第三十六話 赤叡山のダンジョン攻略②

2020年12月26日

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「……強いですね」

 ミレイは監視玉でリックたちを見て衝撃を受けていた。

 想定していたより、遥かに強い敵がやってきた。
 ベリアスとカリウシがやられたことを考慮して、間違いなく凄まじい魔物がいるであろうとは想像していたが、その想像を遥かに上回っていた。

 しかしそれでも、ミレイは全く慌てはしなかった。

 援軍として呼び寄せた二体の魔物が負けるとは思っていなかったからだ。

(確かに通常の状態で戦ったら、どちらが勝つか分かりません。しかし、ダンジョン戦では防衛側が圧倒的に有利です)

 部屋の効果を一方的に得られる防衛側は圧倒的に有利。

 如何に敵が強かろうと、部屋の恩恵を受けた状態で敗れるとは考えにくかった。

「クククク、兄者……これは思ったより楽しめそうだな」
「Sランクのダンジョンにこのレベルの魔物が攻めてくるとはな……面白いではないか」

 二体の魔物はリックたちの様子を見て、笑みを浮かべた。
 強き者と戦う恐怖心はその表情からは感じられない。
 戦うのが待ちきれないという様子であった。

「ではロウグ様、モウグ様、十五階へと行ってください」

 二体の魔物、ロウグとモウグは命令を受け、ダンジョンマスタールームの手前の部屋である十五階へと向かった。

 〇

 十階を容易くクリアしたリックたち。

 十一階、十二階、十三階は割とあっさり突破した。

 部屋は変わっていたのだが、強い部屋はなく特に問題なく突破出来た。

 しかしそれが逆に警戒心を増させていた。

 敵の最大戦力であるホーメイトはまだ来ていない。

「まあ、たぶんホーメイトの奴は十五階にいると思うがな。最後の階を一番堅くしてるんだと思うぜ」

 べリアスはそう予想していた。

 そしてリックたちは十四階へと進む。

 すると、

「これって……」

 見かけは初期状態のダンジョンと全く同じである。

「もしかしてここも巨大化地獄?」
「分からんがその可能性がたけーな」

 リックたちは慎重に進んでいく。

「……ここまでやってきたか」

 低い声が響いた。

 リックの視界の先、巨大な赤いリザードマンが見える。

「ホーメイト……」

 べリアスがそのリザードマンを見て呟いた。

「あれがホーメイト?」
「ああ、巨大化もしてるようだな」

 ホーメイトの後ろには巨大化したキングレッドリザードマンが大勢控えていた。ただの巨大化部屋ではないく、巨大化地獄であるということは明らかであった。

「べリアスか。寝返らせられたようであるな。カリウシはおらぬのか?」
「奴は死んだ」
「そうか。まあよい。わしは赤叡山のダンジョン最高戦力である第四侵攻部隊隊長のホーメイトである。貴様らはすべてダンジョンポイントに変えてやろう」

 ホーメイトは槍を構えた。
 部下もそれに続く。

「ホーメイト自身も相当の実力者だが、部下たちもランクがAの魔物で、しかも訓練を相当積んでるからかなり強い。巨大化してなくても、もしかしたらオイラより強いかもしれねぇ。絶対に気を抜くんじゃねーぞ」

 べリアスが気を引き締めるように言う。

 リックたちと第四侵攻部隊の戦闘が始まった。

 第四侵攻部隊は、ホーメイトを先頭に雄たけびを上げながら、リックたちに突撃する。

 巨大なリザードマンたちが迫りくる姿は大迫力で、リックは恐怖感を抱いた。

「父上、あの一番強そうな奴の相手はわしにやらせてくれんか? 結構楽しめそうじゃ」

 クルスがホーメイトの相手をすると志願してきた。

「わ、分かった任せる」

 許可を得たクルスはホーメイトに向かって、突撃していく。
 凄まじい速度で移動し、ホーメイトの腹部に蹴りを入れた。

 普通の魔物ならその時点で腹に風穴があき、瞬殺されていただろう。
 しかし、

「効かん」

 巨大化状態にあるホーメイトには、ダメージが通っていなかった。

「ほう?」

 百パーセントでは蹴ってはいないといえ、全く効いてない様子をクルスは意外に思った。

 ホーメイトはしばらくクルスに任せて、リックは部下たちの討伐に動いた。

 部下は全部で14体だが巨大化しているため、リックは大軍を相手にするような気持ちになる。

 全員が巨大な鎧と槍を持ち武装している。この巨大化という部屋は、魔物が装備していた道具も魔物のサイズに合うように巨大化されるのだ。

 シロエとギルが強いという事を知っているのだろうか、リザードマンたちは狙いを定めていた。

 それぞれ五体のリザードマンを同時に相手にすることになる。

 部下たちはホーメイトほどの力はないとはいえ、結構手ごわい。

 今まではあっさりと敵を瞬殺してきたシロエとギルも、一撃で敵を倒すことは出来なかった。

 大半の部下たちをシロエとギルたちが相手にしていたが、全員ではなく四体、リックたちほかの魔物で相手をすることになった。

 数の上ではリックたちの方が多いのであるが、かなりの苦戦を強いられる。

 シロエやギルの攻撃で一撃で倒れないというだけあって、非常に防御力が高い。

 エンペラーゴブリンになっているリックは、かなりの身体能力を有しており、攻撃力も高いのだが、それでもほとんど攻撃が通用している感じではない。

 敵は動きも決して遅くなく、何度か攻撃を食らいそうになり、危ない状況にもなった。

 ただやられてばかりではない。
 物理的な攻撃に対する防御力は高いのだが、魔法に対する防御力はあまり高くなかった。

 リックが連れてきたSランクの魔物たちの中にも、魔法が得意な魔物はいる。
 アンデット系の魔物であるリッチキングは、ハイレベルな魔法を放つことが出来た。ほかにもアークデーモンなども魔法が得意である。

 魔法を得意とする魔物たちの活躍で、リザードマンたちを一体ずつ屠っていった。

「あー、面倒っすねー……」

 リザードマンを一撃で倒しきれず、面倒だと思っていたシロエは一度ドラゴンの姿に変身した。

 ドラゴンの姿は巨大化したリザードマンたちを上回る大きさだ。

 流石にこの姿のシロエの攻撃には全く耐えられず、シロエを倒しに行っていたリザードマンたちは殲滅されていく。

「魔法がこいつらには有効なのですね」

 一方ギルは、物理攻撃から魔法攻撃へと攻撃の方法を変えていた。
 通常スライムは魔法など使えないのだが、ギルはなぜか使えた。

 それもリックも目撃したことがないほどの強力な魔法を使用して、リザードマンたちを確実に葬り去る。

 ホーメイトと戦っていたクルスは魔法を覚えていないため普通の接近戦で戦っていた。

 クルスが攻撃の威力を上げると、ホーメイトも流石にノーダメージとはいかない。
 速さの上ではクルスに攻撃を当てることが出来ず、一方的にダメージを受けるということになっていた。

「ぐ………」
「どうした? そんな攻撃では当たらぬぞ?」
「はああああ!!」

 それでも装備している槍を振り回すが、クルスは回避し頭に強力な攻撃を叩きこんだ。

「ぐ…………は……」

 ホーメイトは倒れこみ膝をつく。
 死にはしていないが、これは負けたと悟っていた。

「強いな……巨大化状態でもまるで歯が立たぬとは恐れ入った」
「お主も中々じゃったぞ。久々に楽しめたわい」
「次の階……わしよりも圧倒的に強い魔物がおる。どうなるか見れないのが残念である」
「ほう? お主より強いのか。それはわしも楽しみじゃわい」

 クルスはそれだけ聞き、ホーメイトにとどめを刺した。

 部下のリザードマンたちも殲滅し、リックたちは第四侵攻部隊に勝利を収めた。

「巨大化したホーメイトでも相手にならねーか。やっぱ凄いな」

 ホーメイトを無傷で倒したクルスを見て、ベリアスが呟いた。

「次の階にはもっと強い敵がおるようじゃぞ。楽しみじゃな」
「何? このダンジョンにもうホーメイト以上の魔物は居ないはずだぞ」
「でも、死ぬ間際に言っておったぞ?」
「ホーメイトが?」
「そうじゃ」

 クルスの話を聞き、ベリアスは考え込む。

「どういうことだ? うーん、オイラもダンジョンについて何でも知ってるってわけじゃないからなぁ……何かダンジョン精霊だけは知っている裏技でも使ったのか?」
「用心して先に進む必要がありそうだね」
「ああ」

 リック達は赤叡山のダンジョン十五階に降りた。
 見た目は十四階同様、初期の部屋と同じであった。

「こ、これは……」

 その部屋に降りた瞬間、凄まじい威圧感のようなものをリックは肌で感じた。

 本能的に強い恐怖を感じて、思わず身震いする。

 威圧感を感じたのはリックだけではない。
 Sランクの魔物達も感じており、全員恐怖心を持っているようだ。

 クルス、シロエ、ギルは恐怖心を感じていないようだ。

 だが、何か強力そうな存在がいるということは、感じ取っているようで、クルスは少し笑みを浮かべており、いつも眠そうにしているシロエは珍しく警戒しており、視線が鋭くなっている。
 ギルだけはいつもと、態度は変わっていないようだ。

「何なんだこの感じは……やべぇぞ……」
「部屋は多分巨大化地獄なのかな? で、でもこれは本当に……」

 リックとベリアスが怯えて先に進むのを躊躇っている所で、

「先ほどのリザードマンが言っておったことは、本当じゃったようじゃな。胸が躍るわい」

 クルスが先に進み始める。

 仕方ないのでリック達も一緒に先に進んだ。

 しばらく進む。
 進むに連れて威圧感が増し、恐怖心も強くなってくる。

「来たか」

 と低い声が轟いた。

 リックは声の聞こえた方を見て驚愕した。

 凄まじい大きさの鬼が二体立っていた。
 顔や形は同じであるが、色が赤と青で違っている。

 リックは一眼見ただけで、自分はこいつには勝てないと思い知った。
 次元が違う相手であると感じた。

「わしはモウグ」
「わしはロウグ」

 赤い鬼がモウグ、青い鬼がロウグと名乗った。

「「貴様らはここで終わりだ」」

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Posted by 未来人A