13話 農業
ベラムスは最初に農地を作ることを決めた。
この村には大きな空き地はないが、小さな空き地はそこらにある。
最初はそこまで大量生産する必要はないため、小さな空き地を使って農業をすることに決めた。
まずは育てる農作物を何にするかだが、これは一応目星はつけていた。
『メルーン』という名の植物である。
メルーンは、ヒゲのような花を生やすのが特徴の植物で、村の周辺の森に、いくつか生えている。
大量のつぶつぶの実をつける植物であり、その実を食べるのだが、通常の状態では食べることができない。毒があるからだ。
死ぬことはないが、二日ほど体が痺れて動けなくなる毒がある。
煮ても焼いてもその毒は消えない。
なので、ゴブリンたちは絶対に食べないのだが、メルーンを食べられるようにする方法がある。
それは『魔法水』という水を使って育てる、という方法である。
魔法水とは魔法を使って作った水のことである。
魔法水にも毒のような成分があり、少量ならいいのだが、ある程度飲んでしまうと、頭痛や嘔吐などの症状が現れる。
魔法水を使って、メルーンを育てれば普通に食べられるようになる。実は甘くて美味しい。
なぜ毒が消えるか原理は不明である。
ベラムスは、近くの森の周りを歩きメルーンを十本採集した。
メルーンの実は種にもなる。
一本に大量の実が付いているため、十本あれば、結構な量のメルーンを育てることができる。
メルーンをどこで育てるかだが、ベラムスの自宅の近くにそこそこ広い空き地がある。
アレサに農業用の土地として使っていいか、ベラムスは尋ねてみた。
「ノウギョウとはなんダ?」
「食べられる植物を育てることだ」
「フーン、面白そうだナ……ってベラムスが持っているのは、メルーンではないカ! まさかそれを育てる気カ!?」
「そうだ」
「それは食べられんゾ! ワタシは子供のころ食べテ、ひどい目にあったんダ! 育てるなら別のモノにしロ!」
「大丈夫だ。これを食べられるように育てる方法がある」
「……ほ、本当カ? 煮ても焼いても食えないぞそれハ」
「育てるときに使う水を変えれば問題ない」
「そうなのカ……?」
半信半疑といったようすだが、アレサは土地を使う許可を出した。
それから、ほかに二ヶ所農地に出来そうな場所を見つけて、近くに住むゴブリンに許可を取った。
皆、許可を出してはくれたが、メルーンが食べられるようになることについては、半信半疑だった。
まず、畑を作る必要がある。
最初に自宅の付近の土地を耕す。
土魔法を使って耕すと、結構すぐ終わる。
目算でこの土地には、メルーンを四十本ほど育てられそうだ。
その後、アレサとデラロサにも手伝ってもらい、種まきをする。
デラロサが途中、美味そうだからとメルーンを食べようとしたので、全力で止める。
種まきを終える。
その後、水やりだが、これにはある魔法を使う。
「スモールクラウド」
"スモールクラウド"の魔法。小さな雲を作り出す魔法だ。
農地の上に雲がかかる。
「ウワー雲ダー」
「魔法は雲も作れるのカ……デモ、水やりをすると言ってたのニ、雨は降っていないみたいだガ」
雲は真っ白で、雨は降っていない。
ベラムスは雲に向かって、再び魔法を唱える。
「ウォーターキャノン」
"ウォーターキャノン"水の弾丸を飛ばす魔法。
水の量は結構多い。
その水が雲に当たると、水が雲に吸収される。
そして、雲の色がみるみる灰色になっていき、雨が降り出した。
「オオー雨ダー」
「こうすれば均等に効率的に水やりができる」
「魔法って便利だナ……」
ちなみにスモールクラウドは、数分経つと自動的に消える。
「この雲から降っている水は飲んだら駄目だぞ。体に悪いからな」
ベラムスは忠告した。
「体に悪いのカ……? ちょっと待テ、毒の持つ植物を体に悪い水で育てテ、それで食えるようになるのカ?」
アレサの疑惑が深まったようだ。
それから、スモールクラウドの上に魔法で透明なシールドを張った。
普通の雨が降ったらまずいため、シールドを張って雨を避ける必要がある。
さらにシールドを、畑を囲うように張っていく。
このシールドは二週間ほど継続して張れる。
その後、ほかの場所も同じように、耕して、メルーンを植えて、水をやった。
順調に育てば、全部で百三十本ほどのメルーンを育てられるだろう。
魔法で作物の成長を早めることが可能なので、だいたい二週間ほどで食べられるようになる。
そのうちもうちょっと大きな農場を作るべきだと、ベラムスは思っていたが、とりあえずこのくらいあればある程度、食糧事情が改善するだろう。
農地を作り終えたあとは、家の改築を行う予定だ。