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6.家へ

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「そういえば、テツヤはなんでここにいるのにゃ?」

 洞窟を歩いていたらレーニャが尋ねてきた。

「ちょっといろいろあってね。追い出されてここにいたというか」
「へー、アタシはあんまり覚えていないんだにゃん。気付いたらこの谷にいたのにゃん」

 覚えていないのか。何か事情がありそうだな。

「早く、谷を出たいんだけど、中々うまくいかないのにゃん」
「え? なんで?」
「あ、もう外にゃん!」

 洞窟の出口が見えた。
 レーニャは走って外に出る。
 なんで外に出れないのか聞きそびれたな、いいか、後で聞こう。

 洞窟を出ると、辺りが少し薄暗くなっていた。
 もうすぐ日が暮れるのだろう。

「あ! やばいにゃん! 早く帰らにゃいと!」

 夜になったのを見たレーニャは、ものすごく焦りだし、急に走って移動する。
 俺も走ってついていく。

「夜になるのは、そんなにまずいの?」

 俺はレーニャに尋ねた。

「まずいにゃ。この谷は夜になると、死霊って恐いやつらが歩くようになるって、師匠が言ってたにゃ」
「死霊?」

 師匠ってのは誰かともかく、死霊とは?

「アタシは見たこと無いから、よくわからにゃいけど、とにかく恐い連中らしいにゃ。夜には絶対に外に出ちゃだめなのにゃん」

 怖い連中ね。
 しかし、夜になると、絶対その死霊ってのが出るのか?
 今の俺なら倒せるかもしれないが、倒せなかったらこの谷を出るのが、かなり難しくなるよな。

「あ、もう着いたにゃ」

 谷の壁を指差してレーニャが着いたという。
 穴が開いているわけでもないし、どういうことだ? 

 そう思っていると、近づいたら取っ手を発見。

 引き戸っぽいのがあるみたいだな。
 これを開けたら、家には入れるのか。

 死霊って奴らにばれないようにしてるのかな?

 レーニャはその扉を開けようとする。

 中々重い扉みたいで「うにゃ~!」と力を入れながら開けようとしている。
 ただ中々開かない。だいぶ悪戦苦闘している。

「あれれー? いつもならどかせるのに!?」
「まだ体力が完全回復してないからじゃない?」
「にゃー。そうだったにゃ」
「その後ろにあるんだよね家は。手伝うよ」
「お、お願いするにゃ~」

 俺はレーニャと協力して扉を開ける。
 確かに重い扉だったが、開ける事が出来た。

「やったー開いたー」
「なんか、重いねこれ。なんでこんなに重いの?」
「師匠が修行のために重くしろって言ったにゃ」
「師匠か……もしかして、その師匠って人もいるのか?」
「にゃん! この家にいつもいるにゃん。師匠は物知りだからいろいろ知ってるのにゃ。いいお礼の返し方もきっと教えてくれるにゃん。あ、閉めるのも手伝って欲しいにゃ」

 扉を一緒に閉める。

「じゃあ、中に入るにゃん」

 レーニャが家の中に歩いていくので、俺も付いていく。

 よく考えれば、女の子の家に招かれているんだよな。
 まあ、秘密基地みたいな家だし、そこまで緊張しないけど。

 しかし、師匠なる人物がいるのは少し緊張してきた。
 あまり人と話すのは得意ではない俺。

 レーニャは、年下だし、何となく話しやすい雰囲気だったし、最初は可愛いから緊張はしたけど、今はそこまでドキドキすると言う事はない。

 だが、師匠と言うのが年上の、それも女性だった場合、何を言っていいのやらという感じになってしまう。

 物知りだっていうから、出来ればいろいろ聞いておきたいけど。
 この世界について知らないことが多すぎるからな。

 俺は招かれるまま、家に入っていく。
 なかは狭く、薄暗い。

 通路を少し歩くと、広い部屋に出てきた。

 部屋の中に、師匠なる人物はいない。
 別の部屋にいるのか? ここ以外部屋があるのか?

 そう思っていたら、

「師匠ただいまにゃんー」

 と誰もいないはずの部屋にレーニャが挨拶をした。

 え? と思って、中をよく見てみる。

 部屋の中に、白い熊の人形がある。少し大きめで、2歳児くらいの大きさはありそうだ。
 レーニャはその人形に向かって、挨拶をしていたようだ。

 俺は察した。
 そうか、彼女はこんな辛気臭い場所に一人暮らしをしているんだ。
 一人でいるのが寂しすぎて、人形に人格があると錯覚してしまっているんだ。

 少し恐かったが、こんな場所だ。レーニャはまだ15歳。
 無理からぬことだろう。
 そう納得していたら、

「遅い! 何時だと思うておる! 夜になったら危険じゃと言ったじゃろうが!」

 女の人の声が、その熊のぬいぐるみから発せられた。

「ぬ、ぬいぐるみが喋った!?」

 俺は驚いて、思わず大声を出してしまう。

「ぬ? 何じゃあの男は。人間じゃないか。人間は好かんぞ。叩きだせ」

 ぬいぐるみは俺を見ながらいう。

「師匠ーテツヤはアタシを助けてくれたのにゃん」
「なぬ? 人間がお主を助けたじゃと?」

 熊が動き出して俺に近づいてくる。

 お、落ち着け、落ち着け俺。ここは異世界。

 猫が人型になることも、ぬいぐるみが喋って動き出す事もあるだろう。

 そ、そうだこういうときは鑑定だ。鑑定をすれば正体がわかる。

『エルフ。個体名:メク・サマファース 81歳 Lv.77/85
 森に住む種族。寿命が長い』

「エルフ……?」

 俺は思わず呟いてしまった。
 ほかにもやたらレベル高いし、81歳って凄い年齢だなとか、気になる点はいろいろあるけど、一番エルフというのが気になった。
 エルフってぬいぐるみなのこの世界では?

「貴様、何故、わしがエルフじゃと分かった?」

 少し声を低くして聞いてきた。

「え? 鑑定を使ったんだけど……」
「鑑定? 珍しいスキルを持っておるのう」

 鑑定は珍しいスキルなのか。

「師匠ー。その人はテツヤっていって、今日アタシを洞窟で助けてくれた人なんだにゃん。本当なんだにゃん。あんまりいじめようとしちゃだめなんだにゃ」
「レーニャ、詳しく話を聞かせろ」

 師匠と呼ばれている熊のぬいぐるみ? エルフ? は、レーニャから洞窟であった出来事を聞いた。

「ほう、アブソードスパイダーに襲われて、それをこの男が倒したと」
「うん、そうなんだにゃ~。ビリビリを出した後、すっごい速く動いて倒してたのにゃ~。すごかったのにゃー。そのあと、撫で撫でしてもらったにゃー。気持ちよかったにゃ~。お礼をしたいけど、何したらいいかわからにゃいから連れてきたんだにゃ」

 レーニャが目を細めながらそう言った。

「おい、テツヤとやら」
「な、なに?」

 何かぬいぐるみに話しかけられるのが、正直慣れない。

「わしは、メク・サマファースという。まあ鑑定を使っておるのなら分かるじゃろうがな。まずは、レーニャを助けた事はお礼を言おう。あと、最初の少し無礼な態度は謝罪をしておく。悪かった」

 自己紹介をした後、頭を下げてきた。

「ちなみに、さっきおぬしが言ったとおりわしはエルフじゃ。少し昔、呪いをかけられてのう、今はこんな妙な格好をしておるが、元々は麗しいエルフの姫として有名だったのじゃ」

 どんなわけがあってぬいぐるみになっているんだろう……?

 でも普通のエルフがぬいぐるみじゃないという事は、わかった。
 まあ、俺が想像しているエルフと一緒なのかどうかは、分からないけど。

「それで、お礼という話じゃったが……正直ここには何もないぞ」
「えぇ!? それじゃあ困るのにゃ!」
「いや、俺はわざわざお礼をされる必要はないっていうか……」

 俺は少し考える。
 ここでお礼としていろいろ情報を貰うのがいいんじゃないかと思った。
 メクはエルフで、それも81歳らしい。結構いろんな事を知っていそうだ。

「無理やりこの谷に追い出されてきたから、すぐに出たいんだけど……お礼にどのくらい歩けば出られるとか、あとなんかやばい魔物がいるのかとか、教えてほしい」
「お主この谷から出たいのか……ふむ……じゃがなぁ……中々難しいぞ」

 さっきレーニャも言っていたが、やはり難しいのか?

「死霊というのが夜に出る事は知っておるか?」
「さっきレーニャから聞いたけど……すごい恐い奴らだって」
「そうじゃ。そやつらが夜になると、その辺を大量に闊歩しだす。死霊どもは見つけた生物を片っ端から殺しにかかる危険な存在じゃ。谷の出口まで歩いて30日はかかる。それまで、死霊どもをかわし続けて歩くのは非常に困難じゃ」
「倒せないのか?」
「倒すか、面白いことをいうのう。やつらはこの世のものではない。こちらから攻撃を当てることが出来ぬが、死霊からはこちらに攻撃できるという理不尽な存在だ。特殊なスキルを持っていれば攻撃を当てる事が出来るな。お主にそれがあるかの?」
「……いや」

 死体吸収でもしかしたら吸収が可能かもしれないか?

 いや、死体吸収は、死体に触れないと発動しないからな。
 攻撃を当てる事はできないって事は、触ることも出来ないだろうし、たぶん無理だな。

 ていうか、そんなやばい奴らがいたのならここに来てなかったら、俺死んでね?

「じゃあ、この谷からは抜けられないのか?」

 俺は聞いた。そうなったら非常に困る。

「それが、抜け道がある。外に繋がっている洞窟がここから、そう遠くない場所にあるのじゃが……」

 抜け道があるのか。そこを抜ければいいのか。

「そこには強力な魔物、ジャイアントゴーレムが出口を塞いでおる。そいつを倒さねばこの谷からは出る事が、出来ぬのじゃ」

 ジャイアントゴーレム……。
 ゴーレムって岩で出来た、魔物みたいなやつだよな。
 ジャイアントって事は、デカイゴーレムが谷から出る出口を塞いでるってことか。

「わしらも、こんな谷からはさっさとおさらばしたくての。わしは戦えぬが、戦いの指導は出来るから、レーニャをゴーレムが倒せるまで育てておる所じゃったのじゃ。レーニャの限界レベルは55で育てればかなり強くなるからのう」

 そうなのか。
 ドアが重くなっていたのを修行のためだといっていたのは、ジャイアントゴーレムを倒すための、修行をしていた、ということか。

 あれ? でも、さっき戦えないとメクは言ってたけど、レベルめっちゃ高かったよな。
 77だったし。
 どういうことだ?

「メクさんは戦えないのか? 強そうなレベルだったけど」
「わしのレベルと限界レベルを見たか。元の姿ならいとも簡単に倒せるが、この姿ではステータスが、かなり弱体化しておる上、スキルや魔法が使えんのじゃ。戦う事は不可能じゃ」

 なるほど。
 このぬいぐるみにされる呪いとやらは、だいぶ厄介みたいだな。

「わしとしては、早いところこんな所から出て、呪いを解く方法を探しに行きたいが……ぐぬぬ、あの時、足を滑らせたばかりに……」

 足を滑らせて落ちてこの谷にいるんかい。
 おっちょこちょいな。

「にゃーにゃー、テツヤもこの谷から出たいにゃ? だったら、アタシと一緒にジャイアントゴーレムと戦えば、きっと倒せて外に出れると思うにゃ!」

 レーニャがそう言ってきた。


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