16話 アロースパイダー狩り
ベラムスはアロースパイダーを探す。
洞窟の中にアロースパイダーは潜んでいる。
近くに洞窟がないか、ゴブリンやオークたちに聞いてみたところ、ゴブリンの村の北東あたりに洞窟があるらしい。ちなみにその洞窟は結構危険なのでゴブリンたちは立ち寄らない。
ベラムスはその洞窟に向かう。
数分後到着。道中、魔物などに襲われることはなかった。
洞窟の中に入る。
暗くてまえが見えないので、ライトの魔法を使いながら先に進む。
アロースパイダーは糸を巣作り以外に、攻撃にも使ってくる。
具体的にどう使うのかと言うと、糸を螺旋状に先端を尖らせるように束ねる。
何重にも糸を束ねることでかなり硬くなり、まるで矢のようになる。
その矢になった糸を飛ばして、攻撃するのだ。
結構威力は高く、まともに当たれば鋼の鎧すら貫く。
ただ、一旦糸を作って飛ばすまで、数十秒かかるため、基本的には攻撃されるまえに倒せば何の問題もない。
ベラムスは洞窟の中を歩いていく。道中、ほかの魔物に襲われるが難なく倒す。
そして、洞窟を歩いて数分が経過したとき、
(いる……)
ベラムスは、天井のほうに気配を感じる。
アロースパイダーはその特性上、地面を移動することはまずない。
上のほうに巣を張って、敵が届かない位置から地面に獲物が通るのを待ち、通ったら射殺す。
殺したあとは、糸で死体を回収し食べる。
天井までよく見えないので、ライトの魔法を強くした。
すると、天井に三体のアロースパイダーが巣を作っていた。
どのアロースパイダーも矢を作り、ベラムスを狙撃しようとしている。
即座にベラムスはライトアローの魔法を三連射。
三発とも命中。
アロースパイダーは死亡し、地面に落ちてきた。
全部成虫のアロースパイダーのようだ。
大人のアロースパイダーはゴブリンよりも大きいくらいだ。
ゴブリンが進化するためには、このアロースパイダーの足を三本くらい食べないといけない。
少し食べたら進化するというわけではない。
洞窟の中には結構アロースパイダーがおり、十体しとめた。
それ以上はいないみたいだ。
全部で十三体で足は百四本。足だけだとたりないが、胴体も食えるので大丈夫だろう。
運搬は魔法を使って行う。
まずアロースパイダーを一箇所に集める。
そして魔法糸と呼ばれる特殊な糸を、魔法を使って出す。
その糸でアロースパイダーの死体をまとめてグルグル巻きにする。
隙間なく糸を巻いたら、魔力を込める。
すると、ふわふわと浮き始める。
手に一本糸があるので、それを引っ張れば苦もなく運ぶことができる。
そして、帰る途中、ベラムスはある石を見つける。
"光集石(こうしゅうせき)"だ。これは良いものを見つけたと、ベラムスは喜ぶ。
光集石にライトなどの光属性の魔法を当てると、光を吸収する。
吸収すると、光を発するようになり、周りを明るく照らす。
一度光を吸収させると、三日ほど光を発し続ける。夜にこの石があると非常に便利だ。
どうやらこの洞窟には多くの光集石があるみたいだ。
今はアロースパイダーを運ぶ必要があるが、今度また来て採掘しよう。
ベラムスはそう決めて、光集石を四個拾って、洞窟を出た。
村に帰る。
アロースパイダーを見たゴブリンたちの反応は、これを食うのか……という感じだった。
そのまま食えば、あまりにも苦くて食えたものじゃない。
この苦味を出している原因は、アロースパイダーの体液だ。
緑色の体液で、これが苦い。
しっかりとこの液体を抜いて、そのあと身をしっかりと洗って、さらに入念に煮込んだら、一応食べれるくらいの苦さに緩和される。
とりあえず、きょう食べる分の調理を終える。
一回で全部食べるのは多すぎるので、三日くらいにわけて食べる。
余ったアロースパイダーは腐敗防止の魔法をかけて、食料庫に入れた。
そして、ゴブリンたちにアロースパイダーを食べさせる。
反応は、
「ウーン……」
「食えなくはないケド……」
「うまくはないナァ……ニガイ」
ベラムスが予想していた通りの反応だった。
デラロサは苦いものが苦手で、かなり苦しみながら食べていた。
ベラムスはかなり可哀想なことをしている気分だったが、よほど魔法を使えるようになりたいのか、デラロサは時間をかけながらも食べ終えた。
ちなみにそのあと、これで終わりじゃないと言われると、デラロサは絶望的な表情を浮かべていた。
翌日、翌々日も同じようにアロースパイダーを調理して食べてもらった。
村にはまだ進化できない5歳以下の子供ゴブリンが、七体いるので、その子たち以外のゴブリンはすべてアロースパイダーを食べた。ちなみに村長も食べた。「この歳になってホブゴブリンになっても、もうすぐ死ぬから意味ないのにノウ」と言っていた。
必要量は食べてもらったが、すぐ進化するというわけではない。
一度寝る必要がある。
寝て起きたらホブゴブリンに進化するのだ。
そして、アロースパイダーを食べ終わった日の翌朝。
「ヤッター! シンカしたー!」
デラロサのその声で、ベラムスとアレサは起こされた。
「うるさいゾ、デラロサ……ン?」
アレサは体に違和感を感じる。
なにが起こっタ? しばらく考えると、
「そうだっタ。進化したんだったナ」
進化したこと思い出す。
ホブゴブリンとなったアレサは容姿が人間に近づいた。額からツノが生えているところ以外は、人間とほぼ一緒だ。
元々ゴブリンのほうでも背が高いほうだったので、現在のアレサはかなりでかい。
百七十センチくらいある。
「おはよう。成功したみたいだな」
「そうみたいだガ……そういえば服が着れないのだガ。これじゃあ、外に出歩けン」
元々胸と下半身を隠すだけの衣装だったが、大きくなったせいで着れなくなり。現在アレサは全裸である。ゴブリンにも羞恥心は存在した。
「新しく作るしかないな」
服は狩りでしとめた動物の皮で作っている。
資材置き場にいくつかあるので、それを取って来て新しく作ることにした。
「そんなことよリ、早く魔法教えテー!」
デラロサは待ちきれないといったようすだ。
ホブゴブリンになってデラロサも、容姿が人間に近づき、大きくなる。
成長したといっても七歳なので小さいのだが、ベラムスにあっさり抜かれていた身長を、逆に抜き返している。
「魔法はもうちょっとしたら教えるから。今は村のゴブリンたちの様子を見てくる」
「エェー!」
ゴブリンたちを見て回る。
皆、ホブゴブリンにきちんと進化していた。
その後、皮を使い、村の皆で新しい服を作った。
ゴブリンたちを進化させたあとは、デラロサの要望もあり、ベラムスは魔法を教えるつもりだ。