ゴッドガードが倒れ、宝箱が出てくる。
「本当に倒せるとは……」
ロックが唖然とした表情で呟いた。
ほかのパーティーメンバーは倒せたことに驚き、口も開けないようだ。
「宝箱を開くぞ」
ペペロンは表情は一切変えずに、淡々とした口調でそう言いながら、宝箱を開けに行く。
ゴッドガードは部下たちと協力して戦えば確実に勝てるレベルの敵ではあったので、倒したことにペペロンは達成感を感じてはいなかった。パナかリーチェが、死ぬ可能性もあったので二人とも無事だったのはよかったな、と思っていた程度だ。
大事なのは宝箱の中に何が入っているかだ。
いい物を引き当てられれば、これからだいぶ楽になってくる。
ペペロンは、ゆっくり宝箱を開けた。
中には宝石のほかに、本も入っている。
大事なのは、何の本かだ。使えない魔法だったり、すでに持っている魔法書だった場合、大外れである。
本を宝箱の中からペペロンは取った。何の魔法書かを確認する。
「パワーエンチャントか。当たりだ」
ペペロンは、部下がいる手前、淡々と言ったが実は小躍りしたいほどだった。
このパワーエンチャントという魔法、物凄い有用な魔法だった。
等級は二。かけたものの筋力を三十分間上げるという魔法だ。筋力が高いと近接戦闘で、相手に与えるダメージが高くなる。
マジック&ソードというゲームでは、支援魔法が非常に強力だ。魔法を使う時の消耗が少ないし、ステータスの上昇率が非常に高く、知力が優秀な者が使用したら、倍になるくらいまで上がる。
元々筋力値が高い者が、知力の高いものにパワーエンチャントをかけられると、凄まじい筋力になり攻撃力がとんでもないことになる。
今回のボルフの塔攻略も、パワーエンチャントを使えていればもっと楽に攻略できたであろう。
あるかないかで、大きく変わる魔法なのである。
「さて残りの宝は全部やろう」
「へ?」
嬉しかったので、本以外の宝は全てロックたちにあげることにした。
「いやいや、僕たち大したことしてないから、こんなに貰うわけには」
宝箱はモンスターハウスから出た者よりも、大きく、入っている宝石の量も多い。売れば相当な値段がつくだろう。自分たちの働きに満足していないロックは遠慮する。
「最後はお前たちがいたから、楽に倒せた。このくらいは貰ってくれ」
本心だった。スモール・ヴァルキリーたちが出てきた時、彼らがいなければ、もしかしたらパナかリーチェがやられていたかもしれない。ロック達はヴァルキリーを、大勢倒していた。
「貰えるものは貰っておきましょうよー」
「俺、最近金欠なんだよ」
「私は、欲しいものがありますし、貰えると非常に嬉しいです」
ロック以外のパーティーメンバーは、貰う事に賛同する。
その声にロックも折れて、
「分かった貰うよ。今度はもっと活躍したいな」
といって宝を取った。
「では帰るぞ」
ゴッドガードを倒した後、転送陣が部屋に現れていた。
これに乗れば一階に帰れる。
全員転送陣に乗り、一階に戻った。
○
その後、ぺペロン達は街に戻り宝石の換金をする。10万ゴールド。結構な金になった。
「もう行くのかい?」
「ああ」
「そうか。今回は凄い物を見せてくれてありがとう。世の中にはまだまだ僕たちの知らない凄い人がいるってことを思い知ったよ。元気でな」
「そちらこそ、死なないよう頑張れよ」
「ははは、いつ死ぬか分からない仕事だから、その約束は守れるか分からないけど、なるべく気を付けるよ」
そう言いながら軽く握手を交わし、分かれた。
「それでは、拠点に帰るぞ」
「「「はい!」」」
ペペロン達はみんなで、ララたちの待つ拠点へと帰還した。
帰りの道中。
「今回はいい経験をしたけど、最後塔ではあんまり役に立てなかったね」
「それどころか足を引っ張ってただろ」
パナとリーチェが会話をしていた。
「やっぱりそう思う?」
「確実に引っ張ってた。来なきゃよかったかな」
パナが軽くため息を漏らす。
「そんな事ないよ。今回は確かに足を引っ張っちゃたかもしれないけど、でも、ぺペロン様たちの動きを見て、もっと強くなれたよ」
「そう……だな……」
「次は足を引っ張らないよう頑張らないとね!」
「ああ」
パナは覚悟を決めて返答した。
(いずれ、あの人と肩を並べて戦えるくらい強くなる。そして……)
そこまで考えてパナは首を横に振る。
(な、なにを考えているんだ私は! そんなよこしまな感情じゃなく、単純に役に立ってないのが、悔しいから強くなって横に並んで戦えるようになりたいと思ったけだからな!)
頭の中の言葉を誰に聞かれているわけでもないのに、言い訳がましい説明をする。
とにかく、絶対に強くなってみせると、二人は今回の遠征で強い決意を固めた。
○
「奴ら相当強いですね」
「ええ、あのアジトを潰しただけはあるわ」
ペペロン達が拠点に帰るようすを監視している男女が二人。
二人の存在にペペロン達は気付いていない。こういった監視や尾行に気付きやすくなるスキルを、ペペロンは高レベルまで上げているのだが、それでも気付かない。二人の監視能力が、いかに高いかが分かる。
「倒せるかな?」
「倒すわよ必ずね。私たちのような者は舐められたら終わりなのよ」
「そうだね」
「幹部として、アジトを潰した奴を放っておくわけにはいかないわ。必ず報いは受けさせる」
女は鋭い視線をペペロン達に送りながら言った。
「さて、監視はやめにしていったん帰りましょう。奴らに対する情報をあらゆる角度から、調べて丸裸にするのよ。それから報いは受けさせるわ」
「回りくどいやり方っすね」
「ああいう正面からやり合っても、まず勝てない相手は策を練って攻めるのよ」
「卑怯っすねー」
「それは私たちBBCには、褒め言葉ね」
女は微笑し、ペペロン達から監視の目を外したあと、自分たちのアジトへと帰って行った。
【あとがき】
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