(大外れだと?)
大賢者は最初、聞き間違いだと思った。
しかし、間違いではなかったらしい。
母親は泣き出し、父親は沈痛な面持ちをしている。
(魔法天性が外れ? どういうことだ。この時代はどうなっているのだ? いやそれよりも、外れなら捨てられるのだろう?)
捨てられたら確実に死ぬ。
しかし、赤ん坊の状態では文句を言うことも逃げ出すこともできない。
母親は我が子を渡したくないので、必死に抵抗していた。
だが、最終的に、強引に剥ぎ取られる。
その後、大賢者は毛布に包まれたあと、鎧を身に纏った騎士に渡された。
どうやら信頼できる部下のようだ。
赤ん坊をフラーゼス大森林に捨ててくる役目を、父親から与えられていた。
父親は絶対に口外するな。情を捨てて必ず役目を果たせと、騎士に忠告する。
騎士はこうべを垂れ、役目を受けた。
そして、すぐさまフラーゼス大森林に向かった。
(どうする? どうすればいい?)
大賢者は、この絶望的な急展開の打開策を、頭をフル回転させて考えていた。
しかし、何度考えても、どうしようもない、との答えしか出ない。
体も動かせず、声も出せず、魔法も使えないのではどうしようもないだろう。
もはや運を天に任せるしかない。
森に捨てられたあと、偶然人に拾われる。なくはないが、可能性は低そうだ。捨てるなら当然人が来なさそうな奥地に置くだろう。
この騎士の良心にかけるしかないかもしれない。
父親は信頼していたみたいだが、もしかしたら赤子を捨てるという非道な行いをためらうかもしれない。
大賢者は淡い期待をもちながら、成り行きに身を任せた。
フラーゼス大森林につくまでそれほど時間を要さなかった。
騎士は奥地まで足を運ぶ。
途中、魔物に襲われるが簡単に返り討ちにしていた。
そして、なんの躊躇もなく赤ん坊状態の大賢者を木の根元において、そのまま去っていった。
大賢者はもはや自分の命運が断たれたと悟った。
こうなると、魔物に見つかって死ぬか、もしくは見つからずに餓死して死ぬか、どちらかだろう。
生まれる先を指定できなかったから、こうなる可能性もゼロではないとは思っていた。
しかし、死産ではなくきちんと生まれてこれたのなら、魔力が目覚める五歳まではなんとか生きてはいけるだろうとは思っていた。
(それがこうなってしまうとは、私が望んだことは人の身に過ぎたことだったのだろうか。私ひとりだけが、二度目の人生を送ろうとしてバチがあったのだろうか)
それなら仕方ないか……、と心で呟き大賢者は目を閉じた。
彼は自分に本当の死が訪れることを、受け入れ始めていた。
これはまた運命なのだろうと悟った。
ちょうどその時、
「ネーネー。お母ちゃン。なんかいるゾー」
その声を聞いた。