オーク。
豚と人間を混ぜたような風貌の魔物だ。
オークはかなり大きく。身長は三メートルほど、体重は七百キロもある。
知能は人間やゴブリンほどではないが、それなりに高い。
性格は傲慢、強欲。
ゴブリンや人間と違い、すべての個体が似たような性格をしている。
そのオークたちが十体、ゴブリンの村に入ってきていた。
ゴブリンに比べて圧倒的にオークは大きい。
さらにオークたちは、各々金棒を装備している。
明らかに戦いになったら勝ち目はなく、ゴブリンたちは怯えた目でオークたちを見ていた。
先頭のオークが大声で喋りだした。
何をいっているかゴブリンたちには理解できない。オーク語で喋っているからだ。
ゴブリンたちを見下したような目つきで見ながら喋り続ける。
いきなり襲ってこなかったことにゴブリンたちは安堵するが、このまま無視するとさすがにまずいだろう、と思い村で唯一オーク語が話せる村長を呼んできた。
「この村になにかようかノ?」
村長はオーク語で話しかけた。ほかのゴブリンたちと違い怯えている様子はない。
「話が通じるやつがいたみてーだナ。ここら辺は俺たちのボスの縄張りになっタ。ここで暮らしたけりゃア、食料を定期的に貢ぎやがレ。断ればわかってるだロ?」
オークはそう要求してきた。
戦っても勝ち目はない。ここは受けるしかないと村長は判断する。
ただ一応、どのくらいの食料を貢ぐ必要があるか、聞くことにした。
「どのくらいの食料を貢げばいいのかノ」
「そうだナ。七日でこの袋、十袋分ダ。肉類を中心にいれロ」
そういいながらオークは袋を取り出して、村長のまえに置いた。
デカイ袋だ。ゴブリンが丸々三体は入れそうな大きさだ。
これに七日で十袋など渡していたら、ゴブリンが食べるものがなくなる。
「む、無理ジャ。こんな量、渡してたら飢え死にしてしまうのジャ」
「知ったことカ。お前らゴブリンなどその辺に落ちている草でも食べテ、泥でもすすっていれば十分生きれるだロ」
「ナ……ゴブリンを何だト……とにかく無理なものハ、無理なのジャ! もう少し量を減らしてくレ!」
村長は少し語気を荒げていう。
「オイ、オベロダ。見せしめに一匹殺レ」
先頭のオークがいった直後。後ろのオークの一体が『了解』と返事をし、金棒を振り上げて、近くにいたゴブリンに振り下ろそうとした。
「ヤ、ヤメ!」
村長がとめに入ろうとすると、
「ロックブラスト」
少し遠くから声が聞こえてきた、その直後。
岩が高速で直線に飛んできて、金棒を振り上げていたオークの頭に命中した。
強い衝撃を受けたオークは、後ろに倒れ気絶した。
「ここのゴブリンを傷つけるものは、私が許さん」
五歳児とは思えないほど厳格そうな声色で、ベラムスはそう言った。
騒ぎから駆けつけてきたら、ゴブリンが殺されそうになっていたので、急いで”ロックブラスト”、岩を高速で打ち出す魔法を放ったのだ。
「ベラムス!」
「ナ、何だいまノ!?」
「もしかして魔法カ!?」
ゴブリンたちが騒ぎ出す。
ベラムスは、ゆっくりと歩いていきオークのまえにでた。
「べ、ベラムス……おぬし今のハ……」
「村長。危険だから下がっていてくれ」
「ヌ……ヌヌヌ」
五歳のベラムスがいうのは、あまりにもおかしな言葉だが、あまりにも強い目力で言われたので、村長はなぜか従った。
「おいベラムス! 危ないから下がるんダ!」
騒ぎを見ていたアレサがそういった。かなり心配そうな表情をしている。
「私は大丈夫だ。母上こそ危ないので下がっていてくれ」
「ナ……!」
「さて、貴様ら」
ベラムスはオークたちのほうを向き、オーク語でそういった。
「運がよかったな。さっきのゴブリン、メルダを殺していたら、私は貴様らを殺していただろう。今、立ち去れば許してやる」
「貴様、ニンゲンカ……? フン、ニンゲンがなぜゴブリンの村にいるかわからんガ……」
オークは忠告を聞くつもりはない。
ベラムスに向かってゆっくりと近づき、そして、
「俺たちをなめたことヲ、あの世で後悔しやがレ!」
怒りの形相で叫びながら、金棒を振り上げ、ベラムスに向かって振り下ろした。
金棒はベラムスの頭に……命中しなかった。
「ナニ!?」
ベラムスはその場を動いていない。
動かしたのは右手一本のみ。
右手一本でオークが全力で振り下ろした金棒を受け止めていた。
「魔法の用途は多岐にわたる。身体能力、防御力の向上も可能だ。まだ私の保有魔力量を増やす修行は終わっていないが、現在の保有魔力量でも貴様程度の攻撃なら楽に止められる」
そういいながら、ベラムスは左手を握り締め、その拳で思いっきり金棒を殴った。
ものすごい音が響く。そして、ピシッと金棒にヒビが入ったあと、粉々に砕け散った。
「バ、バカナ!」
「貴様はどうあがいても私には勝てぬ」
ベラムスは魔力を迸らせオークたちを威圧した。
オークたちは錯覚を覚えた。自分よりはるかに小さい相手。しかし、それが何故か大きく見える。
まるで、ドラゴンとでも対峙しているかのよう気がした。
「もう一度いう。去れ」
ベラムスにそういわれた瞬間、オークたちはだらだらと、汗を流しだす。
オークは、自分より弱いものには威張りちらす一方、自分より強いものにあったら、一気に弱気になる魔物だった。
オークたちはプレッシャーに負け逃げ出した。
ただ、オークたちは逃げる直前、
「覚えてロ! お前がいくら強くても俺たちのボス”キング・ライドス”様には敵わネェー! せいぜい震えて寝てロ!」
と、ものすごく小物くさい捨て台詞を残していた。
ベラムスはその言葉を聞き、追撃しようと思ったが、やめて尾行することにした。
オークたちを追撃して倒しても、どのみちここはキング・ライドスに攻められるだろう。
それならば、先にキング・ライドスの場所を探して先制攻撃を仕掛けるほうがいいと判断したためだ。
向こうからこの村に攻めてこられたら、ゴブリンたちが危険にさらされる可能性も高いだろう。
ベラムスは尾行に行くまえ、強張った表情の村長に向かって、
「村長は先ほどのやりとりを聞いていただろう。村のみんなに伝えてくれ」
「ま、待テ……ベラムス、お主ハ……」
「安心してくれ。この村に危害を加えさせるような真似は私が許さん。敵の首領は私が倒してくる。」
ベラムスはそう言って、オークたちの尾行を開始した。