シンを殺したあとペペロンは、部下たちがゴーレムを倒し切れているのかどうか確認してみる。
まだ倒し切ってはいないようだったが、戦いは部下たちが優勢だった。あと数秒もすれば、どちらも倒し切れるだろう。ペペロンは援護する必要はないと考え、戦う様子を見ていた。
そしてペペロンの考え通り、数秒後決着がついた。勝者はもちろん部下たちだ。ゴーレムは破壊され機能を停止させられていた。
「お待たせしましたペペロン様。申し訳ありません待たせてしまって」
ゴーレムを倒したあと、ララはペペロンに謝る。
「たった数秒だ。構わん。先に進むぞ。登録装置がある部屋まであと少しだ」
ペペロンはそう言って、登録ルームまで向かい歩き始めた。部下達も彼に続いた。
○
登録ルーム内部。
パナとリーチェは、ペルストに出くわしていた。その場にいたのはペルスト1人だった。
「パナ……てめーには騙されていたようだな」
ペルストが口を開く。彼は怒りの形相を浮かべていた。
パナは振り向いて、すぐさま部屋から出ようとする。
しかし、扉をゴーレムが塞いでおり、出られそうになかった。
「無駄だ無駄。ここから逃げることは出来ない」
「……っち!」
パナは舌打ちをしながら、ペルストを睨みつける。
「睨むなよ」
「な、なぜお前がここにいる」
声を震わせながらパナはそう尋ねた。彼女の表情は歪み、頰に一筋の汗が流れている。かなりの動揺がその様子から見て取れた。
「この部屋は防衛上かなり重要な部屋だからな。俺の部屋から、すぐ行けるよう、秘密通路がある。警報がなった瞬間、なった場所を確認したら、ここの近くだったから、急いで向かった」
「……」
ペルストは怒りの表情を崩さないで、説明をする。
「しかし、パナ。てめーが俺に尻尾振ってたのも、全部脱出のためだったとはな。まんまとてめーに情報を流していた俺は間抜けじゃねーか」
パナはペルストの言葉を聞きながら、部屋を見回してどうやって逃げるか算段を立てようとする。
しかし、逃げられそうな出口は見当たらない。
「だから無駄だって言っただろ? 逃がさねーよ。俺は結構ブチ切れてんだよ。自分の間抜けさと、奴隷に過ぎないゴミクズがこの俺を騙していたという事実にな。てめーはここで、拷問したあと殺してやる。そっちの奴隷エルフもついでに殺す。てめーの運命は既に決まってんだよ」
ペルストがゆっくりと歩きながら、2人に近づいてくる。
パナは頭をフル回転させ、対処法を考える。
そして、出た結論は、
(倒すしかない……)
相手はペルスト一人。ゴーレムは中には入ってこれないようなので、2対1で戦うことが可能だ。
パナは隠しナイフを保有しており、リーチェは刀を持っている。武器は持っているので勝ち目がないわけではないと、パナは判断する。
「リーチェ……戦うぞ」
パナは小声で話しかける。
リーチェは、「うん」と言いながら、頷き、刀を抜いた。
パナも懐からナイフを取り出す。
「戦う気か? ははは、わかってねーなてめーら」
ペルストは余裕の構えだ。腰にかけている剣に手をかけすらしない。
隙だらけにしか見えない。パナとリーチェは同時にペルストに斬りかかる。
ペルストは、2人の攻撃をあっさりと避けた。
避けると同時にリーチェの腹に一撃パンチをお見舞いする。
「カハッ……!」
強烈なパンチを腹に受けたリーチェは、あまりの痛みに腹を抑えて倒れこむ。
「リーチェ!」
ペルストはその後、リーチェの握っていた刀を手に取り、リーチェの足の腱を切り裂く。
「っっっっ!!」
リーチェは痛みに顔を歪める。足の腱を斬られて、これで歩行が不可能になった。
「舐めやがって。ふん。俺はBBCのアジトを束ねるリーダーだぞ? てめーら雑魚2人にやられるほど、弱いわけがないだろうが」
パナは一連のペルストの動きを見て、その言葉が真実であると悟った。
「ま、このエルフの相手は後回しだ。俺が本当にムカついているのはてめーだからな、パナ。てめーは散々苦しめた末、ぶち殺してやる」
パナは唇を噛みしめる。かなり絶望的な状況だ。
これはあれを使うしかない……パナはそう思い、懐から、あるものを取り出した。
「てめーそれは……」
パナの手には爆岩があった。彼女は爆岩を2つ所持していた。
「動いたら、爆発させる……!」
「そんなことしたら、てめーも死ぬぞ」
「お前に好き勝手やられて死ぬくらいなら、巻き添えにして死んだ方がマシだ。巻添えになって死にたくなければ、この部屋から今すぐ出て行きやがれ」
「そうか……そいつは困ったな……なんて、言うと思ったか?」
ペルストは全く余裕の態度を崩さない。パナはその態度に疑問を持つ。いくらペルストが強いといえ、このアジトから採掘された爆岩は強力無比である。この距離で爆発されたら間違いなく死ぬだろう。
(ブラフだと思っているのか? 奴はこのアジトのリーダーで、爆岩については人一倍詳しいはず。私の持っている爆岩が本物であることなど見た瞬間にわかるはずだ。巻き添え死を選ぶ度胸が私にないと思っているのか? ……上等じゃねーか。本気だってこと分からせてやるよ)
パナは本気だった。リーチェと自分を殺すことになろうとも、ペルストの拷問を受けて死ぬよりかは間違いなくましだと思っていた。
「出て行かねーのなら、3秒後落とす」
「てめーが本気だということは重々承知だ。やってみろよ」
「なんだと……?」
挑発するようなペルストのセリフにパナは眉をひそめる。
本気だと理解していないわけではない。では何故だ? 少し考えたが理解できない。
3秒経過する。パナの覚悟は本物だ。彼女は不気味さを感じながらも、意を決して爆岩を床に叩きつけた。
爆発して、部屋にいるものは全員死亡……するかと思われたが、爆岩は爆発しなかった。
コロコロと不発に終わった爆岩が、床に転がる。
「な……なに!?」
パナは驚愕する。自分が持っていた爆岩は間違いなく本物だったはずだ。
「不思議そうだな。その爆岩は確かに本物だぞ」
「バカな。じゃあ何故爆発しない!」
「これだよ」
ペルストは右手の甲をパナに見せる。彼の右手の中指には銀色の指輪がはめられている。
「その指輪がどうしたってんだ」
「爆岩がこんなに大量にある場所で、なんの対策もせずにいるほど俺は愚かじゃあない。この指輪には半径20m以内で爆岩を爆発出来なくする効果がある。 非常に高価なものだから、俺以外持っている奴はいないがな」
そんなものをペルストが持っているとは、パナは初めて知った。
「お前は俺から全ての情報引き出したと思っているみたいだが、残念だったな。俺は他人を100パーセント信じる男ではないんでね。それでもお前は80パーセントは信用していた。その信用を裏切りやがった罪は重い」
ペルストはパナにじりじりと近づく。
パナはナイフを構えながら後ずさるが、どこにも逃げ場などない。手が届く位置まで距離を詰められる。
「覚悟しろ」
「うあああ!」
パナは叫びながらナイフを振るうが、すぐさま腕をつかまれ、ナイフを奪われる。
ペルストは、パナをうつ伏せになるように押し倒す。
「犯してやるのもいいが、小人じゃ小さすぎて、勃たねえ。やっぱ拷問だな」
そう言って、ペルストはパナの手を取り、奪ったナイフで、パナの親指の爪と肉の間を突き刺した。
「あガァアアアアアア!!」
あまりの痛みにパナは絶叫する。
「さて次だ」
「やめろ! やめろ!!」
パナはやめるように懇願するが、次は人差し指の爪と肉の間にナイフを入れた。再びパナは絶叫する。
あまりの痛みに気を失いそうになるが、逆に痛すぎて失いそうになった意識が戻るという地獄のような状態が続く。
「やめて……やめてください……」
パナは力なくそう呟いた。あまりの痛みに彼女の心は折れていた。
「やめるかよ。奴隷の分際で俺を裏切ろうとしたてめーの愚かさを恨め。まだまだ地獄はこれからだ」
そう言いながら、ペルストはパナの中指の爪と肉の間に ナイフを突き刺そうとする。
その時、
「や……やめなさいよ」
倒れていたリーチェの手がペルストの足を掴んだ。
痛みと出血で意識を朦朧とさせながらも、パナを拷問するペルストが許せず、何とか地を這いつくばって移動して、ペルストの蛮行を止めようとした。
「お前邪魔だな」
ペルストは無表情でそう言い放った。彼の怒りは裏切ったパナに向いていた。リーチェのことはその辺に落ちている石ころと同じように見ていた。
「パ……パナから離れなさい! 外道!」
リーチェは必死に叫んだ。とにかくペルストの行なっている行為が彼女は許せなった。まともな神経のある者の行為だと思えなった。
「殺すか」
ペルストはリーチェの叫びを聞いても、特に何も思わない。ただ、邪魔なので先に殺しておこう。そう思っただけであった。
そして、ペルストはナイフではなくリーチェから奪った刀を振り上げる。
狙いはリーチェの頭だ。即死させるつもりだった。
リーチェは自分の死を予感して、目をつぶった。「やめろ!」というパナの声が聞こえた。リーチェは目をつぶりながら、
(ペペロン様!)
と心の中で自分がもっとも尊敬する者に助けを求めた。
すると、
グアシャアアアアン!! と大きな音がなった。
なった場所は扉があるほうだ。ペルストは驚いて、一旦刀を振り下ろすのをやめる。そして、ゴーレムが塞いでいた入り口に視線を向ける。
入り口を塞いでいたはずのゴーレムが完全に破壊されていた。音の正体はゴーレムが破壊された時に鳴った音だったらしい。
そして、部屋の入り口から、剣を持ちながら悠然と歩いてくる小人の姿をペルストは目撃した。
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