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1.異世界召喚

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 理不尽な事は世の中に多々ある。

 やってもいない罪を着せられたり、手柄を横取りされたり。

 生きていれば、人は何度も何度も理不尽な目に遭う。
 それはある意味、当然のことではある。

 ただ、ここまで理不尽な目に遭ったことある人は、俺以外いるのだろうか?
 何故俺がこんな目に遭わなくてはいけないのだろうか? 何かしたのだろうか?

 いくら頭の中で問うても答えるものなど当然いない。

 しかし、この薄暗い異世界の谷底で、絶望的な状況に陥っていた俺は、問わずにはいられなかった。

 ……時は数日前まで遡る。

 ○

 9月も後半、平日、時刻は夕方。

 仕事帰りの俺は、身も心も疲れ果てていた。
 俺は、いわゆる底辺労働者というやつで、低賃金で工場働きをしている。

 俺が底辺になった理由は、唯一つ、高校時代遊びすぎたからだ。
 遊びすぎた、というのは、友達や彼女とではない。

 ネットゲームだ。ネトゲにはまりにはまって学業が疎かになった。
 成績が悪化の一途を辿り、志望した大学にいけず、さらに就活に失敗し、こうして底辺労働者になってしまった。

 現在友達0、童貞、ちなみに顔も特別良くない。まさに俺こそ底辺を絵に描いたような男だった。

 結局こうなったのは人生を舐めていたのが原因だった。
 何とかなるさで生きていた。なんともならないのにな。

 16歳の俺に会えたら言ってやりたい。
 世の中舐めるなよと。生きるのってのは凄く大変なんだと。
 ネトゲなんかやめて、必死で勉強しまくれと。

 無理な話だがな。

 異世界に転生か、転移でもしねーもんかなー、とかしょうもない妄想でもしながら、日々を生きていた。

 そんなことを考えていたら、近所の公園に着いた。
 もうすぐ家に着くだろう。

 この公園付近には若干柄の悪い奴らが屯している。
 出くわさないようにしないとな。

 そう思って歩いたら、さっそく出くわしてしまう。

 前方に近くの底辺高の制服を着たやつらが、たむろしている。
 4人いて、それぞれ不良だというのを前面に主張しているような、風貌をしている。

 俺は絡まれないよう存在感を消して帰ろうとする。

 だが、なにやらようすが少しおかしい。

「なあ、いいじゃねーか、ちょっとくらいさー」
「めんどくさいし、もう連れてかねー?」

 不穏な会話をしている。
 注意深く彼らを見ると、誰かに絡んでいるみたいだった。

 不良たちに絡まれているのは、一人の女の子。
 かなり可愛らしい容姿の女の子だ。あまり不良の相手が出来るようなタイプではないらしく、怯えて縮こまってしまっている。

 このようすでは、放っておいたら、乱暴される可能性が高い。

 警察を呼ぶか? いや、間に合うのか? 周りに人は? 俺以外いない。そもそも人気がない。

 結論、助けるには俺が何とかするしかない。

 普段なら俺はここで絶対に逃げる。
 俺は喧嘩が強いわけではないし、相手も四人いる。
 助けるのはまず無理だからだ。

 ただ、なぜかその時だけ。
 さっきまで人生について色々考えていたのが原因だったのか、理由は分からないが、

「お、おい、やめろよおまえら」

 俺は不良たちから少女を助けに行くという選択をした。

 言った瞬間、しまった妹とかそんな感じで設定作って、声かければよかった、と後悔した。
 結構大声で言ってしまったので、今更、軌道修正は難しい。このまま押し通す事にした。

「あ?」

 金髪の不良が俺に睨みを利かせてくる。
 頭は悪そうな奴だが、背が高い。

「なにこのおっさん」

 坊主頭の不良がそう言った。

 25だからまだおっさんじゃねえーよ。と言いたかったが、口には出せない。

「そ、その子、困ってるみたいだから放してやるべき……いや放してやれよ!」

 俺は少し震えながらも、きちんと意思を伝える。

 不良たちはそんな俺を見て、

「ははは! このおっさん正義のヒーロー気取ってんのか!?」
「そのオタクみたいな見た目で! ハハハハ!」
「つーか、震えてるぞおっさん!」

 大笑いされた。

「まあ、でも邪魔なんで、さっさと帰れよ。今ならまだ痛い目に遭わずにすむからさぁ」

 長髪の不良が、怖い表情で脅してきた。

 俺も帰りたいのは帰りたい。
 ただ一度声をかけたのにここで帰ったら、みっともなさ過ぎるだろう。

 俺は一度大きく深呼吸する。

 震えは止まった。

「お前らさ、後悔するぞ」
「あ?」
「断言する。お前らは将来、俺みたいに底辺になってものすごく後悔する。後悔したくなければ、こういった事は止めるんだ」

 過去の自分に言ってやりたいと思っていたことを、不良たちに投げかけてみた。

「……は?」

 頭にきたのか、金髪の不良が怒気のこもった表情を浮かべる。

「誰が底辺になるだぁ? あ? おめーみてーなゴミが何言ってんの? すげー頭にきたんだけ、ど!」
「ぐはっ!」

 腹を思い切り殴られた。
 一瞬息が止まる。

 強烈な痛みが腹部に走り、俺は前のめりに倒れた。

「オラ!」「死ね! ゴミが!」「うぜーんだよ!」

 倒れた俺に追い討ちをかけるよう、次々に蹴りが飛んでくる。
 俺は本能的に体を丸め内臓を守ろうとする。

 一切抵抗できず体中を蹴られまくる。
 強烈な痛みが、次から次に襲ってくる。

 痛い! 痛い! 痛い!
 
 なれない事はするもんじゃなかったか……
  
 全身が痛い。蹴られてない場所は無いんじゃないのか。
 口を切ってしまい、血の味が口の中にあふれる。

 蹴りは長く続き、だんたん痛みを感じにくくなってくる。

 もしかして、俺はこのまま死ぬんじゃないだろうか?

 俺は、チラリと視線を上に向ける。

 何故か少女がまだいた。不良どもは俺を蹴るのにかかりきりで、逃げようと思えば逃げられるのに。
 少女は俺をものすごく心配そうな目つきで見ている。

 申し訳なくて帰るに帰れないか、それとも足がすくんで動けないのか理由は分からないが、少女は俺を見ながらたたずんでいた。
 出来れば早く逃げて欲しいが。
 そうすれば俺の犠牲が無駄にならずに済む。

 数秒間蹴られ続けていた。
 だが、突然、ピタリと蹴りがとまる。

 蹴るのにも飽きたのかと思っていると、いきなり俺の視界が真っ暗闇に染まる。

 な、なんだ?

 もしかして、蹴られすぎて頭がおかしくなったか?

 その直後、真っ暗だった視界が変化する。

 山の中、雪の中、砂漠の中、森の中、街の中、とグルグルグルグルと、周りの景色が切り替わっていく。

「……!?」

 これには驚きすぎて、俺は声を出す事すらできない。

 景色が変わり続け、最終的に一つの景色で変化がストップする。

 床が大理石で出来ていて、目の前にローブを着た女性が1人。
 さらに周辺には鎧を装備した人や、豪華そうな服を着た人など、大勢の人間がこちらを見ていた。
 どの人も白人だ。

 奥のほうに、王座が置いてある。座っている者はいない。

 わけのわからない景色に、俺は混乱しすぎて何も考える事もできない。

 よく周りを見ると、先ほどの不良たちと、不良に絡まれていた女の子もこの場にいるみたいだ。
 全員が戸惑いの表情を浮かべている。

 そんな混乱しまくっている俺たちに向かって、

「ようこそ、勇者の皆様。あなた方は、大秘術、勇者召喚によってこの世界へと召喚されました」

 ローブを身につけた女性が、冷静な表情でそう告げた。

 俺はその言葉の意味を少し考える。

 勇者召喚。
 アニメやラノベ、漫画でよくある展開だ。

 いわゆる、異世界召喚ってやつだろう。
 
 異世界にいけたらなー、なんて事は、確かに妄想していたが、現実に起こると混乱する以外にない。
 
 つーかこの状況は現実なのか? 夢なんじゃないのか?
 仮に現実なら、異世界召喚されたとでも考えなければ、説明がつかないが。

 ローブを身につけている女性は、さらに話を続ける。

「私はアーバス王国に仕える魔術師のミームと申します。この国は現在危機的状況に陥っており、このままでは滅亡してしまいます。そこで、私が王命を受け、勇者召喚で皆様を召喚したのですが……おかしいですね。召喚したのは4人だけだったのですが、何故か6人……まあいいでしょう話を続けます」

 その後、ミームは詳しい説明を始める。

 この世界には、エルフやドワーフ、オークなどなどの、多種類の種族が住んでおり、その複数の種族たちが限られた土地を奪い合い、年から年中戦争をしているらしい。

 そんな中、人間は戦いに負けに負けまくって、領地がものすごく少なくなっているらしく、もはや滅亡も時間の問題という状況らしいのだ。

 そこで、窮地を脱すために、俺たちに戦って欲しいとミームさんは言ってきた。
 
 戦えと頼まれているが、戦いなんて俺に出来るわけないし、そもそも、なんで言葉通じているの? とか、とにかくいろいろ言いたい事はあったのだが俺は何も言えない。

 俺は何も言えなかったが、金髪の不良は、ミームを睨みつけながら、

「ふざけんなーてめー! 今すぐ帰せ!」

 と脅すように言った。
 その脅しを受けてもミームは表情を変えず、
 
「申し訳ありません。元の世界に戻すのは現時点では不可能です」

 そう言った。
 
 その後、戻せない出来ない理由をミームは話す。

 話によると、勇者には帰還目標が定められているらしく、それを達成したら自動的に元の世界に戻されるが、達成しなければ絶対に戻れないらしい。

 ちなみに帰還目標は、人間の領地の復活。
 元々の人間領は今の数十倍はあったらしく、それらを全部取り戻す事が出来たら、元の世界に帰れるらしい。

 納得はいかなかったが、俺は文句を言えなかった。

 不良たちは「ふざけんなよ!」「ぶっ殺すぞ!」とか、しばらく文句を言っていたが、根気よく説得されていったん静かになる。

「それでは皆様の限界レベルを調べさせていただきます」

ミームがそう言った。

「限界レベル?」「なんだそりゃ?」

不良たちが聞き返す。

「まずレベルから説明しましょうか。レベルは戦闘や訓練をつむことで上げる事の出来る数値です。上げればステータスが上がったり、スキルを獲得したりして強くなれます。レベルは無限には上げられません。生まれつき上げられる限界値があります。それが限界レベルです」

 何かレベルとかステータスとかゲームみたいだな。

「勇者として召喚された方は、限界レベルが普通の者より遥かに高くなります。そのため強力な力を使う事が出来るようになります。ちなみに勇者として召喚された方は、最初のレベルが限界レベルの半分の数値になっております」

 ふーん。それで俺たちが呼ばれたのね。

「では、調べますね。『レベルサーチ』の魔法を使えば、レベルは簡単に調べる事が出来ます」

 ミームは「レベルサーチ」といい、金髪不良の限界レベルを調べようとする。すると、

「おー! 召喚には成功したのか!」

 大きな男の声が響き渡る。

 なにやら豪華絢爛な服装をして、王冠を被っている中年の男が部屋に入ってきた。

「国王陛下!」

 その場にいる、者が全員、頭をたれる。
 あのおっさんが、この国の国王みたいだ。

「よいよい。それより、この若造たちが我が国を救ってくれる、勇者なんじゃな、4人と言う話じゃったが、6人おるのう」
「原因はよく分かりませんが6人召喚されました。今から限界レベルを調べるところです」
「よいよい、数は多いほうがいいじゃろ! ワクワクしてきたわい」

 国王は王座に座る。

「さて、気を取り直して、限界レベルを調べましょう」

 ミームは限界レベルを調べ始めた。

「おお! あなたの限界レベルは99ですね!」

 ミームが驚きの声を上げる。
 周りで見ていた人たちからも歓声が上がる。

「素晴らしい数値です。ちなみに人間の平均的な限界レベルは25で、どんなに高くても60が限界点です。99はとんでもない数値ですよ」

 ミームは嬉しそうに言いながら、ほかの不良たちの限界レベルを調べ始める。

 95だとか98だとかどれも高い数値だ。

 一番高かったので125。ちなみにその数値を出したのは長髪の不良で、恐らくリーダー格なのか、やっぱ「山ちゃんはすげー」とかキラキラした目で、ほかの不良たちに見られている。

 次に、少女の限界レベルを調べる。

「ん? 48ですか。おかしいですね。高いですが、勇者の数値としては低すぎます」
「どういうことじゃ?」

 王様に聞かれてミームは少し考え、

「どうやら、勇者なのはこの4人だけで、ほかの二人は召喚に巻き込まれただけだったみたいですね」

 と結論を出した。

 は? それってどゆこと?
 俺は、強くないってこと? つーかそれって帰れるのか?
 
 や、まあ、俺は元の世界でも底辺中の底辺だったから、新しい暮らしになると思えばありっちゃありだが、この女の子はかわいそうじゃね?

「そうかそれは残念じゃのー」
「こんな例は初めてですが。悪い事をしてしまいましたね、帰す事はできませんし……」

 いやいや、悪い事をしてしまいましたね、じゃねーだろ!

「まあ、48なら十分高レベルじゃし、その子にもついでに戦ってもらえばよかろう。帰せないんじゃ仕方ないしの」
「そうですね」

 マジかよ。戻れないのに戦うのか? よく分からん異世界の国のために?
 まあ、この女の子も俺と一緒で、自己主張が激しいタイプじゃないだろうから、流されて戦う事になるかもな。

「では、あなたも勇者ではないでしょうが、限界レベルを調べさせていただきます」

 ミームが最後に俺の限界レベルを調べる。
 
「……これは」
 
 ミームは驚いたような表情を浮かべる。
 何だ? そんなに凄い数値になったのか? と思っていると、

「……限界レベル1です」

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