18話 防壁を作る
防壁作りも土属性の魔法を使って行う。
家を建てる時に使った魔法マジックハウスは、防壁を作るのにも応用できる。
門を作るのが若干めんどくさいが、壁を作るのは難しくはない。
元々ゴブリンの村はそれほど広くはないが、オークたちが木を切って使えるようにしてくれた土地も防壁で囲むつもりなので、結構囲む範囲は広い。
消費魔力が多い魔法なので、まだゴブリンたちでは使うことができない。そのため、一人で行うことになる。
そのため、だいぶ時間がかかるとベラムスは予想していた。
実際予想通り結構時間がかかった。
家を建てた時に比べて、ベラムスの保有魔力は増えてはいるが、それでも作る範囲が広いため、完成まで三十日の時を要した。
ただ、これで村の防衛力はかなり上がった。
ゴブリンたちが魔法を使えるようになっており、遠距離攻撃が可能なため、そう簡単に侵入できないだろう。
それと、少し門を特殊な作りにした。
門を塞ぐ扉だが、普通の扉とはだいぶ違う。
引いたり押したりして開ける扉ではなく、上から引き上げることで開ける扉になっている。
そして、引き上げるのに、"ゴーレム"という魔法で作った自動で動く人形を使う。
上にゴーレムを配置し、特定の合図をすれば、ゴーレムが扉を開くという設計になっている。
時間はかかったものの、防壁が完成した。
これでだいぶ、ゴブリンの村も安全になったが、まだまだ、衣服を整えたり武器を作ったり農地を拡張したりとやることは多い。
ただ、衣服や武器なんかは、家とは違い手軽に作れる魔法が存在しないので、人間の町に行って買ってきたほうが手っ取り早いのではないか、とベラムスは思っていた。
当然買うには金がいるが、森にいる魔物を倒してその素材を売れば金は稼げる。
前世の頃とはものの価値が変わっているだろうから、高いと思ったものが安かったりすることはありるだろう。
ただ、全部が全部安くなっているとは考えづらい。
ベラムスは少し悩んで、人間の町に行くことに決める。
町には一人で行くことにした。
理由はゴブリンたちは人間に嫌われている可能性が高いからだ。
町に連れて行くと襲われるかもしれない。
ホブゴブリンに進化していたら、大丈夫かもしれないが、万が一にも危険な目に遭わせたくない。
ちなみに人間の町はゴブリンの村から西に行って、森を抜けたところにある。
少しまえ、村長に教えてもらった。
町までの距離はそれほど遠くないが、金を稼いだりいろいろやるとなると、行って帰ってくるまで最低でも五日はかかるだろう。
行くまえにアレサとデラロサには、キチンと説明したほうがいい、とベラムスは思った。
ちなみにメルーンの栽培はデラロサがいれば問題ない。
必要な魔法は全て使えるようになっている。
防壁を作っている時も、途中からデラロサが魔法を使うようになった。
出発は明後日にすると決めた。
そしてベラムスは出発する前日、
「明日から人間の町に行ってくる」
アレサとデラロサにそう告げた。
「エッ…………」
アレサが何やら尋常に無いほどの衝撃を受けたような表情をする。
なぜそんな顔をする? ベラムスが疑問に思っていると、アレサはぎこちなく笑い出しながら、
「そ、そうカ……とうとうその日が来てしまったカ……いつかそういう日が来るんじゃないかと覚悟はしていたガ……」
「ん?」
「ワタシもニンゲンのオマエハ、ニンゲンたちと一緒に暮らしたほうが幸せなんじゃないかとずっと悩んでいタ。お前は五歳だが村をここまで変えるくらい立派になっタ……ニンゲンたちと暮らしたいのなら、引きとめないほうがオマエのためになるかもしれン」
これは盛大に勘違いをされてるな、とベラムスは思う。
「エー! ベラムス、ニンゲンの町にいっていなくなっちゃうノ!? ヤダー!」
デラロサは涙を目に浮かべている。
「泣くなデラロサ! 別れの時は笑顔でいるんダ!」
「盛大に勘違いをしているようだな。私が人間の町に行くのは武器やら服やらを買うためだ。ちょっとしたら戻ってくる。永久に帰ってこないわけではない」
「エ、そうなのカ?」
「当然だ。確かに私は人間だが、それ以前にこの村の住人だ。他の場所に行く理由などない」
「ホ、本当カ……良かっタ」
アレサがほっと胸を撫で下ろす。
ベラムスが出て行くと思って、かなり衝撃を受けていたようだ。
「ベラムス出ていかないノ? モー! ビックリさせないでヨー!」
デラロサが怒る。
「切り出し方が少し悪かったなすまん」
ベラムスは謝った。
「でもニンゲンの町アタシも行ってみたいナー。付いて行ってイイ?」
「だめだ危険だ」
「エエー!? なんデー!?」
「人間にはゴブリンをよく思っていないものが多い可能性がある。それにデラロサには、メルーンの水やりをしてもらわねばならんからな」
「エー! ニンゲンの町、気になルー! 行ってみたイー!」
「デラロサ、わがままを言うナ」
アレサが、デラロサを叱る。
「そのうち連れて行くから、今回は我慢してくれ」
「ウーン……ホント?」
「本当だ」
「わかっター。でも、絶対いつか連れて行ってネー。約束だヨー」
「ああ」
いつに果たせるかは分からないが、ベラムスは約束をした。
そのうちゴブリンへの誤解を解いて、人間と交易なんかも出来るようになればいいとベラムスは思っていたので、その時がくればデラロサは人間の町に行けるようになるだろう。
そして翌日、ベラムスは人間の町に向かった。