第三十九話 決着
それから、リックたちはロウグを、ギルとシロエはモウグを着実に弱らせていった。
最終的にどちらとも膝をつき、立ち上がることが出来ないくらいに追いつめる。
「ぐ……侮っていたか……」
「だが、これは面白い発見ではある……」
ロウグとモウグは追いつめられているというのに、どちらも笑みを浮かべていた。
リックはその様子を不気味に感じる。
「「離脱」」
モウグとロウグが同時にその言葉を呟いた。
すると、二人の体は光に包まれて、消滅した。
リックはその光景を見て、驚愕する。
「え……? き、消えた!?」
「ぬぬぬ? もうどういうことじゃ。もう少しで倒せたのに」
クルスは不満げな表情で呟く。
「ど、どういうこと?」
べリアスがリックの質問に答える。
「うーん……確かな事は分かんねーが……今のは自分がいるダンジョンに速攻で戻れる道具を使ったんだと思う。かなりDPを使用しないと作れない道具だぜ」
「ダンジョンに速攻で戻れる道具って……ここが奴らの所属しているダンジョンじゃないの?」
「うーん、俺の予想だがたぶんあいつらほかのダンジョンから来た援軍なんだと思う」
「そのダンジョンに今の道具で戻ったと」
「たぶんだけどな」
「じゃあ、あの二体は別のダンジョンで生きてるってことだよね……何かそれって嫌だね」
「だなぁ……あんな奴らを援軍に出せるダンジョンってことは、SSランク以上のダンジョンである可能性が高いし……目を付けられたかもしれねーぞ」
「う、うわー」
SSランクのダンジョンは、勇者パーティーに所属していた時ですら、まず訪れなかった場所である。
それだけ、圧倒的な難易度であった。
「どれだけ強い敵がおろうとも、わしが全て倒すから父上は安心するのじゃ」
クルスは胸を張る。
しかし、不安は拭えない。ダンジョンに戻ったら、もっともっと強化しようと決めた。
「まあ、とにかく今回はロウグとモウグには勝ったし、次がたぶんダンジョンマスタールームだ」
「ダンジョンマスタールームには、もう敵はいないから、もう攻略したも同然だぜ。マスターは正直戦えない奴だからな」
「そ、そうなんだ。僕と一緒じゃん」
何だか仲間意識をリックは持った。
ダンジョンマスタールームへ向かう穴があったので、リックたちは降りた。
リックたちはダンジョンマスタールームに到着した。
赤叡山のダンジョンマスタールームは、リックのダンジョンマスタールームよりも広かった。部屋の壁際には本棚がずらっと並んでおり、中央に机や椅子などの家具、そしてダンジョンの様子を見る監視玉などが置かれている。
その中央にある椅子に、ダンジョン精霊のミレイが涼し気な表情で座っていた。
客観的に見て、追いつめられた状況でこの冷静さはどういうことだと、リックは警戒する。
(何か……秘密兵器でもあるのか?)
そう思っているとミレイが口を開いた。
「秘密兵器があるのかと、思っていますね? 残念ながらありません。私の負けです」
負けを認めたその顔はあくまで冷静そのものだった。
もはや勝ち目がないことを悟っているため、逆に冷静でいられているのだろう。
「私の予想をはるかに上回るほど、あなた方は強かった。まさか、巨大化させたモウグとロウグの二体を退けるとは」
表情を変えずリックたちを称賛するミレイに、べリアスが質問を投げかける。
「あの二体は何だ? どうやってここに連れてきたんだ? そんで最後倒してないのにどっかにいったのはなぜなんだ?」
「モウグとロウグはSSランクのダンジョンから来てもらった助っ人です。彼らが倒していないのに逃げたのは、そういう契約だったからです。追い込まれたら緊急離脱を許すという条件です。あの二体が追い込まれるとは思っていませんでしたし、仮に追い込まれるような状態になったら、死ぬまで戦おうが逃げようが結果は一緒になるので、その契約を結んだのです」
赤叡山のダンジョンは、窮地に追い込まれたことが今までなかったので、ダンジョンに助っ人を呼んだことはなかった。そのためべリアスは助っ人を呼ぶという方法を全く知らなかった。
「助っ人かー。てか、あいつらがいたダンジョンが、僕のダンジョンに攻めてくる可能性がありそうだね……」
リックは流石にSSランクのダンジョンとなると、そう簡単には追い払えないかもしれないと思い、恐怖する。モウグ、ロウグだけならまだしも、同レベルの魔物が数体いるかもしれない。
「まあ、今日のところは勝ったし、大人しく契約を結んでもらうよ。ダンジョンマスターどこ?」
「ローズ様なら、あちらのベッドで眠っておられます」
大きな天蓋付きのベッドをミレイは指示した。
リックはそこに向かって近づこうとすると、天蓋がもぞもぞと動き出し、中からダンジョンマスターが出てきた。
「騒がしいぞ……何があったのだ?」
出てきたのは小さな植物系の魔物だった。体と顔は人間っぽいが、髪の代わりに棘のある蔓を生やしており、頭の頂点に薔薇の花を咲かせている。
身長は1mないくらいで、思ったより可愛いダンジョンマスターだとリックは意外に思った。
「何だそいつら。新しいダンジョンの魔物たちか?」
状況を飲めていないという表情で、ローズはミレイに尋ねた。
「いえ、ダンジョン外から来た魔物たちです」
「……は? そいつらがなぜここにおる。撃退せよ」
「あの手この手で撃退しようとしましたが、叶わずダンジョンマスタールームまで侵入されてしまいました。もはや打つ手はありません」
「な、なにー!?」
リックは、契約書を持ちながらローズに近付く。
「ひぃ」
「契約を結べば何もしないよ。月のDP収支の半分を僕らの方に移すって奴だけど。結んでくれるよね」
「な、は、半分だと!? そ、そんな馬鹿な……」
「くれるよね?」
リックは脅すように言った。
戦闘能力のないローズは涙目になり、ミレイを見る。
ミレイがゆっくりと首を横に振ったのを見て、もはやどうすることも出来ないと悟り、大人しく契約書に血判を押した。
リックは大きな勝利を経て、赤叡山のダンジョンを出て、自分のダンジョンへと戻った。
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