翌日、俺たちはいつものように、ギルド一階で朝食を食べる。今日も俺たち以外の冒険者が、朝食を食べていた。
「ぐぬぬ……本当なら昨日わしも食べられたはずじゃのに……」
メクは恨みがましい目つきで、朝食をとる俺たちを見ていた。昨日2分だけ元に戻った時、飯を食べるチャンスを逃したのをかなり後悔しているようだ。
「あと2日経てばまた元に戻れるんだからさ……」
「ぬー。2日が長く感じるのう。何十年とこの姿じゃったから、2日など何でもない時間のはずなんじゃが。何か待つものがあると、時間とは長く感じるものなのじゃのう」
ぬいぐるみが人生経験豊富な老人みたいな事言ってる姿って、結構シュールだな、と俺は思う。
「アタシも早く師匠が元に戻った姿見てみたいにゃー」
「ふっふっふ、元のわし姿を見て腰を抜かさんことじゃな。テツヤなど、顔を真っ赤にして慌てふためいておったからのう」
「……今度からかったら、【解放】を使ってやらないと、言わなかったか?」
「す、すまんすまん。ついな。あまりにも面白かったからのう」
それで謝ってるつもりか全く。そんなに面白かったかねー俺の狼狽えているところが。
その後、俺たちは朝食を食べ終わり、
「今日は自由都市ヴァーフォルに行く準備をするんだったな」
「そうじゃの。ヴァーフォルまでは結構遠いし、危険な場所を通る必要があるから、準備を怠ってはならん。食料に水、途中で野宿する必要があるからその道具、色々必要じゃ」
「1つ聞きたいんだが、この町からヴァーフルまで、馬車で行ったり出来ないのか?」
「残念ながらないのう」
「そうか。じゃあ買い物しにいくかー」
俺たちは買い出しに行こうとしたその時、近くの席に座って、朝食を取りながら談笑していた冒険者達が、
「そういえば、エルフの国ファラシオンに、勇者が攻め込んだらしいな。エルフと人間たちはそこまで悪い関係じゃなかったのにな」
「ああ、聞いた聞いた。何でもすでに城が2つくらい陥落したらしい。その勇者外道らしく、男と年寄りの女は皆殺しにして、若い女エルフを徹底的に集めてやがるらしい。胸糞わりー話だよなぁ」
そんな会話をしていた。
その会話を聞いたメクが、
「なんじゃと……?」
と低い声で呟いたあと、男たちに近づいて、
「その話もっと詳しく聞かせろ!」
と大声で言った。
「うわ、何だこいつ」
「なんかの魔法生物か?」
「詳しく話を聞かせるのじゃ! いつ勇者は国に攻めいった!? 何人で攻め込んだんじゃ!? 何で攻め込んだんじゃ!? 被害状況はどれくらいじゃ!?」
メクは冷静さを失ったように冒険者達に向かって叫ぶ。
「いや、俺たちも噂で聞いただけだから、詳しい話は知らんよ」
「いつかは一応知っているな。10日くらい前じゃなかったっけ? しかし、たった10日で複数の城を落とすとは、勇者が恐ろしく強いって話は本当のようだな」
「しかし、なんでそんなに必死にエルフについて聞くんだ? 知り合いでもいるのか? 詳しい話は町の情報屋にでも聞けよ。じゃ、俺たちは急いでるから」
冒険者達は去っていった。
メクはその後、体を震わせながら、
「行かねば……」
そう呟いた。
メクは呟いたあと、1人で冒険者ギルドを出るために走った。
「待て! メク!」
俺はメクを追いかけようとする。
「お主らは来るな! これはわしの問題じゃ! 巻き込むわけにはいかん!」
メクがそう叫んだ。それでも俺は追うのをやめない。俺の方がメクより速いから、追いついて手を取って強引に動きを止める。
「1人で行ってどうするんだ! 俺たちも行く!」
「そうにゃ! 1人で行こうとするなんて水臭いにゃ!」
「今回の戦いは言うなれば人間との戦争じゃ。戦争にお主らを巻き込めぬ。人間であるテツヤはなおさら巻き込めぬ」
「メク1人で行っても出来ることは、限られているだろう!」
「……仮に何も出来なくても行かねばならぬ。わしはエルフの女王だったのじゃ」
「女王?」
「そうじゃ。まあ、今は死んだことにされておるだろうがの。
それでも女王として国の危機を見逃すことはできん」
女王だったのかメクは。まあ何にせよ故郷の危機に奮い立たないわけはないだろう。しかし、当然1人で行かせては駄目だ。
「やはり俺たちも行く。メクだけに行かせるわけにはいかん」
「だからテツヤお主は人間じゃ。人間と戦うことになるにじゃぞ?」
「勇者は俺にとっても因縁の相手だ。そいつが大事な仲間の故郷に非道な真似をしているのを、放っておけるわけがない」
「そうにゃ! アタシは師匠がいなかったらとっくの昔にのたれ死んでたにゃ! その恩を返すときが来たのにゃ!」
「……お主ら」
メクは少し考え込む、そして、
「……頼む、力を貸してくれ」
「任せろ」
「任せるにゃ!」
こうして俺たちの次なる目的地は、自由都市ヴァーフルから、エルフの国ファラシオンに向かう事になった。
○
まず向かう前に、情報屋から情報を買った。
それなりに金がかかったが、有意義な情報を教えてくれた。
勇者がエルフの国ファラシオンを攻め込んでいるのは、間違いないらしい。
戦力は勇者を含めて100人程度だが、それでも勇者があまりにも強すぎるため、エルフは対抗出来ていないらしい。
すでに城がいくつか陥落し、村もいくつか焼き払われたそうだ。
話を聞いたあと、とにかく急いで向かう事にした。
ファラシオンは人間の国の北側にある。俺たちがいた、メーストスの町からは北東方向にあった。
行き方は、東に行くと死の谷がある。そこから北に行くと、死の谷にかかっている橋があるのでそれを渡る。
その橋を渡って、北東方向に歩いて行くと、ファラシオンに辿りつく。
距離は結構遠い。1日では着かないので、急いで準備を済ませて、俺たちは町を出た。
そして、3日ほどひたすら歩き、とあるエルフ達の村に到着した。
「これは……」
「ひ、ひどいにゃ」
俺は衝撃を受け言葉を発する事もできなかった。
その村は焼き払われていた。家は焼け落ち炭化している。さらに地面にはエルフ達の死体がゴロゴロと転がっている。
生で無残な死体を初めて見た俺は物凄く動揺する。何だこれは、現実の光景なのか?
これは勇者の仕業なのか? 間違いなくそうであろう。
なぜ地球のそれも同じ日本から来ているのに、こんなマネが出来るんだ。どこまで外道なんだ。
怒りが徐々に湧き上がってくる。
「ゆ、許せん……」
メクが怒りに震えながら呟いた。
その後、メクは生き残りがいないか調べるが、生きているものはいなかった。まあ、皆殺しにされなくても、この惨状なら逃げ出しているはずなので、誰もいないか。
「一刻も早く行きたいところじゃが、奴らの居場所が分からぬ。王都まで行き情報を得るぞ!」
メクは震えながら、怒りを必死で抑えるように言った。こんな光景を見ても怒りで我を忘れないメクは、凄い精神力を持っていると思った。
その後メクについていき、王都まで向かった。
〇
「いやーエルフの国を攻めて正解だったな」
勇者武井駿は、城の最上階にあるイスにふんぞり返りながら座っていた。
彼の傍には大量のエルフの女達が、首輪に繋がれた状態で佇んでいた。
「こんな大量にいい女を抱けたし、さらにエルフの野郎ども、よえー癖に意外と殺したら貰える経験値がすげーうめーんだよな。80超えてから殆どレベルは上がっていなかったけど、エルフども殺しまくったおかげで、90超えたんだよな。このステータスすげー伸びて今のステータスヤベェーまじで。今ならなにが来ても負ける気しねーわ」
「私共もシュン様のお強さには、驚かされるばかりです」
駿の目の前には複数の部下達が跪いており、その部下の1人がそう言った。
彼は自分のやっている行為を一切悪びれた様子もなく言った。
駿は椅子から立ち上がり、
「さてと、そろそろ出撃するか。王都にいる女王はそれはもう絶世の美女らしい。早くそこまで侵略しねーと」
そう言って城から出ようとする。
「あ、それとそこにいる女ども、飽きた。てめーらで好きにしていいぞ」
駿はそう言い残して城を出た。
○
「王都についたな」
俺達はしばらく歩いてエルフの国ファラシオンの王都に到着した。
王都には門がありかなり厳重に警備されている。
「なあ、これって入れるのか? 俺、人間なんだけど」
よく考えれば、そもそも人間の俺は今はエルフに恨まれる立場だろう。
王都に入れてくれるとは思えないし、それ以前に捕まって処刑される可能性すらある。
「今はわしが2分だけだが元の姿に戻れるじゃろう。わしがテツヤが害の無い人間じゃと説明すれば、入れてくれるはずじゃ。何せわしはこの国の女王じゃったからのう」
「つっても結構昔の話だろ? メクのこと知っているエルフは今もいるのか?」
「エルフは長命の種族じゃ。まだまだわしのことを知っておる者も、大勢おるじゃろう」
「それならいいけど」
「では【解放】をわしに使ってくれ」
「わかった」
俺は【解放】を使って、メクの元の姿に戻そうとする。
「お、やっと師匠の元の姿が見れるにゃん!」
ようやくメクの姿が見れそうで、レーニャはわくわくしているようだ。
そして、俺は【解放】を使い、メクを元の姿に戻した。
「よし、戻ったな」
「おー! すっごいきれいにゃん!」
見たのは二度目だが相変わらず、すげー美人。やはりどうしても元の姿のメクといると、緊張してしまうな。
「じゃあ、行くぞ」
メクが門に向かって歩いていく。俺たちも付いていく。
門の前には武装した門番が2人立っている。
「メク・サマフォースがただいま帰還した! お主ら門を開けるのじゃ!」
メクは門番の前に立ちそう言った。
2人の門番は、メクの姿を見た瞬間、恐れひれ伏し門を開け……ず、はぁ? 何だこいつ? と言いたげな目でメクを見る。
「おい、お亡くなりなられた元女王様の名を語るとはどういう了見だ。ふざけているのかお前は」
「な、なに? わしがその女王様本人じゃ! 見たことないのか?」
そうメクが言うとまたも何言ってんだこいつというような表情を2人の門番は浮かべて、
「あのな。戯言を言うのもいい加減にしろよ。現女王様に容姿的に似ているから、騙そうと思っているんだろ?」
「これ以上言うと不敬罪で捕まえるぞ」
あのー、メクさん。自信満々で言ってたけど全然知られてないようなんですが……?
「……っていうか、貴様の後ろにいる奴! 1人はケットシーだが、もう1人は人間じゃないか!」」
「なぜ人間を連れてきた! 怪しい奴だ! 全員捕らえろ!」
ちょ! 捕まえられる流れになってしまってるじゃん! やばいじゃん! かなりやばいじゃん!
「ちょっと待たぬか! わしは本当にメク・サマフォースじゃ! おぬしらが知らぬのなら、昔からおるエルフを連れて来い!」
「もう戯言は聞き飽きた! 後ろにいる人間ともども、一緒に来てもらう。まったく何をたくらんでいるのだか……」
ど、どうすんだよメク! そう思いを込めた視線をメクに送る。メクもどうしたものか悩んでいるみたいだ。もうすぐで2分経つ、そうなるとどうしようもないぞ。
捕らえられそうになった時、
「何を騒いでおる」
誰かが来た。一際豪華な装備を身につけている女エルフだ。メクがその女エルフの姿を見た瞬間、「あやつは……」と呟いた。
「レマ将軍! 実は怪しいやつらが」
「ん? 怪しい奴ら……?」
レマ将軍と呼ばれた女エルフが、メクを見たその瞬間。
「メ、メク様……?」
信じられないものを見たかのような表情を浮かべて、呟いた。
スポンサーリンク