10話 その後
「ラ、ライドス様?」
キング・ライドスが倒れたあと、付き従っていたオークたちがうろたえ始めた。
数十秒たって、ようやく自分たちのボスが一瞬でやられたという現実を受け入れ始める。
「さて」
ベラムスが口を開く。
その瞬間、「ヒィ!」とオークたちの口から悲鳴が漏れた。
オークは弱いものは徹底的に見下し、強いものにはものすごく弱気になる魔物。
恐怖でオークたちを支配していたキング・ライドスを一瞬で殺したベラムスに、オークたちは震え上がるほどの恐怖心を抱いていた
逃げ出したいと全てのオークは思っていたが、動くことすらままならない。
震え上がるオークたちを見て、これからオークたちをどうするかベラムスは悩む。
(オークたち全員を殺すのは容易いが、それはやり過ぎだろう。攻めて来ようとしてただけで、実際にゴブリンの村に損害を与えたわけではないからな。放っておいてもしばらくは来ないだろうが、数年経って、キング・ライドスのように進化したオークが出れば、どうなるかはわからない。そうだな……)
少し考えて結論を出す。
「貴様らのボスは私が倒した」
「へ、ヘイ……」
「なので、今から私が貴様らのボスだ。これからは私の命令に従ってもらう」
「へ、ヘイ……?」
いったん支配下に置けば、再び牙を向いてくるのを防止できると判断した。
それと、これからゴブリンの村を改築して、住みやすい村にしようとベラムスは考えていた。
オークは力は強いので、そのための労働力として結構使えるだろう、という狙いもあった。
ただ、いきなり村にオークたちを連れて行くわけにはいかないので、改築を始めるまではしばらく砦にいてもらうことになるだろう。
「手下になれってコト……?」
オークたちは予想外の提案に、だいぶ戸惑っているようだ。
「嫌なのか?」
凄みをきかせて、そう問うと、
「イヤイヤイヤ、滅相もないでス! 次のボスはあなたでス!」
ペコペコとその場のオークたちが、一斉にこうべを垂れた。
強い相手には徹底して平身低頭するのが、オークたちのやり方である。
その後、
「私は今すぐゴブリンの村に帰る。貴様らはその間、砦で大人しく暮らしておけ。それと、キング・ライドスの死体は片付けておけ」
とベラムスは最初の命令を出した。
さらにその命令に付け加え、
「私がいない間に逃げても、貴様らの居場所は魔法で容易に探知できる。逃げようとは考えるなよ」
オークたちを脅した。
半分嘘である。探知は可能であるが、めんどくさいため、逃げてもわざわざ探そうとは思っていなかった。
嘘ではあるが脅しとしては成功していたみたいで、オークたちはコクコクと頷いている。
そして、オークたちは命令に従いキング・ライドスの死体を引きずり、砦に引き返していった。
そのまま帰ろうと思ったが、手ぶらで帰ったら、オークを倒した証をゴブリンたちに示せないことにベラムスは気づく。
村のゴブリンたちは不安でいっぱいだろう。その不安を解消させないといけない。
(死体の処理をやめさせ、キング・ライドスの首を持っていくか? いや、野蛮な行為はなるべく避けたいな)
どうするか少し考え、
(ゴブリンの村に来ていたオークを連れていくか。ゴブリンに暴言を吐き、殺そうとしたことを謝罪させれば、皆、事が丸く収まったと理解し、安心するだろう)
オークを一体連れていくと決めた。
オークたちに、村に来たオークたちを連れてこいと、ベラムスは命令した。
オークたちは大人しく従う。
その後、10体のオークが連れてこられる。
「お、お前ハ! なぜここ二!? 出られたと思ったらどうなってル!? キング・ライドス様ハ!?」
混乱しながらそういったのは、ゴブリンの村で、ゴブリンを貶したり、殺すよう命令していたオークだった。
オークたちは、見分けがつきにくいが、注意深く見れば少し違いがある。
ほかのオークたちが事情を説明すると、かなり衝撃を受けたような表情をした。
ベラムスは、そのオークを指差しながら、
「そいつだけでいい。ほかのものは戻れ」
そう命令した。
命令に従い、ほかのオークは帰っていく。
「貴様、名前は?」
「バ、バルボラ」
「バルボラか。今からゴブリンの村に帰るから、貴様もついてこい」
「へ、ヘイ……」
説明を求めることなく、バルボラはただただこうべを垂れた。