ベラムスは村を出て人間の町に向かおうとしていた。
町は西にある。二日分の食料を持って行く。
道中、金稼ぎをするため、魔物を倒す必要がある。
この森の西側に生息している、倒せば高く売れる素材を手に入れることのできる魔物は何がいるだろう、ベラムスは考える。
ざっと思い出したのが、ミスリルタートル、デススパイダー、マジックスライム、ヘルハウンド、スパイクスネークの五種。
それぞれ結構強力な魔物だが、ベラムスなら特に問題なく倒せる。
ちなみに、この五種の魔物は一度や二度、進化している。ゴブリンと違いフラーゼス大森林の環境が進化しやすい環境なため、自然に進化できるのだ。
とりあえずこの五種を積極的に狙いながら西の町を目指そう、そう決めてベラムスは歩き出した。
道中、ミスリルタートルとスパイクスネークに遭遇する。
ミスリルタートルは、亀の魔物だ。甲羅がミスリルという、かなり硬い金属でできている。
この甲羅を売ればかなり高い値段で売れる。
スパイクスネークは棘で体が覆われているヘビの魔物だ。
この蛇の棘には返しが付いており、一度刺さるとそうそう抜けない。
人が作る棘よりはるかに性能が良く、高い値段で売れる。
あくまでベラムスの前世では高く売れていたという話で、今は価値が下がっている可能性もある。
どちらも倒して、アロースパイダーと同じ方法で運ぶ。
その後、だいぶ歩いたが、この二種類以外の魔物は出てこなかった。
一日かけて魔物を探しながら森を歩いて、森の外に出た。
倒したのはミスリルタートル四体、スパイクスネーク三体だ。
この量でもそれなりの金になるだろうが、まだ足りない可能性が高いとベラムスは推測する。
足りない場合は、町で高く売れる魔物素材を調べて、その魔物を倒して売ればいい。
森を出てしばらく歩くと、街道に出た。
街道の先に城壁が見える。
ベラムスはそこに向かって歩き出した。
◯
「ちょっと君いいかな?」
門のまえまで行くと、門番に呼び止められた。
ベラムスは久し振りに人間の言葉を聞いた。ちなみに正確には”リンドール語”と呼ばれている。
「なんだろうか」
「いや、そのだな……君その格好……はまあいいとして。その上に浮いている白いのはなんだい?」
「魔法糸(マジック・スレッド)の魔法だ。ポピュラーな魔法だが知らないのか?」
「そ、そうなのか? まあ、僕は魔法に詳しくないからなぁ……何をする魔法なんだ?」
「物を運搬している。中身は魔物の死骸だ。売りに来た」
「そうなのか……念のため確認してもいいかい?」
「構わないが」
降ろして糸を解いて中を見せる。
「これなんて魔物なの? 初めて見るんだけど」
「ミスリルタートルにスパイクスネークだ。フラーゼス大森林にいる魔物だが、見たことないか?」
「フラーゼス大森林!? あんな危険なところの魔物なのか! そんなの滅多にここには運ばれて来ないよ」
フラーゼス大森林は、かなりの危険地帯だという扱いらしい。
ベラムスは少し妙に思う。
確かにフラーゼス大森林は危険な場所だが、冒険者ならそれなりに入ってもおかしくないはず。
(そういえばゴブリンの村に人間が来たことは一度もなかったな。あまりフラーゼス大森林には行かないようにしているのだろうか?)
そうなると、ミスリルタートル、スパイクスネークの価値はどうなっているのか。かなり高くなっている可能性が高いだろう、とベラムスは好意的に捉えた。
「これは君が倒したのか?」
そう聞かれてどう答えるか、ベラムスは迷う。
現在ベラムスの姿は完全に子供である。
変に騒がれるのもなんだと思い、
「いや、人が倒したのを運んでいるのだ」
と嘘を付いた。
「そうかー。とりあえず問題はないみたいだから、通っていいよ。タンケスへようこそ」
門を通る許可を得る。この町の名はタンケスというらしい。ベラムスの前世ではなかった町だ。
再び魔物の死骸を魔法糸で浮かばせて、町の中に入っていった。