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22.勇者タケイ戦

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 俺はメクに【解放】を使う。メクが元の姿に戻った。
 そういえば、この姿のメクの戦闘能力はまだ見ていないな。
 レベルは70以上あったはずだから、弱いということはないと思うけど。

「うお? ぬいぐるみがめっちゃ美女になった! すげー俺好みなんですけど! ぜってぇ捕まえて犯してやる!」

 下種な目でタケイはメクを見る。

 分かっていたことだが、まともな人間ではない。クズだ。それも最高クラスのクズだ。

 こんな奴には絶対に負けないと、俺は心に誓った。

 確実に勝つためには、メクの【解放】がまだ解けてないうちに倒さないといけない。
 早いところ勝負を決めなくては。

「【隕石メテオ!】」

 俺はのっけから強力なスキルを使用した。最近天井が低い所ばかりで戦闘していたから出番がなかったが、なんだかんだ言って一番威力の高い魔法である。

 タケイは隕石を見て嫌な予感を察知したのか、避けた。馬鹿正直に受け止めてくれたらよかったんだが。

「さて、わしの力を見せてやるとするかのう」

 メクがそう言いながら、何やら呪文を唱え出した。
 魔法を使う気だろう。

 地面から蔓みたいなのが、無数に飛び出してきて、タケイを縛り上げた。

「なんだこりゃ!」
「今じゃ!」

 俺は【隕石(メテオ)!】を使い武井を攻撃。タケイの脳天に直撃する。

「アタシも行くにゃ!」

 畳み掛けるようにレーニャも攻撃する。【獣化】のレーニャの突進が武井に直撃。

 さらにメクが再び魔法を唱える。無数の氷の矢が発生し、全ての矢が武井に向かって飛んでいく。
 武井は氷の矢を全て受けたが、突き刺さることはなかった。

 再び俺たちは攻撃しようとするが、タケイは自身を縛っていた蔓を強引に力技で解く。

「あー、いてー。むかつく奴らだなぁてめーら」

 頭を押さえながらそう言った。メテオの直撃を食らったのに割りと平気そうに歩いている。

 俺は鑑定でどれくらい武井のHPが減ったのか、確認してみた。

 1220/1422

 まったく効いていないってわけじゃないな。
 今のをあと約6回か。
 こいつもさすがに何度も同じ手を喰うほど馬鹿じゃないだろう。

 今度は違う攻め方をする必要があるな。

「次は俺からいくかー。まず男のお前は即効ぶっ殺して、女は捕らえる。そこの獣になった奴は元に戻らんなら殺すかー」

 そう言ってタケイは俺に向かって走り出してきた。
 速い! が反応できない速度ではない。

 タケイの武器は剣のようだ。それを抜いて俺に斬りかかって来る。俺も剣を抜き受け止める。

 何度か斬り結ぶ。そのあいだメクが長い呪文を唱えている。
 ちょっとした隙を見つけて俺は武井の腹に【闇爆ダーク・ブラスト】を打ち込む。

「ぐっ!」

 タケイは苦しむ。
 そして、メクが呪文を唱え終える。

 メクの手から光の槍が発生し、それがタケイの頭を目がけて飛んでいく。
 かなりの速度なため、タケイは反応できない。
 頭に直撃。
 防御力が高いから突き刺さりはしなかったものの、頭を強打し倒れこんだ。

「ぬう丈夫じゃのう」

 HPは821/1422

 さっきの光の槍はかなり高威力の攻撃だったようだ。
 かなりダメージが入っている。

「っち……あーったく……なんだよてめーら、そこそこ強いのかよ……」

 ダルそうな声でタケイは立ち上がる。
 すると彼の体全体からなにやら、きらきらした光が発生する。

「あれは!?」

 メクが光を見て驚いた。

「スキル【再生リジェネ】が発動するときの光じゃ……ある程度ダメージを受けたら、徐々にHPを回復するスキルじゃ」
「何?」

 俺はタケイを鑑定で見てみる。
 確かにじわじわとHPが回復して言っている。こいつ厄介なスキル持ってやがるな。

「仕方ねー。だるいけど本気で行くか」

 本気を出す? 今までが本気じゃなかったのか?

 戯言だろう。追い詰められて俺たちを警戒させるために言っているんだな。
 ただ、そんな言葉に戸惑わない。というより、戸惑っていたらメクにかけた【解放】が解けてしまうので、戸惑っている暇がない。

 最初の方針通り、最速で倒す。倒しきるまでも、弱らせておけば後はレーニャと俺だけで倒せるから、とにかく攻撃しまくる。

 俺はそう思って再び攻撃を開始すると、

「【伝説化レジェンド・モード】」

 タケイがそう言ってきた。なんだそれ、スキルか?

 そのスキルを使った瞬間、タケイの動きが変わった。

 元々速かったが、それがさらに速くなった。タケイは超高速で俺に斬りかかってくる。なんとか反応し、受け止めるが、物凄く力が強い。これはずっと受け止めきれるか!?

「勇者にはなぁ。それぞれ奥の手のスキルがあるんだよ。俺の【伝説化】は、身体能力をかなり上げるだけで、ほかの勇者と比べると全然たいしたことねぇーけど、てめーを殺すには十分なんだよ」

 物凄い力だ。剣ごと押し切られそうになる。

 そこで、メクが魔法を使う。光の槍の魔法だ。タケイはその魔法を今度は避けた。
 避けているときレーニャが切り裂きで攻撃を加えるが、その攻撃は軽く受け止められてしまう。受け止められたあと、攻撃を加えられそうになるのを、メクはなんとか回避した。

 クソッ。強化されるだと? かなりやばいだろそれは。こっちはあと1分ほどで倒しきる。もしくは大幅に戦闘能力を落とすほど、弱らせなければならないんだぞ? できるのか? 可能なのか?

「面倒だなぁ3対1てのは。誰か削らないとな。女は殺したくなかったが面倒だし、もう殺すかー。最初はあの虎みたいな奴から殺そう」

 標的をレーニャに変えたようだ。
 タケイが動き出す。俺は動き出す一瞬先にレーニャを防衛するために動いていた。
 しかし、

「ばーか、フェイントだよ」

 タケイはメクの方に向かっていた。
 完全に騙されてしまった俺は、反応するのが少し遅れる。
 その少しが命取りだった。メクの胸元めがけて、タケイは突きを放つ。
 あまりの速度にメクは反応できていない。

「メク!」

 俺は叫んだ。しかし、無駄だった。
 メクの心臓にタケイの剣が突き刺る……その一瞬前、メクの姿がぬいぐるみに戻った。
 ぬいぐるみ状態のメクにタケイの剣が突き刺さる。

 も、元に戻ったぞ。あれ? あの状態でさされたらどうなるんだったけ?

「あ……危ない危ない。死ぬところじゃった」

 メクは生きていたようだ。

「あ? なんだこりゃ? またぬいぐるみになったし、死んでいないし。っち」

 その後、タケイはぬいぐるみとなったメクをぽとりと落とした。

 死んだと思ったのが無事だったのはいい。でも、この状況は……かなりまずい。

 メクがもう戦えなくなってしまった。

 この状態で、タケイに勝てるのか?

 ――勝つしかない。

「まあでもこの状態じゃ戦えねーか。ははは、勝ったな。じゃあ次はあの男を殺すか。俺がムカついているのはあいつだしな。散々苦しめたあとぶっ殺してやろう」

 タケイは俺に狙いを変えたようだ。そして、剣を俺に向かって振るってくる。
 俺は受け止める。一撃一撃が重い。そのうえ、速い。

 受け止めるだけで精一杯だ。

 そして遂に受け止めきれずに剣が折れる。タケイはなおも斬るのをやめず、俺は肩の辺りを斬り裂かれた。肩から鮮血が噴き上がる。肩に強烈な痛みが走り、俺は思わず肩を押さえてうずくまる。

「テツヤ!」

 そのようすを見ていたレーニャが救援に来た。
 背後からタケイを攻撃する。

 タケイはレーニャを蹴る。

「にゃっ!」

 蹴りはレーニャの頭に当たる。かなりのダメージが入ったみたいで、レーニャは猫にまで戻ってしまう。

 鑑定をするが死んではいないようだったが、HPは残り僅かになっていた。

「虎から猫になりやがったなこいつは」

 少しタケイの気がそれている。俺はその隙にタケイに攻撃をする。まずは【闇爆】を使う。命中その後、【隕石】を使うが、使う前にタケイに腹を蹴られた。

「がふっ!」

 あまりの痛みに俺は地面にうずくまる。

「テツヤ!」

 メクの叫び声が聞こえる。

「さてこれから苦しんでもらうぞ~。どうしようかな。そうだ」

 タケイはそう言って、倒れているレーニャに近づく。
 そしてレーニャの首根っこを掴み、

「お前の目の前でまずこいつを殺す。それも結構残酷にな」
「なんだと…!」
「ハハハ、その目、いい目じゃん。俺を馬鹿にしたてめーは苦しんで苦しんでしななくちゃならん。まずは仲間が死ぬところを悔しそうに見ておけよ」
「ふざけん……」

 立ち上がろうとしたら、頭を踏みつけられた。

「動いたらだめだろ」
「ぐ……」
「お前みたいなクズがこの俺を怒らせたのが悪かったんだ。苦しんで苦しんで死ね」

 タケイはそう言って、俺の頭をグリグリと地面に押し付ける。
 土の味と血の味が口に広がる。そして、強烈な屈辱感が俺の胸に込みあがってきた。

 クソ! クソ!

 俺は力を入れて足をどかそうとするが、強い力で踏みつけられていて、動くことができない。

「踏んでいる状態じゃ、こいつが死ぬとこ見せられないな。よし」

 タケイはレーニャを俺の目の前に置いた。

「今からこいつを踏みつけて殺す」

 そして、足を上げながらそう宣言した。

「や、やめろ!」
「やめるのじゃ!」

 俺とメクが叫ぶ。

「やめねーよ。じゃあ死ぬ所を間近で見ておけよ」

 こんな……こんなこと!
 でも動けない。前と同じだ。リーザース戦でやられかけたときと。
 俺は無力を噛み締めながら動くことができなくなる。
 でも、あの時は……そうだ。あの時は……

「俺に助けられたんだったよな?」

 以前聞いた声が聞こえてきた。


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