5話 五歳になる
――――五年後。ベラムス五歳。
おもにゴブリンの家は藁と木でできている。
見かけ貧弱そうな家だ。実際、雨風を完璧に凌ぐことはできない。
その家のひとつ、アレサの家でベラムスは暮らしていた。
「ベラムス……オマエは本当に五歳なのカ?」
朝食後、おもむろにアレサが尋ねてきた。
「なにをいっている。私が五歳だといちばん知っているのは母上だろう」
若干動揺したが、ベラムスは毅然とした態度でそう答えた。
「いやサァ……体格はワタシらゴブリンより、まだ小さいくらいだガ……振る舞いとカ、言葉遣いとカ、明らかにおかしいシ……見ろデラロサヲ」
アレサが指差した先、デラロサがアホ面で寝ていた。
もうとっくに起きないといけない時刻だが、いっこうに起きない。
強引におこそうと、いろんな方法を試したのだ、何をしても起きない。
諦めて自分で起きるのを待とうと結論を出したのだ。
「デラロサはオマエより二つ上だが、こんな感じダ。まア、こいつはふつうよりちょっとアホだガ、オマエは大人すぎないカ? ニンゲンは皆こうなのだろうカ……?」
八十八の爺さんが中に入っていることをベラムスは伝えていない。
突拍子もない話だし、転生のことはなるべく話したくないからだ。
「じゃあ、私は村の皆の手伝いをしにいってくる」
「ア、ベラムス!」
これ以上、追求されて変にボロを出すのもまずいので、ベラムスはそういって自宅を出た。
○
「お、ベラムス。今日も手伝いに来たのか!」
村では皆が協力し合って生活している。
ベラムスはいろんな仕事の手伝いをしていた。何もせずにいるのは嫌だからだ。
まだ子供なので狩りなどには行かせてもらえない。料理の手伝いや、山菜などの採集、裁縫などの仕事の手伝いをしていた。
いろんな手伝いをしていた結果、人間であるベラムスだがだいぶ村に馴染んでいた。
手伝いをおえたベラムスは、ゴブリンがいない場所を探す。
ちょうど、自宅にいたアレサとデラロサがいなかった。
彼は自宅の床に座り、両手を上にかざし、目をつぶる。
そして、
「ライト」
といった。
すると、両手の少し上に、眩しい光を放つ球が出現した。
これは、ライトという魔法。暗闇を照らす初級魔法だ。
ベラムスは五歳になり、魔力に目覚め魔法を使えるようになっていた。
ベラムスは光の球を消す。そのまま、もう一度「ライト」といって、光の球をだした。
そうやってなんどもなんども、光の球をだしたり消したりする。
なぜ彼がこんなことをやっているのかというと、修行のためだ。
魔力に目覚めた瞬間というのは、保有魔力量が少ない。
保有魔力量が少ないと、弱い魔法しか使えなくなる。
こうやって、なんども連続して魔法を使うのが、保有魔力量をあげるためのいちばん良い方法だった。
ベラムスはすぐにでも保有魔力量を上げて、強い魔法を使えるようになりたいと思っていた。
それには理由がある。
もともと静かに暮らしたいと願って転生したベラムス。
次の人生では、そこまで魔法を使えなくてもいいか、と思っていたが、このゴブリンの村で育てられ考えを変えた。
命を救ってもらった恩をとにかく早く返したいと思っていたのだ。
このゴブリン村の環境はかなり劣悪だ。
ゴブリンは総勢五十体ほど。
農業技術はない。森で狩りをしたり、山菜を収穫して飢えを凌いでいる。
正直、食糧事情はあまりよくない。ゴブリンたちはかなり慎ましい生活をしいられていた。
狩りに森に行くと魔物に襲われ怪我をしたり、命を落とすこともある。
ここのゴブリンたちは常に死と隣りあわせで生きている。
アレサの夫も魔物に襲われて死んでいるらしい。
そんなギリギリの生活の中だが、ベラムスを追い出そうというゴブリンは一体もいなかった。
ここのゴブリンたちはとにかく優しいのだ。
そんなゴブリンにベラムスは好感をもっていた。
なので、当初の静かに生きたいという目標はいったんおいて、ゴブリンたちに恩返しをするため、知識や魔法を使い、この村を発展させたいと思っていたのだ。
知識は言葉が喋れるようになった時点から伝えようとしたのだが、子供のいうことだと聞いてくれなかった。
そのため、まずは魔法を使えるようになり、強い魔物でも倒して、ゴブリンたちにある程度認められれば信じてくれるかもしれないと思い、魔力に目覚めるまで我慢することに決めた。
最近になってアレサが、ベラムスは本当に子供なのか? と怪しむようになっているので、いまいえば信じてくれるかもしれないが、どっちにしろ魔法を使えないと生かすのが難しい知識も多いため、やっぱり魔力を増やすための修行をすることにした。
(さて、保有魔力量もだいぶ増えてきたため、使える魔法も増えてきた。もうそろそろ、強力な魔物を倒せるかもしれんな。念のためもうちょっと修行しておこう)
万が一はあってはいけないので、慎重に判断をした。
こうして、ベラムスは着実に修行をし保有魔力を増やしていった。