翌日、俺たちは素材集めをするため、どこに強い魔物がいるのか町の龍人に尋ねてみた。強い魔物から取れる素材は高く売れることが多い。
アンドーラ洞窟という町の北側にある洞窟に強い魔物がいることが、調査の結果分かった。
俺たちは早速向かう。
しかし、
「騙されたな……」
町の北側に確かに洞窟は存在したのだが、強い魔物は出なかった。
ゴブリンだとか、スライムだとか雑魚級の魔物ばかり。
あまり人間や獣人が好きではないから、間違っている場所を教えたのだろうか。
もしくはレベルを見られて、難しい場所には行かせられないという親切心で嘘を教えられたのか。いや、それはおかしいか。それならレベルの低いことを指摘して、この場所を教えればいいのだから。嘘の場所を教える必要なんてないだろう。
低レベルな魔物しか倒していないため、大した金を稼ぐことが出来なかった。
洞窟まで行くのに結構時間がかかったため、帰ってくるころには夜になっていた。
一日目は宿代や食費で稼ぎより出費の方が多くなってしまう。
「冒険者ギルドはこの町にもあるじゃろうから、そこで情報を得たほうがいいかもしれんのう。町の連中は信用できんわい」
メクのアドバイスで翌日は冒険者ギルドへと向かった。
「強い魔物がいる場所? ……お前レベル低いじゃねーか。教えられねーよ」
冒険者ギルドの受付の男がそう言った。レベルサーチで俺のレベルを計ったようだ。
「よく見たら後ろに獣人いるし、教えられんよ。帰れ」
そう言われ追い出されてしまった。
「むう、こうなったら面倒じゃが、一度クレンフォス王国に戻ってから、金を稼いでから来た方がいいかもしれんのう」
そう思って引き返そうとすると、
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
凄まじい声が響き渡る。
空から声は聞こえてきた。
驚いて見上げてみると、
「な!」
驚いて思わず俺は声を上げた。
大きな何かが空を飛んでいる。
トカゲのような。
あれってたぶん……
「ドラゴンだ!! ドラゴンが来たぞ!!」
そうだよな。
ドラゴンだよな。
町の龍人たちはめちゃくちゃ騒いでいる。
どうやらドラゴンの来襲にかなり怯えているようだ。
どうも龍人たちはドラゴンをかなり恐れているようすだ。仲間ではないようである。
あのドラゴン明らかにこの町に向かってきているな。
俺は鑑定でドラゴンを見ている。
『ファイアードラゴン Lv.55/67
鉄をも溶かすファイアーブレスを得意とするドラゴン。防御力は高いが、魔法攻撃には比較的弱い。
HP 499/499
MP 212/212
スキル 【ファイアーブレスLv7】
耐性 【炎耐性Lv10】』
結構強いけど倒せないレベルではないな。
異世界に来た当初。俺が出会ったアースドラゴンはステータスの上昇力から考えても、凄く強い奴だったけど、こいつはそこまで強くはないようだな。あれはたぶんドラゴンの中でも特別強い奴だったんだろう。
倒したら龍人から好感度が上がって、冒険者になれるかもしれないし、というかドラゴンから取れる素材を売れば、大金を手にすることが出来るかもしれない。
それ以前に放っておいたら町に大きな被害が出るしな。塩対応をされてはいるが、見捨てるのは寝覚めが悪い。
俺は襲撃したドラゴンを退治すると決めた。
「テツヤ! ドラゴンを倒しにいくのか?」
「ああ、倒せると思うし」
「本当か……ドラゴンまで倒せるというのか。恐ろしいのう」
メクはそう言った。
ドラゴンはこの世界でも上位の魔物であるようだ。
ドラゴンへ攻撃をしようと思ったが、現在は結構高い位置を飛行していて、攻撃する手段がない。
ただこの町を襲おうとしているのは間違いないと思われる。
襲うつもりがないのなら、すぐに飛び去って行くのが普通だと思うが、このドラゴンは町の上空をぐるぐると周りながら飛んでいる。
獲物を見定めているのかもしれない。
しばらくドラゴンの出方を見守っていると、突如急降下を始めた。
そして、町に降り立った。
俺は急いでドラゴンが降りた場所へと向かう。
そんなに遠くないのですぐにたどり着いた。
「助けて!!」
子供の龍人がドラゴンに襲われていた。
多分食べようとしているのか?
龍人はドラゴンにとっては、餌のようである。
俺は急いで【闇爆】を放ち、ドラゴンの顔を攻撃した。
「グガアアアア!!」
ドラゴンは痛みで怯んでいる。
一撃で殺すことは出来なかったが、HPを半分以上削ることに成功した。
思ったより楽に倒せそうだな。
もう一撃【闇爆】を放つと、ドラゴンは断末魔の悲鳴を上げて倒れこみ、死亡した。
俺がドラゴンをあっさりと倒すと、周りで見ていた龍人たちがざわざわと騒ぎ始める。
「ド、ドラゴンを倒した……??」「馬鹿な……」「あ、あいつ人間だよな……」「レベルを調べてみたら限界レベル1だぞ」「う、嘘だろ」
限界レベル1の俺がドラゴンを倒したというのが、実際にその目で見ていても信じきれないようである。
「テ、テツヤ早いにゃ~……ってもう倒したのかにゃ!?」
「数十秒で倒したのかお主……」
急いでドラゴンのところに行ったので、レーニャとメクを置いてきていた。
駆けつけてきてもう倒していたので、驚いたようだ。
「こいつの素材って売れるのか?」
「ドラゴンは鱗、角、爪、目、肉と全て売ることが出来るぞ。しかもどれも高価じゃ」
そうなのか。
解体するのも何だし、この町の商人に死体を丸ごと売るか。
でも、これだけデカいと運べないよな、市場まで。
うーん、どうするか。
「ド、ドラゴンが倒されとる!!」
誰かが叫んだ。
声が聞こえた方を確認すると、豪華な服を着た龍人のおっさんが、武装した龍人を引き連れていた。
非常に驚いているようである。
「だ、誰が倒したのだ?」
「俺だけど」
「嘘を付け、お前は限界レベル1ではないか!」
「いや、本当なんだけど。周りで見ていた人もいるし聞いてくれ」
おっさんは本当かどうかを確認する。
嘘を付く者はおらず、正直に俺が倒したといった。
「ほ、本当だったのか……ぐぬぬどうしてもドラゴンの肝が入用で、急いで冒険者を雇って狩りに来たのに……」
「肝が欲しいのか? いくらくらいするもんなんだ?」
「三十万ゴールドだ……」
「三十万!?」
信じられない値段だった。
三十万もあれば数年は遊んで暮らせそうだぞ。
「そんなに欲しいなら買い取ってくれたりしないか?」
「しかし、持ち合わせがなくて、今は十五万ゴールドしかない」
半分か。
いや、それでも十分である。
「その値段でいいよ。あ、肝じゃなくてこのドラゴンの死体ごとで良いぞ」
「な、なんだと!? ドラゴンの死体には他にも売れる部位があるから、五十万ゴールドはするぞ!?」
そ、そんなに高いのか。
まあ、今はなるべく早くメクの体を取り戻す旅をしたし、そこまで高いと買い手が付くまで時間がかかりそうだから、このおっさんに売ろう。
「問題無い十五万ゴールドでいいよ」
「ほ、本気か……いや、これは気が変わらぬうちに買おうではないか。今すぐ十五万ゴールド持ってくる!」
急いでおっさんは立ち去り、しばらくして十五万ゴールドを持ってきて、感謝の言葉を述べながら俺に金を渡した。
とにかく大金を手に入れたな。
これだけあれば十分だろう。
「でもドラゴンの肝って何に使うのかにゃ~。おいしいのかなにゃ~」
レーニャが不思議そうにそう言った。
確かに俺もそれは少し気になっていた。
「病気を治すために用いられておるものじゃ。誰か病人がおるんじゃろう」
必死で取りに来たようだし、結構大事な人が病気になっているんだろうな。
何となくいいことをした気分になった。
金を稼いだし、俺たちは町を出てテンノース山へと向かって歩き出した。
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