俺はメクに【解放】を使う。メクが元の姿に戻った。
そういえば、この姿のメクの戦闘能力はまだ見ていないな。
レベルは70以上あったはずだから、弱いということはないと思うけど。
「うお? ぬいぐるみがめっちゃ美女になった! すげー俺好みなんですけど! ぜってぇ捕まえて犯してやる!」
下種な目でタケイはメクを見る。
分かっていたことだが、まともな人間ではない。クズだ。それも最高クラスのクズだ。
こんな奴には絶対に負けないと、俺は心に誓った。
確実に勝つためには、メクの【解放】がまだ解けてないうちに倒さないといけない。
早いところ勝負を決めなくては。
「【隕石!】」
俺はのっけから強力なスキルを使用した。最近天井が低い所ばかりで戦闘していたから出番がなかったが、なんだかんだ言って一番威力の高い魔法である。
タケイは隕石を見て嫌な予感を察知したのか、避けた。馬鹿正直に受け止めてくれたらよかったんだが。
「さて、わしの力を見せてやるとするかのう」
メクがそう言いながら、何やら呪文を唱え出した。
魔法を使う気だろう。
地面から蔓みたいなのが、無数に飛び出してきて、タケイを縛り上げた。
「なんだこりゃ!」
「今じゃ!」
俺は【隕石(メテオ)!】を使い武井を攻撃。タケイの脳天に直撃する。
「アタシも行くにゃ!」
畳み掛けるようにレーニャも攻撃する。【獣化】のレーニャの突進が武井に直撃。
さらにメクが再び魔法を唱える。無数の氷の矢が発生し、全ての矢が武井に向かって飛んでいく。
武井は氷の矢を全て受けたが、突き刺さることはなかった。
再び俺たちは攻撃しようとするが、タケイは自身を縛っていた蔓を強引に力技で解く。
「あー、いてー。むかつく奴らだなぁてめーら」
頭を押さえながらそう言った。メテオの直撃を食らったのに割りと平気そうに歩いている。
俺は鑑定でどれくらい武井のHPが減ったのか、確認してみた。
1220/1422
まったく効いていないってわけじゃないな。
今のをあと約6回か。
こいつもさすがに何度も同じ手を喰うほど馬鹿じゃないだろう。
今度は違う攻め方をする必要があるな。
「次は俺からいくかー。まず男のお前は即効ぶっ殺して、女は捕らえる。そこの獣になった奴は元に戻らんなら殺すかー」
そう言ってタケイは俺に向かって走り出してきた。
速い! が反応できない速度ではない。
タケイの武器は剣のようだ。それを抜いて俺に斬りかかって来る。俺も剣を抜き受け止める。
何度か斬り結ぶ。そのあいだメクが長い呪文を唱えている。
ちょっとした隙を見つけて俺は武井の腹に【闇爆】を打ち込む。
「ぐっ!」
タケイは苦しむ。
そして、メクが呪文を唱え終える。
メクの手から光の槍が発生し、それがタケイの頭を目がけて飛んでいく。
かなりの速度なため、タケイは反応できない。
頭に直撃。
防御力が高いから突き刺さりはしなかったものの、頭を強打し倒れこんだ。
「ぬう丈夫じゃのう」
HPは821/1422
さっきの光の槍はかなり高威力の攻撃だったようだ。
かなりダメージが入っている。
「っち……あーったく……なんだよてめーら、そこそこ強いのかよ……」
ダルそうな声でタケイは立ち上がる。
すると彼の体全体からなにやら、きらきらした光が発生する。
「あれは!?」
メクが光を見て驚いた。
「スキル【再生】が発動するときの光じゃ……ある程度ダメージを受けたら、徐々にHPを回復するスキルじゃ」
「何?」
俺はタケイを鑑定で見てみる。
確かにじわじわとHPが回復して言っている。こいつ厄介なスキル持ってやがるな。
「仕方ねー。だるいけど本気で行くか」
本気を出す? 今までが本気じゃなかったのか?
戯言だろう。追い詰められて俺たちを警戒させるために言っているんだな。
ただ、そんな言葉に戸惑わない。というより、戸惑っていたらメクにかけた【解放】が解けてしまうので、戸惑っている暇がない。
最初の方針通り、最速で倒す。倒しきるまでも、弱らせておけば後はレーニャと俺だけで倒せるから、とにかく攻撃しまくる。
俺はそう思って再び攻撃を開始すると、
「【伝説化】」
タケイがそう言ってきた。なんだそれ、スキルか?
そのスキルを使った瞬間、タケイの動きが変わった。
元々速かったが、それがさらに速くなった。タケイは超高速で俺に斬りかかってくる。なんとか反応し、受け止めるが、物凄く力が強い。これはずっと受け止めきれるか!?
「勇者にはなぁ。それぞれ奥の手のスキルがあるんだよ。俺の【伝説化】は、身体能力をかなり上げるだけで、ほかの勇者と比べると全然たいしたことねぇーけど、てめーを殺すには十分なんだよ」
物凄い力だ。剣ごと押し切られそうになる。
そこで、メクが魔法を使う。光の槍の魔法だ。タケイはその魔法を今度は避けた。
避けているときレーニャが切り裂きで攻撃を加えるが、その攻撃は軽く受け止められてしまう。受け止められたあと、攻撃を加えられそうになるのを、メクはなんとか回避した。
クソッ。強化されるだと? かなりやばいだろそれは。こっちはあと1分ほどで倒しきる。もしくは大幅に戦闘能力を落とすほど、弱らせなければならないんだぞ? できるのか? 可能なのか?
「面倒だなぁ3対1てのは。誰か削らないとな。女は殺したくなかったが面倒だし、もう殺すかー。最初はあの虎みたいな奴から殺そう」
標的をレーニャに変えたようだ。
タケイが動き出す。俺は動き出す一瞬先にレーニャを防衛するために動いていた。
しかし、
「ばーか、フェイントだよ」
タケイはメクの方に向かっていた。
完全に騙されてしまった俺は、反応するのが少し遅れる。
その少しが命取りだった。メクの胸元めがけて、タケイは突きを放つ。
あまりの速度にメクは反応できていない。
「メク!」
俺は叫んだ。しかし、無駄だった。
メクの心臓にタケイの剣が突き刺る……その一瞬前、メクの姿がぬいぐるみに戻った。
ぬいぐるみ状態のメクにタケイの剣が突き刺さる。
も、元に戻ったぞ。あれ? あの状態でさされたらどうなるんだったけ?
「あ……危ない危ない。死ぬところじゃった」
メクは生きていたようだ。
「あ? なんだこりゃ? またぬいぐるみになったし、死んでいないし。っち」
その後、タケイはぬいぐるみとなったメクをぽとりと落とした。
死んだと思ったのが無事だったのはいい。でも、この状況は……かなりまずい。
メクがもう戦えなくなってしまった。
この状態で、タケイに勝てるのか?
――勝つしかない。
「まあでもこの状態じゃ戦えねーか。ははは、勝ったな。じゃあ次はあの男を殺すか。俺がムカついているのはあいつだしな。散々苦しめたあとぶっ殺してやろう」
タケイは俺に狙いを変えたようだ。そして、剣を俺に向かって振るってくる。
俺は受け止める。一撃一撃が重い。そのうえ、速い。
受け止めるだけで精一杯だ。
そして遂に受け止めきれずに剣が折れる。タケイはなおも斬るのをやめず、俺は肩の辺りを斬り裂かれた。肩から鮮血が噴き上がる。肩に強烈な痛みが走り、俺は思わず肩を押さえてうずくまる。
「テツヤ!」
そのようすを見ていたレーニャが救援に来た。
背後からタケイを攻撃する。
タケイはレーニャを蹴る。
「にゃっ!」
蹴りはレーニャの頭に当たる。かなりのダメージが入ったみたいで、レーニャは猫にまで戻ってしまう。
鑑定をするが死んではいないようだったが、HPは残り僅かになっていた。
「虎から猫になりやがったなこいつは」
少しタケイの気がそれている。俺はその隙にタケイに攻撃をする。まずは【闇爆】を使う。命中その後、【隕石】を使うが、使う前にタケイに腹を蹴られた。
「がふっ!」
あまりの痛みに俺は地面にうずくまる。
「テツヤ!」
メクの叫び声が聞こえる。
「さてこれから苦しんでもらうぞ~。どうしようかな。そうだ」
タケイはそう言って、倒れているレーニャに近づく。
そしてレーニャの首根っこを掴み、
「お前の目の前でまずこいつを殺す。それも結構残酷にな」
「なんだと…!」
「ハハハ、その目、いい目じゃん。俺を馬鹿にしたてめーは苦しんで苦しんでしななくちゃならん。まずは仲間が死ぬところを悔しそうに見ておけよ」
「ふざけん……」
立ち上がろうとしたら、頭を踏みつけられた。
「動いたらだめだろ」
「ぐ……」
「お前みたいなクズがこの俺を怒らせたのが悪かったんだ。苦しんで苦しんで死ね」
タケイはそう言って、俺の頭をグリグリと地面に押し付ける。
土の味と血の味が口に広がる。そして、強烈な屈辱感が俺の胸に込みあがってきた。
クソ! クソ!
俺は力を入れて足をどかそうとするが、強い力で踏みつけられていて、動くことができない。
「踏んでいる状態じゃ、こいつが死ぬとこ見せられないな。よし」
タケイはレーニャを俺の目の前に置いた。
「今からこいつを踏みつけて殺す」
そして、足を上げながらそう宣言した。
「や、やめろ!」
「やめるのじゃ!」
俺とメクが叫ぶ。
「やめねーよ。じゃあ死ぬ所を間近で見ておけよ」
こんな……こんなこと!
でも動けない。前と同じだ。リーザース戦でやられかけたときと。
俺は無力を噛み締めながら動くことができなくなる。
でも、あの時は……そうだ。あの時は……
「俺に助けられたんだったよな?」
以前聞いた声が聞こえてきた。