11話 帰還
「もう我慢ならン! ワタシはいくゾ!」
「アレサ! 落ち着くのジャ!」
「そうダ! オレたちがいってもどうにもならんゾ!」
時刻は夕方。ゴブリンの村、中央にある広場。
そこに村のゴブリンたちが、話し合いをするため、集合していた。
内容は、オークたちの襲撃に関すること、それからベラムスのこと。
ベラムスの母であるアレサが、助けに行こうとしているのを、ほかのゴブリンたちが必死に止めていた。
「ワシらが行ったところデ、オークには敵うまイ。ここはベラムスに賭けるしかあるまイ」
村長がそう言った。
「賭けるっテ、ベラムスはまだ五歳だゾ!」
「確かにまだベラムスは幼い。しかし、オークをあっさりと倒したあの魔法……ベラムスには何か特別な力が備わっておるのジャ」
「それはそうだガ……しかし、ちょっと前まであんなに小さかったベラムスだゾ……」
アレサは不安で不安で仕方ないみたいだ。
「どっちにしロ、オークの拠点がどこにあるのかわからないのでハ、いくことは不可能ジャ。腹をくくって待つしかなイ」
「グゥ……」
アレサは唇をかみしめる。
ほかのゴブリンたちも不安げな顔をしていた。
ただ、ベラムスはどうせ死んでしまっているだろうから、この村は放棄していまのうち逃げてしまおう、と提案するものはいなかった。
「大丈夫だヨー。ベラムスは約束やぶらない子だもン。きっともうすぐ帰ってくるヨー」
デラロサが明るい口調でいった。
この場で唯一不安げな表情をしていないのはデラロサだけだった。
彼女だけはベラムスが帰ってくると信じて疑っていなかった。
そして、
「アー。ベラムスダー!」
デラロサが明るいトーンでそう言いながら、かけだしていった。
ほかのゴブリンたちも驚いて、村の入り口のほうを見る。
そこには、後ろに一体のオークを引き連れている、ベラムスの姿があった。
「オカエリー」
デラロサがベラムスに近寄りそう言った。
「ただいま戻った」
「そのオークはなニー? お友達になったノー?」
「いや、こいつは……」
説明しようとすると、
「ベラムス!」
アレサが名前を呼びながら駆け寄ってくる。ほかのゴブリンたちも遅れて駆け寄ってきた。
「オマエ、無事デ……そのオークはなんダ!?」
ゴブリンたちはオークのバルボラに怯えているので、ベラムスは事情をすべて説明した。
そして、オークに謝らせたあと頭を下げさせる。
「ソ、村長。オークのやつはなんて言っテ、頭を下げてるンダ?」
「ゴブリンを侮辱したこト、ゴブリンを殺そうとしたこト、どちらもすまなかったト……」
ザワザワとゴブリンたちが騒ぎ出す。
「本当に敵のボスを倒したのカ!?」「あのオークが謝っていル!?」「この村に攻めてくることは、なくなったのカ!?」「ベラムスはやっぱリ、ただものじゃなかっタ……」
ゴブリンたちが騒いでいるなか、
「やっぱりアタシの言うとおりだったでショ!」
と、デラロサが誇らしげに言った。
「それにしてモ、ベラムス。オマエなにも言わずに飛び出すなんテ、無茶なことしやがっテ。ワタシがどれほど心配したト……」
そう言ったアレサは、怒り半分喜び半分という複雑な心境だった。
「無茶ではない。高い勝算があったから私はいったのだ。心配をかけたのはすまなかった」
「相変わらずオマエハ……」
澄まして表情を変えないベラムスを見て、アレサは若干呆れる。
「まあいいジャロ。すべてうまくいったんジャ。きょうは宴を開くとしよウ!」
村長がそう宣言した。
その夜、ゴブリンたちは、ベラムスが無事帰ってきたことと、オークたちの襲撃を防いだ祝いとして宴を開いた。
ちなみに宴には、オークのバルボラもなぜか参加。
最終的に被害を受けずにすんだからか、ゴブリンたちは根に持たないタイプなのか、オークにたいして怒りを持っているものはいないようだった。
ただバルボラは、常にベラムスが近くにいて目を光らせているため、借りて来た猫のように身を縮こまらせている。あまり居心地はよくないようだった。
そして宴は終わり、いろいろあった一日が終わった。