(さて、きょうの練習で全盛期の十分の一ほどの保有魔力になる。これだけあればたいていの魔物はいとも簡単に葬り去れるだろう)
ベラムスはひとりになれる場所に行き、いつもどおり保有魔力を増やす練習を開始した。
きょうの練習が終わったら、当初の予定通り強力な魔物を倒しにいくとベラムスは決めていた。
そして、ライトを使い練習を開始した、が、一度魔法を使ったその瞬間、
「ベラムスーなにやってんダー!」
今世ではもっとも聞いた声、デラロサの声が聞こえてきた。
デラロサに見つかり、しまった、とベラムスは思う。
練習をひとりでやることにしている理由は、見つかって、変に騒がれると練習効率が落ちるからだ。
特にデラロサに見つかると、めんどくさそうなので、見つからないよう気をつけていた。今回ベラムスは少し油断していたようだ。
「今のピカピカなんなノー?」
無視はしたくないので、いったん練習をやめ、質問に答える。
「魔法だ」
正直にいった。
「マホウってなニー?」
「簡単にいえば、不思議な現象を起こせる力のことだ」
いい加減な説明をするのが嫌いなベラムスだが、ここはわかりやすいように説明した。
「へー。アタシも使いたイ!」
「現在のデラロサでは使えるようにはなれないな」
「エー! どうしテ!?」
理由を説明しようか迷う。
デラロサが現状魔法を使えない理由は、ゴブリンの保有魔力量が少なすぎるからだ。初歩中の初歩の魔法であるライトすら使えない。
ゴブリンが魔法を使えるようになるには、“進化”する必要がある。
すべての魔物は条件を満たすことで、進化することが出来る。
進化をした魔物は姿かたちが変化し、さらに能力が飛躍的に上昇する。
ゴブリンはホブゴブリンへと進化することができる。
ホブゴブリンになると、背が高くなり、容姿も人間に近づく。さらに身体能力が飛躍的に上昇し、保有魔力もかなり増え、魔法が使えるようになる。
ただ、ゴブリンからホブゴブリンに進化するための条件はかなり難しく、自然にゴブリンが進化することは滅多になかった。
ベラムスは条件を知っており、ここのゴブリン達をホブゴブリンにしたいと思っていたが、保有魔力量を増やしたあとでないと難しそうなので、増やしてからやる予定だった。
「後で使えるようにしてやるから、今は我慢してくれ」
ベラムスは、なだめるようにいった。
「今使いたイ! ベラムスだけずるいゾー!」
とデラロサは駄々をこね始めた。
前世では自分の子供がいなかったため、あまり子供の相手は得意ではないベラムス。
どうやってなだめようか考えていると、
「大変ダー!」
村のゴブリンの一体がそう叫んだ。
なにがあった? とベラムスは声が聞こえた方向に、反射的に視線を向ける。
「オークダ! オーク達が来やがっタ!」