17話 魔法
ベラムスはゴブリンたちを集めて、魔法について説明を始めた。
「魔法は訓練さえすれば、だれでもある程度までは使えるようになる。最初に基礎中の基礎である、ライトの魔法を教える。まず魔法を使うには成功した魔法を見る必要がある。私がライトを使うのでよく見ておいて欲しい」
そう言って、ライトの魔法をゴブリンたちのまえで使用する。
「この魔法を自分で使っているのを、頭の中でイメージしてくれ」
魔法を使うには成功した魔法を見て、それからその魔法を使うイメージを正確に頭の中に思い浮かべる必要がある。
「イメージが出来たら、ライトと口で言うんだ」
正確にイメージできたら、その魔法の名前を言うと、魔法が発動する。
口で言うのと、頭の中で言うのと、どちらでもいいのだが、初心者のうちは口で言わないとイメージが崩れてしまうので、最初は口で言えと教わる。
ゴブリンたちはライトと言い始める。
ただ、最初からちゃんと発動できるものはあまりいない。
ほとんどが、光が小さすぎたり、そもそも光が出なかったり失敗している。
「ヤッター！ できたヨー！」
なにやらデラロサが嬉しそうに騒いでいる。
ベラムスはデラロサのほうを見ると、明るい光の玉がデラロサの頭の上あたりに出来ていた。
「ほう。一回目で出来たのか」
「明るいネー！」
一回目で出来るものはそうはいない。
ゴブリンにも天性はある。デラロサは魔法天性かもしれない、とベラムスは予想した。
その後、ライトの消し方を教える。
時間の経過で自動的に消せるが、今すぐ消したい場合は、消えるようイメージをする必要がある。意外とこれが難しい。
ただ、デラロサは消すのも簡単に成功させたようだ。
そのあと、なんどもつけたり消したりする。自由自在に操れるようだ。
魔法天性があるといってもここまで、操れるのはかなり珍しい。
ベラムスは素直に感心する。
ちなみにほかに使えるゴブリンはいないようだ。
とはいえ魔法天性のゴブリンがいないというわけではない。
最初は普通でもあとから、才能を開花させるという例も多い。
逆にデラロサのようなタイプのほうが珍しかったりする。
「デラロサ凄いナ。ワタシなんてまったく出来ないんだガ」
アレサはだいぶ苦戦しているようだった。
「ベラムスー。ほかのマホウも教えテー」
「しばらく待て。ほかの皆が使えるようになってから教える」
「エー！」
このまま教えると、デラロサ一人だけに教えることになるので、ベラムスはそう言う。
デラロサは不満げな表情をするが、「ア、そうダ」と言いながら表情を変える。
何かを思いついたみたいだ。
そして、
「ウォーターキャノン！」
そう言った。デラロサがそう言った瞬間、水の弾が出来て前方に凄い勢いで飛んでいく。
「ヤッター！ 出来ター！」
さすがにベラムスも驚く。
「デラロサ。何故、ウォーターキャノンを使える」
「うーんト、まえベラムスが使ってたの見てたシ。いけるかなッテ」
（確かに農業をするとき、ウォーターキャノンの魔法をデラロサのまえで使いはしたが……結構まえに使った魔法をこうも簡単に使えるようになるとは……）
デラロサは、驚くベラムスを尻目にスモールクラウドやロックブラストなど、ほかの魔法も使っていく。
その後、魔力が切れたのか、魔法が使えなくなったようだ。
「すごいなデラロサのヤツ。天才なんじゃないカ」
「そうだな……」
「さすがワタシの娘だナ！ ……いや、ワタシはまだライトすら使えないガ」
自分の娘が魔法を使いこなすのは嬉しいが、自分が使えないのはちょっと情けないらしく、アレサは複雑な表情をしている。
（天才的なのは間違いないな。これは進化を重ねれば、魔法使い系の最終進化形態、ハイセージゴブリンになるのも夢ではないな）
ベラムスは、デラロサを見てそう思う。
ちなみに進化は途中で分岐する。
ホブゴブリンから次の進化は、魔法が得意なゴブリンはマジックゴブリンへ、魔法以外の戦闘が得意なゴブリンは、ソルジャーゴブリンへと進化する。
ゴブリンの最終進化形態は四つあり、ハイセージゴブリンは魔法がものすごく得意なゴブリンだけがなれる。
その後、二日ほど練習したら、ほかのゴブリンたちもライトの魔法を使えるようになった。
ほかの魔法も教えていき、簡単な攻撃魔法くらいなら皆使えるようになっていた。
ちなみに、デラロサ以外でも子供ゴブリンの方が大人より魔法の習得が早く、結構いろんな魔法が使えるようになっている。
どんなものでも、大人より子供の方が成長しやすいものだ。
基礎の魔法を覚えたら、しばらく魔法を教えるのはやめることにした。
防壁をまだ作っていないので作りたいし、オークたちが木を切って使える土地をだいぶ広げてくれたので、農地を増やしたり、いろいろやりたいことがあったからだ。
デラロサは不満そうだったが、「まずは保有魔力を増やす練習をしろ」と言ってベラムスは説得した。
結局どんな才能があっても、保有魔力は地味な練習でしか伸びない。
少し不満げなデラロサだが、説得に成功。
今は頑張ってライトの魔法を使って消してを繰り返して、魔力を増やしている。
そして、村の安全性を高めるための防壁作りをベラムスは始めた。