俺たちは洞窟の出口に向かって進んでいく。
先ほどの黒い騎士への恐怖は覚めておらず、口数少なく歩いていた。
「そうだ。もしかしたら、さっきの黒い騎士、ジャイアントゴーレム倒したんじゃないか?」
俺はふとそう思ったので、呟いた。
「……確かにのう。ジャイアントゴーレムは出口付近に居座っておるから、倒さねば入ってこれんし……倒したとしか考えられるぬな」
「じゃあ、戦わないでいいのにゃー?」
倒されていたのならラッキーだ。
意外とあの黒騎士がここに来ていたことは、ラッキーなことだったかもしれない。
そう思って、出口の方に歩いて行ったのだが、
「いるな……」
出口付近ジャイアントゴーレムを発見。
方法は不明だが、あの黒騎士はゴーレムを倒さずにこの洞窟に侵入したらしい。
馬鹿でかい、人型の岩を発見。
一目見てアレがジャイアントゴーレムだと分かった。
3階建ての家くらいの高さがある。
「あ、あれがジャイアントゴーレムでいいんだよね……?」
「そうじゃ」
「倒せるのあれ……」
「大きさから与えられる印象ほどの強さはない」
「そうなのか?」
俺は鑑定してみる。
『ジャイアントゴーレム 33歳 Lv.42/46
岩で出来た巨大な魔物』
相変わらず見れば分かるという説明はさておき、レベルは今まで見た魔物の中で、1番高い。
「レーニャ。【獣化】を使うのじゃ」
「うにゃ~……やっぱりあれを使う必要があるかにゃー。疲れるから嫌いにゃんだけどにゃー」
「なんだ【獣化】って?」
「獣人が使える固有のスキルじゃ。獣のようになり、ステータスが一定時間大幅にアップする。じゃが、効果が切れたら、反動でしばらく動きが大幅に鈍くなり、まともに戦闘を行えなくなる。レーニャが獣人と化しているあいだに倒すのじゃ」
「どれくらいなの?」
「10分くらいじゃな。まあ、いけるじゃろう」
いけるか? 10分。
ここは、メクを信じよう。
「じゃあ、行くにゃー! にゃぁぁぁああああ!」
レーニャが大声でそう叫び出す。
すると、全身から黒い毛が生えてきて、猫というより、少し大きめの真っ黒い虎というような姿になる。
「にゃああああああああああ!」
レーニャがジャイアントゴーレムに向かって突撃する。声質は今までと変わらない。
レーニャに気付いたジャイアントゴーレムはゆっくりと立ち上がる。
「テツヤ。奴の胸の辺りにある、赤い球体が見えるか?」
メクがそう言ってくるので、俺はジャイアントゴーレムの胸の辺りを見る。
確かに赤い球体がある。
「あれは、ゴーレムコアというものじゃ。あれを壊せば奴は死ぬ」
「分かった、あの赤い球体を狙えばいいんだな」
「いや、そうではない。あの赤い球体は見えない結界で守られており、そう簡単に攻撃が通らないようになっておるのじゃ。なので、その前に奴の頭を攻撃する。ゴーレムの頭は全身の動きを統率する機能があり、頭に強打を加えられると、それが狂い結界を解いてしまうのじゃ。なので、まずはお主の【隕石(メテオ)】を奴の頭に落とすのじゃ」
「分かった」
妙に詳しいなと疑問に思いつつ、俺は【隕石】を奴の頭に落とそうとする。
が、出来ない。
奴がでか過ぎるせいで、いくら天井が広いこの洞窟とはいえ、落とすスペースが足りないのだ。
「ごめん、奴がでか過ぎて、落とせないみたい」
「なぬ?」
「どうしよう」
「……そうじゃな。ならば、奴の足を攻撃して膝をつかせれば、落とせそうか?」
それならいけそうだと思っていたので、俺は頷いた。
「レーニャ! そやつの足を攻撃して、膝をつかせるのじゃ!」
「分かったにゃー!」
レーニャが返事をする。
後ろに回りこみ、レーニャはジャイアントゴーレムの足を攻撃しようとする。
ジャイアントゴーレムは、両手を横に伸ばし、一回転して、攻撃してくるレーニャをなぎ払った。
「うにゃ!」
「レーニャ!」
攻撃を受け吹き飛ばされるレーニャを見て、俺は思わず叫ぶ。
「あの状態のレーニャはそうそうやられん」
メクの言うとおり、レーニャは元気よく立ち上がった。
「しかし、簡単に隙を作ってくれんのう」
「俺がいったん敵をひきつける」
そう言って俺はゴーレムの前に出る。
そして【炎玉】を撃ちゴーレムを攻撃した。
ジャイアントゴーレムの視線が俺のほうに向く。
レーニャは俺の意図を察したのか、少し下がる。
俺は何度も【炎玉】を撃つ。
ダメージは無いみたいだが少し苛立っているようだ。
敵は足を上げて、俺を踏み潰そうとしてくる。
そして、その時、ゴーレムの背後からレーニャが突撃。
上げていない足のほうに全速力で走っていき、思いっきり突進した。
ゴツ! と言う音がする。
ゴーレムはバランスを崩して倒れ始めるが、レーニャは大丈夫なんだろうか?
結構平気そうだった。普通に走って倒れるジャイアントゴーレムを回避する。
そして、俺は【隕石(メテオ)】の魔法を倒れたジャイアントゴーレムの頭に落とした。
ガシャアアアアン! という轟音が鳴り響く。
スキルレベルが1上がった事で、威力がだいぶ上昇している。
頭を強打したジャイアントゴーレムは、しばらく動きが止まる。
「今じゃ! 胸の球体を攻撃するのじゃ!」
俺は【炎玉】をジャイアントゴーレムに当て、そしてレーニャが鋭い爪で球体を攻撃した。
すると、球体は割れる。
その瞬間、ジャイアントゴーレムはガラガラと崩れ出し、ただの大きな石くれになった。
「やったー倒したにゃー!」
その瞬間、レーニャが喜びの声を上げる。
直後、レーニャの【獣化】が解かれる。
「あ、ふにゃー」
元の姿に戻ったレーニャは、力が抜けたみたいで、座り込んだ。
「倒せたか、よかったのじゃ。少し行けばもう外なのじゃ」
そうか、よかったー。
とりあえず、谷の外に出られそうで少し安心する。
そういえば、あのゴーレムは吸収できるのかな?
ゴーレムって生き物じゃないってイメージがあるから、無理かな。
俺は石くれに触ってみる。お、出来るみたいだ。
こいつ一応生物の範疇なんだな。
俺はジャイアントゴーレムを吸収した。
HP50上昇、MP8上昇、攻撃力10上昇、防御力20上昇、速さ5上昇、スキルポイント4獲得。
スキル【弱点結界Lv1】獲得。
【弱点結界Lv1】?
奴が自分のゴーレムコアを守るときに使っていた、結界を作るスキルか。
俺が使ったら心臓か、もしくは頭を守る結界が出来るのかな?
使ってみないとわからないけど、結構いいスキルかもしれない。
「よし、じゃあ出るかー」
「にゃ~、テツヤ~、肩を貸してほしいにゃ~、1人では歩けないにゃ~」
【獣化】が解けた影響で、自力で歩く事が困難になっているらしい。
俺はレーニャに肩を貸そうとした、その時、
ガシャ……
つい先ほど聞いた、黒騎士の歩く音が聞こえてきた。
その音を聞いた瞬間、俺は戦慄して固まる。音はだんだん俺達のほうに近づいてくる。
気を取り直す。慌てて周囲を見回し、隠れられそうな場所を探す。近くに大きな岩がある。俺はレーニャを連れて、その岩の陰に隠れようとする……が、
「……!?」
俺は息を飲む
さっきまで、見えないくらい遠い位置にいたはずの黒騎士が、俺達のすぐ目の前まで来ていたからだ。
こ、こいつ瞬間移動でも出来るのか? や、やばすぎるぞ。
なんでもうすぐ出れるって時に、こんな……ここに来て何て理不尽。
「にゃ……にゃ~ん……」
後ろにいるのでようすを見ることは出来ないが、レーニャが泣きそうな声を出している。
黒騎士は俺達を無言で見つめている。俺は恐怖と緊張で動けない。
すると、黒騎士のフルフェイスメットの目の部分が、一瞬赤く光る。
その光を見た瞬間、全身に痺れが走る。
ビリビリと全身が痺れ、恐怖や緊張関係無しに、動く事が出来ない状態になる。
その後、何故か俺の右手が、自分の意思とは関係なしに、勝手に動き出す。
手は黒騎士の前に差し出される。俺の手を黒騎士が握った。
そして、今度は黒騎士の目が青く光った。その瞬間、
激痛が俺の右手に走った。
「ああああああああああ!」
あまりの痛さに絶叫する。
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
いくつもの針で同時に手の甲を刺されているような痛みだ。
痛い痛い痛いぃぃ! 何をしてるんだ!? 何なんだよ!?
「テ、テツヤ!」
レーニャの心配そうな叫び声が聞こえる。
痛みは黒騎士が俺の右手を掴んでいるあいだ、続いた。
実際は30秒ほどだが、俺にとっては永遠に近い時間、痛みは続いた。
そして、黒騎士は俺の右手から手を離す。瞬時に右手を押さえ、俺はその場でうずくまる。
いつのまにか麻痺は解けていたが、右手の痛みでそれを気がつく余裕は無かった。
そして、黒騎士が、
「抗え」
そう俺に囁いた。
意味が分からない俺が、戸惑っていると、黒騎士が闇に包まれ、そして忽然と姿を消した。
「き、消えた?」
「……助かったのかの?」
「い、いなくなったにゃ?」
ブルブルと震えながらいなくなったのを確認する。
何だったんだあいつは? 人の右手に激痛を与えるというだけの存在だったのか? はた迷惑な奴だ。
と思って俺は、未だに痛みの残る右手を見てみると、
「ん?」
手の甲に黒い何か付いている。拭ってみる。取れない。
刺青みたいに刻み込まれているみたいだ。
さっきの黒騎士がつけていったのか。
黒い丸の真ん中に、小さい目が描かれているという、奇妙な模様だ。
この目を見ていると、なんだか魂を吸い込まれそうな気分になる。俺は目をそらす。
その模様の下には、謎の文字が。見たこと無い文字なので読めない。
「なんじゃそれは?」
メクが聞いてきた。
「分からない。たぶんさっきの黒騎士がつけていったんだよ」
「何らかの刻印じゃな……見たこと無いが」
「下に文字が書かれているんだけど、読める?」
「……読めんな。初めて見る文字だ」
うーん、何なんだこれ。気味が悪いんだが。
俺は刻印を見つめて鑑定しようとしてみる。
今回は鑑定不可とすら出ない。鑑定をしようとすらしないのだ。
ステータスを見てみても、何も書かれていない。
「なんだこれ……? どういうこと?」
「わからんな。もしかしたら後で呪いが発動して、朝起きたらわしのような姿になっておるかもしれんぞ?」
「こ、恐いこと言わないでくれ」
俺は若干震える。
「にゃ~、テツヤも師匠みたいになるにゃん? 可愛くにゃるけど、撫でてもらえなくなるのは嫌だにゃー」
レーニャはのんきにそんなことを言っている。
「それが何か分からんが、とにかく命が助かった事は確かじゃ。正直奴が現れたときは、生きた心地がせんかったぞ。さっさとこの洞窟から出るのじゃ」
「そうだな」
「にゃ~、やっとあの谷から出れるにゃ~。長かったにゃ~」
とりあえず実害は今のところ無いので、気にし過ぎるのも良くないかもしれない。
俺達は少し歩く。
出口はすぐそこにあり、俺達は洞窟を出た。
洞窟の外は草原が広がっていた。
見渡す限り、一面に草が広がっている。その雄大な景色に若干感動する。
はぁー、良かった。出られた……
少し安心してきた。最初あの谷に落とされたときは、マジで絶望しかなかったからな。
「にゃ~、出れたにゃ~!」
レーニャが嬉しそうに草原を駆け回っている。
俺より長いあいだ、あの谷にいたレーニャは、出られた嬉しさは俺より大きいだろう。
「やっと出られたのう……」
メクは感慨深そうにそう言った。
レーニャがしばらく走り回ったあと、俺達のもとに戻ってくる。
「さて、これからどうするかの。わしは、元の体に戻る旅を再開するつもりだが。お主はどうするきじゃ?」
メクがそう聞いてきた。
そうか、谷から出たら一緒にいる理由も無いから、ここで別れることになるのか?
俺は出てから、何をするか考え付いていなかった。
まあ、さっき刻まれた、謎の刻印の意味を調べるという理由は出来たが。鑑定しても何も出なかったので、なんでもない可能性もあるが、やはりこのまま放っておくのはさすがに気分が悪い。
「にゃ~……もしかして、アタシたちこれでお別れにゃ?」
レーニャが寂しそうな顔でそう言った。
「いやにゃ~、師匠とも一緒にいたいし、テツヤとも、もっと一緒にいて、いっぱい撫でてもらいたいにゃ~ん」
レーニャが涙目になりながら言う。
「ま、待て、レーニャ、わしはお主とここで別れる気はないぞ。お主を1人で置くなどと心配でならんからな。元に戻る方法を探すのは、別に1人じゃないと、できんというわけでもあるまいし」
「そうにゃ? テツヤは?」
「俺は、そうだな。この刻印の意味とかを調べたいと思ってたんだが。俺も別に1人じゃないと、駄目だって理由はないし……一緒に行くか」
「そうにゃん! 一緒に行くにゃん!」
涙目になったレーニャがパーっと明るくなった。
「じゃあ、一緒に行くという事じゃな。抜け道を抜けた所であるここは、ルーカスト草原の南じゃ。ここから北西方向に向かえば、メーストスという、多種族が暮らす町がある。まずはそこに行こうかの」
「そうだな。町があるなら、そこに行こうか」
「行くにゃ~」
こうして俺達は、一緒に旅をする事になり、最初の目的地メーストスへと向かうのだった。
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