リーチェとパナは、牢を抜け出しアジトの脱出を試みていた。
二人は姿勢を低くしながら、慎重に歩いていた。
「いいか。まず私たちは登録ルームを目指す」
「登録ルーム?」
「アジトにはゴーレムっていう魔法生物がうろつきまわっていて、見つかったら襲われる。だから、普通に出ようと思っても無理だ。登録ルームに行って、登録すればゴーレムに襲われなくなるらしい」
「パナはすでに登録しているの?」
「まだだ。もっと地位を上げれば、登録できたかもしれねーが、そこまで待ちたくはねーからな」
「登録ルームの場所はわかってるの?」
「当たり前だ。ここからそう遠くはない。絶対に私についてこいよ」
「うん」
リーチェは頷く。
しばらく2人は慎重に歩き続ける。そして、20分ほど歩くと、ズガン、ズガン、という音が等間隔で聞こえ始める。
「なんの音これ?」
「ゴーレムが歩く音だな」
「ええ! やばいじゃん」
「大丈夫だ。距離が結構ある。ただ、割と離れていても侵入者を認識できるって話だから、油断は禁物だぞ」
「わかった」
その後、より慎重に進むが足音が徐々に大きくなってくる。
「まいったな。近づいて来てやがる。一旦戻るか……いや……」
パナは近くに扉があるのを発見する。部屋があるみたいだ。
「一旦この部屋に隠れて、ゴーレムが通り過ぎるまでやり過ごそう」
「部屋の中は大丈夫なの?」
「私もアジトにある部屋全部を把握しているわけではないが、結構使われていない部屋も多いらしいからな。たぶん大丈夫だろう」
「ゴーレムがわざわざ部屋を調べたりしてこないかな?」
「それはない。奴らは通路以外の場所に行くことは決してない」
「そうなんだ」
「じゃあ、入るぞ……開いているみたいだ」
部屋には鍵がかかっておらず普通に入れた。
2人は中に入る。
薄暗い部屋だ。2人は扉を閉める。
部屋には誰もいない。
と暗くて目が慣れないうちは2人ともそう思っていた。
だが、暗さに目が慣れて部屋のようすが少しわかるようになると、
「!!」
パナは部屋にあるとあるものを見て、驚愕して目を見開いた。
パナの視線の先、部屋の奥の方。
額と両方のこめかみ、合わせて三本の角が生えている、三角鬼族の男が、ベッドに座りながら寝ていた。
黒髪のロングヘアで、和服姿。腰には刀を装備している。
額に傷が入っていた。
2人は男を見て思わず声を上げそうになったが、咄嗟に口を押さえて我慢する。
そして、何とか物音を立てずに部屋の片隅まで移動した。
男は寝ているみたいだが、いつ起きるともしれない。2人は心臓を高鳴らせながら、ひたすらゴーレムが過ぎていくのを待つ。
しばらくして、ゴーレムが部屋の前を通過したようだ。
その後、足音が遠ざかるのを待ち、2人は慎重に扉を開けて外に出た。そして、急いで部屋の扉から遠ざかる。
「はぁはぁ、びっくりした」
「もう誰かいたじゃない」
「すまん。いないと思っていた。しかし、奴の部屋がこんなところにあるとは」
「あの人、誰か知っているの?」
「三角鬼のシンだ。このアジトの用心棒的な存在だな。圧倒的強さを誇っているらしい。偶然今が休憩中だったのはむしろ幸運と見るべきだな」
「そうなんだ……」
「……あ? それよりお前それ」
パナがリーチェの右手に握られていたものを見る。
彼女の右手には少し古びた刀が握られていた。
「どうしたんだ?」
「落ちてたから拾った。私、剣使うの上手いから、これで戦いで役に立てるね」
「お前、意外とたくましーのな」
パナは少し呆れた表情でリーチェを見た。
少しトラブルがあったが、その後も順調にアジトから脱出するため2人は歩き続けた。
○
ペペロン達は、拠点を出てBBCアジト入り口を目指す。
ちなみに時刻は夜。 BBCのメンバーも当然睡眠は取る。夜に行けば寝ている者が多いので、侵入もしやすくなる。
現在同行しているのは、ノーボを除いた主要な部下とエルフ達五人だ。
ポチとファナシアは、ペペロンとは別の入り口から入るのだが、現在は同行していた。
まず、ポチとファナシアが入る入り口まで全員で行って、その後、ポチとファナシアを残して、もう1つの入り口の方に行く。
なぜ最初から分かれていかないかというと、場所を正確に知っているのはペペロンだけだからだ。
ポチとファナシアが入る入り口は、廃屋のような場所にある入り口だ。
「10分したら侵入しろ」
「了解ー」「了解だよー」
ペペロンはそう命令し、ポチとファナシアの2人が返事をした。
その後、2人を残してもう1つの入り口まで行った。
数分して到着。
入り口は森のど真ん中にあった。
落ち葉に隠されている入り口だ。入り口の扉はしまっており、鍵がかかっている。
「ガス、頼む」
「了解っすー」
ペペロンの部下の中で最高のピッキングスキルを持つガスが、扉のピッキングを担当する。
ものすごく手際よく手を動かして、
「終わったっす」
ガスは数秒でピッキングを終わらせた。
「よし、ではアジトの中に入るぞ」
ペペロンの言葉に部下達がそれぞれ返答する。
扉を開けてペペロン達はアジトの中に侵入した。
アジト内は薄暗い。しかし、歩行が困難だというほど暗くはないので、魔法などは使わずにそのまま歩く。
アジトに入って数秒後ほど経った時、
ブオオオオオオオオ!! ブオオオオオオオオ!!
と音が鳴り響いた。
「これが警報音だ。ファナシアとポチは上手くやってくれたようだな。よし、ではこのまま進むぞ」
○
ファナシアとポチは、ペペロン達と別れてから10分経過した時、アジトに侵入した。
「さーて、ここでゴーレムどもに見つかってから敵を引きつけるぞぉ」
「頑張ろー」
2人は剣を抜き、戦闘態勢を整えた状態で、アジトを歩き出した。
しばらく、歩き続けると、ゴーレムの足音が聞こえてきた。
「よし、ゴーレムだ。早速見つかりに行くかぁ」
「うん!」
と言って、2人はゴーレムを見つかりに行こうとした、まさにその時、
ブオオオオオオオオ! ブオオオオオオオオ!
まだ見つかっていないはずなのに警報音が鳴り響いた。
「あ? まだ見つかってないはずだよな」
ポチはキョロキョロと周りを見回す。
間違いなく周辺にゴーレムはいない。
「どういうことー」
「ペペロン様が俺たちより早く見つかっちまったのか? いや、ペペロン様に限ってそんなミスするとは思えない。別の侵入者が見つかった可能性がたけーな」
ポチはそう推察した。
「どうしようかー?」
「そのまま行っていいだろ。逆に好都合かもな他の侵入者がいたのならな」
「そうだねー。じゃあ、行こうかー」
2人は再びアジト内を歩き出した。
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