ったりも可能。
さらにさらに、動物と触れ合うことも可能だった。
通常よりもふもふした毛でおおわれた、犬、ロッパーシュと呼ばれている品種なのだが、それと好きなだけ触れ合うことが出来た。
マナは動物が好きであり、その犬との触れ合いはまさに至福の時となっていた。
あっという間に一日が過ぎて、大いに満足してマナはベッドに横たわる。
「このまま、ここに住んで一生を過ごすのも………………………………良くない!!」
マナは跳ね起きる。
「こんなことしている場合じゃないでしょ! 早く記憶を取り戻さないといけないって言うのに……!」
このままでは自分を見失ってしまうとマナは思い、頬を一度思いっきり叩いた。
(当初の目的はケルンを従えること……まずはどうにかしてケルンと会わないといけない……ケルンへの魅了がどれほど聞いているのか分からないけど……とりあえず、メイドを魅了して会わせてくれるようお願いさせてみよう。失敗したらまた別の作戦で行く)
骨抜きにされかけていたマナは、何とか気を取り直し、ケルンに会うための作戦を実行することにした。
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