第三十八話 vsロウグ&モウグ②
リックはロウグとクルスの戦闘を、目を見開いて観察し続けた。
元々観察力は有ったリックだったが、エンペラーゴブリンになって動体視力が大幅に向上したおかげで、とてつもないスピードで戦闘を繰り広げる、ロウグとクルスの様子もある程度見ることが出来ていた。
弱点を見抜くには、戦闘時の仕草をよく見て、分析する必要がある。
視力が高いだけでは不可能だ。
観察力や分析力に長けているリックは、弱点を見抜くのを比較的得意としていた。
リックの横でべリアスもじっと、ロウグとクルスの戦闘を見つめる。
べリアスも、元々の仕事はダンジョンへの潜入と、破壊工作、情報収集であったため、見てから情報を集めるのは得意である。
そんな二人が数分間見続けるが、
「何か弱点っぽいの見つかったか?」
「分かんない」
どこにも弱点など見つからず。
あまりにも強くて、倒せる方法などあるのか、疑問に思い始めてきた。
「あいつ見た目的には、鬼系だよね。オーガとかゴブリンとかと、おんなじカテゴリだ。何の上位種なんだろう。オーガかな……?」
「確かにオーガっぽい感じはするけどな。ゴブリンではねーと思うぞ」
「うーんだよね……オーガ……オーガの弱点って何かあったような……」
勇者パーティーに所属していた時代に、オーガとは何度か戦った経験がある。
人間に似た見た目の鬼であるが、実は体の中の構造などは、人間とは大きく異なる。
リックはオーガの知識を思い出す。
(確かオーガは、気点っていう部位が右肩にあったはず。そこを突かれると、力を出しにくくなったはずだけど……)
あれがオーガであるという確証はリックには持てない。
観察を続けると、肩の辺りになるべく攻撃を食らわないようにしていることが分かった。
(やはりあいつはオーガの一種ではあるんだ。ただ、クルスだけの攻撃で気点の機能を狂わせるほどのダメージを与えられるかは、疑問だ)
クルスだけでは駄目となると、特攻覚悟でSランクの魔物たちを総動員し攻撃しなければならない。
Sランクの魔物は、そこまで楽に作れるというわけでもないが、犠牲にするのが致命的になるというほど希少でもない。
心情的には犠牲になれと言い辛いが、この窮地、やるしかないとリックは思った。
クルスが長い戦いの末、体力をだいぶ消耗しているようだ。
やるなら早くやるしかない。
「クルス! そいつの右肩を狙って! Sランクの皆も一緒に、あいつの右肩を攻撃するんだ!」
大声で叫び魔物たちに命令をした。
弱点を見破られたロウグは、驚いた表情を浮かべる。
怯えていた魔物たちだったが、ダンジョンマスターの命令となると攻撃しに行かねばない。
一斉にロウグの右肩めがけて攻撃を開始。
それに合わせてクルスも、ロウグの右肩を攻撃を始めた。
「む!?」
右肩が狙われていると知り、ロウグは驚愕する。
その様子を見て、リックは自分の考えが正しかったのだと確信する。
ロウグは防御しようとするが、クルスの攻撃がかなり早く防御しきれず、右肩に直撃する。
「ぐ……」
ダメージを受けて、少しよろける。
弱点を突いたからと言って、致命的なダメージを与えるまでには至らない。
元々の体力は桁外れに高いので、まだまだ余裕はある。
しかし、ぐらついた隙に、Sランクの魔物たちの一斉攻撃が来た。
全ての攻撃が、弱点である右肩を狙っている。
SSランクであるロウグと、Sランクの魔物たちは、階級を見れば1しか違わないように見えるが、実際はその差は大きい。
そのため、一撃一撃のダメージは少ないのだが、それでも二十はいるSランクから弱点に総攻撃を受けて、無傷でいることは不可能だ。
ある程度ダメージを食らう。
ロウグも黙ってやられているだけではない。
攻撃の当たらないクルスは一旦無視して、Sランクの魔物たちに攻撃をする。
何体かの魔物に攻撃が直撃した。不運にも攻撃を食らってしまった魔物たちは、一発で死亡してしまう。
リックとべリアスは運よく、食らわずに済んだ。
「怯まず攻撃!」
圧倒的な威力にSランクの魔物たちは怯えるが、リックの号令で命令従って攻撃を始めた。ダンジョンの魔物たちは、ダンジョンマスターであるリックの命令は絶対に聞かなければならない。
それからシロエが連続で、右肩を攻撃したり、Sランクの総攻撃が再び直撃したり、確実にロウグにダメージを与え、徐々にリックたちが優勢になっていった。
〇
怒り心頭のモウグの猛攻をギルとシロエは何とか防ぎ続ける。
ギルの分身の一体が、リックの声を聞いた。
「右肩が弱点ですか。シロエさん、狙いますよ」
「りょーかーい」
シロエとギルは、モウグの右肩に集中攻撃を始めた。
シロエのエネルギー弾がモウグの右肩に直撃。
「ぐあああ!!」
弱点じゃない場所に当たっても、ある程度ダメージを受けるくらいの強力な攻撃だったので、それが弱点に当たったので、相当ダメージを受ける。
ギルは巨大スライムを使用して、弱点を攻撃。
弱点を突かれモウグの勢いは削がれ始める。
しかし、それでもまだまだ体力は残っているようだ。
「しぶとい奴っすね」
モウグは反撃を試みる。
手に魔力を貯めようとした。
しかし、上手くいかない。
気点への攻撃は、モウグにダメージを与えるだけでなく、魔力などの力を上手く操れなくする効果もある。
何度も気点を突かれて、モウグは上手く力を練れなくなってしまっていた。
「ぐ……」
有効な攻撃手段を失ったモウグは、完全に劣勢に追い込まれていた。
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