21話 村へ帰ると……
ベラムスは村に帰還した。
村の門を開けて中に入る。
ちなみに門を開ける方法は、ゴブリン語で合言葉を言えば開く。
門の前でボソっと呟くくらいで、ゴーレムに声が届くようになっているので、外のものにバレる心配は少ない。
合言葉を忘れてしまった場合、締め出しをくらうので、絶対に忘れるなと、ベラムスは念を押していた。
門は村の北と南に二箇所あり、合言葉はそれぞれ違う言葉だった。今回ベラムスが通る門は南門だ。
ベラムスが村の中に入ると、
「ベラムス! 帰ってきたカ!」
「ちょうど良かっタ! ちょっと集会所まで来てくレ!」
ゴブリンたちが慌てながらそう言った。
ちなみに集会所は、村の皆で集まって話し合いやら宴やらをするための建物である。
(なにがあった?)
非常に慌てている様子に、ベラムスは嫌な予感がした。
とりあえず買ってきたものは一旦置いて、急いで集会所に向かう。
そして中に入ると、
「これは……」
中には、紐で繋がれた怪我を負っている三人の人間が、敵意に満ちた表情でゴブリンたちをを見ながら座っていた。
男が一人で女が二人。
それぞれ鎧を装備している。
その人間たちは入ってきたベラムスを見て、
「こ、子供!? それも人間の子供だ!」
「ここのゴブリンたちは子供もとらえているのか!? 許せぬ!」
などと言っている。
人間の言葉なので、ゴブリンたちは理解できていないようだ。
「ア! ベラムス! 帰って来たカ」
「ちょうどいいところに帰ってきたのウ」
アレサと村長がそう言ってきた。
「これはどうなっている?」
ベラムスは予想外の光景に、まったく事態が飲み込めないでいた。
とりあえず、アレサに説明を要求する。
「イヤ、それガ……ベラムス、オマエその格好……なんか可愛いナ」
だぼだぼになっているローブを着たベラムスをみてアレサはそう感想を言った。
「私の格好のことはどうでもいい。早く説明してくれ。あの三人の人間はなんだ?」
「イヤ、ちょっと話せば長くなるガ……まず、この村が襲撃を受けたことから話さないト……」
「襲撃? この人間たちがか? 大丈夫だったのか?」
「アー、違ウ違ウ。襲撃してきたのハ、このニンゲンたちじゃなイ。それと怪我はだれもしてなイ。これは昨日の昼ぐらいの話なんだガ……」
アレサは事の顛末(てんまつ)を話し始めた。
◯
ベラムスが町に向かった日の翌日の昼。
アレサとデラロサが、ちょうど昼飯を食べ終えた後くらいにそれは起こった。
「ベラムスまだ帰ってこないノー?」
「まだ来ないだろウ。場合によっては十日は帰ってこれないかもしれないと言ってたからナ」
「エー…………」
ベラムスがいないので、デラロサはかなり寂しそうにしている。
態度には出さないが、アレサもだいぶ心がざわついていた。
ひとりで行かせたけど本当に良かったのカ? もう帰って来なかったらどうしよウ? 話していると分からなくなるけド、ベラムスは五歳でまだあんなちっさいのニ、といろいろと不安な考えをしてしまう。
ベラムスが一日いないというのは、ベラムスが来てから始めてのことだったので、不安がるのも無理ではない。
ただその不安をしばらく忘れさせるような出来事が起きる。
「大変ダー!」
大声で村のゴブリンが叫んでいる。
なんだろう? と思いアレサとデラロサは外に確認しに行く。
ほかのゴブリンたちも同様に外に出てきている。
「大変ダ! 皆、北門に来てくレ!」
「何があっタ?」
「大勢のコボルドたちが来やがっタ!」
コボルド。
狼と人を混ぜたような魔物だ。
動きが素早く攻撃力が高い。
知能もある程度あり、結構危険な魔物である。
そのコボルドたちが、四十体ほど北門のまえに来ているらしいのだ。
急いで村長を呼んで、皆で北門に向かう。
そして防壁の上に登り外の様子を確認する。
確かに大勢のコボルドがいる。
大声で何かわめき散らしている。
「村長。あいつらがなんて言っているカ、わかるカ?」
「コボルドの言葉はワシにわからン」
「そうカ。もの凄く怒っているのだろうがなんて言っているのだろうカ?」
やたらとコボルドたちはわめき散らして、怒りをあらわにしている。
そして、コボルドたちは石を手にとって、門の上にいるゴブリンたちに向かって投げてきた。
「うわ!」
コボルドは結構、肩が強い。
石はなかなかの速度で飛んでくる。ゴブリンたちはなんとか避ける。
「オイ、どうすル!?」
「どうするっテ、追い払うしかないだろウ! ベラムスが教えてくれた魔法を使って追い払うゾ!」
魔法をつかって追い払おうとすると、
「マホウ! ここはアタシの出番だネ!」
とデラロサが言いながら、防壁の上に登ってきた。
「デラロサ! オマエは危ないから下ニ……」
「ロックブラスト!」
アレサの止める声も聞かずに、魔法をコボルドに向かって撃つ。
ロックブラストはコボルドに命中。コボルドは後ろに倒れる。
「ヤッター! 当たっター! まだまだ行くヨー!」
デラロサはそう言って、魔法を連射する。
魔法の連射はかなりの高等技術だが、デラロサはなんなく使いこないしているようだった。
魔法が何発も飛んできて、味方が何体も倒れて、コボルドたちはかなり怯む。
「デラロサの奴、相変わらずスゲー」
「負けてらんねーゾ! オラァ! ウォーターキャノン!」
デラロサの活躍に奮起して、他の若いゴブリンたちが、魔法を一斉に使い出す。
倒れまくるコボルドたち。
はっきり言ってここまで、激しい攻撃を受けると全く予想していなかったコボルドたちは、戦意を完全に無くし、一目散に逃げ出していった。
「逃げてっタナー」
「あっさりだったナ」
「コボルドッテ、結構怖い魔物だったよナ」
「こんな簡単に追い払えるなんテ」
「オレたちかなり強くなっタ?」
ゴブリンたちは自分たちがどのくらい強くなったか、実感した。
「ネーネー、何か落ちてるヨー」
デラロサが門の外を指差しながら言った。
何やら大きな袋が三つ落ちている。
コボルドが逃げ出すとき、忘れていったのだろう。
確認するため、外に出て回収してくる。
そして、中を見てみると、
「これは……」
「ニンゲン!?」