第三十四話 入り口へ
リックたちはダンジョンを出て、赤叡山のダンジョンへと向かっていた。
「外じゃー!!」
クルスは初めてダンジョンの外に出られて、かなり興奮している。
一ヶ月前に作られたばかりのギルは、外への思いは薄かったのか、特に何の反応もしていない。
シロエにいたっては、大きくあくびをして、非常に眠そうにしている。
リックはエンペラーゴブリンの体とはいえ、久しぶりにダンジョンの外に出られて、少しワクワクしていた。
「あ、ここは……」
ダンジョンのすぐ近くに、小さな川があった。
綺麗な水の川である。
リックはそれを見て、ユーリと初めて会った時のことを思い出した。
「そうか、ここからダンジョン生活が始まったんだな……」
もうだいぶ時間は経ったが、この川でユーリを助けるために、契約した時のことは、今も鮮明に覚えている。
ダンジョンに来て色々大変なことはあったが、今は多くの仲間に囲まれて、割と楽しく生きていられている。
勇者パーティーから追放された時の絶望を考えれば、ユーリと出会って良かったと、リックは思っていた。
「何で川を見ておるのじゃ、父上」
クルスの声を聞いて、感慨に耽っていたリックは、我を取り戻した。
「いや、何でもないよ。久しぶりに外に出られて、色々思い出していただけさ。じゃあ、ベリアス、赤叡山まで案内してくれ」
「承知した!」
ベリアスを先頭に、恐ろしい魔物たちの集団が歩き始めた。
歩き出して三分ほど経過して、シロエが寝た。
どうも歩くだけが退屈だったらしく、「ダンジョンに着いたら起こしてくれっす。寝ないとダンジョンで本気出せないっす」と嘘か本当か分からない事を言って、寝始めた。
戦いになっても寝るんじゃないかと、物凄く心配になりながら、道中は別にシロエの力は必要なさそうだったので、寝させたままクルスに担いで運ばせた。
(担がれた状態で、よく気持ちよく寝られるな……)
とリックはシロエに呆れる。
リックは道中、エンペラーゴブリンの体に慣れるため、色んな動きを試していた。
パンチしたりキックしたり、ジャンプをしたり。
最初はうまく制御できなかったが、徐々に動きを自分のものにしていった。
エンペラーゴブリンの体に、慣れれば慣れるほど、元の体に戻った時の事が心配になってきた。
道中、人間や魔物に出くわした。襲ってくるものは倒して、逃げ出したものは、放っておいた。
倒した生物の死体を見て、これをダンジョンに持っていったら、どうなるんだろうとリックは疑問に思う。
DPになるのかどうなのか分からなかった。
帰りに試してみようと思った。
移動を開始して三日目。
「あれが赤叡山だ」
赤叡山が見える場所まで来た。ベリアスが赤叡山を指差す。
赤い岩で出来ている、巨大な山だ。
「大きいねあれ、登るの相当面倒なんじゃないの?」
「まあ、簡単には登れねーな。オイラがいれば何とかなるだろーが」
とベリアスは胸をはる。
「ふわー……」
そこでシロエが目を覚ました。
「よく寝たっす。まだ到着してないっすか?」
「赤叡山の近くまでは来たよ。ほらあれ」
「デカイ山っすねー。もっかい寝るんで、着いたら起こしてっす」
「ま、待って! 流石に赤叡山は自分の足で登ってよ!」
「え、えー。面倒っすよー」
とシロエは顔をしかめる。
「あ、そうっす。わざわざ登る必要ないっすよ」
「え?」
シロエはそう言って、人間体からドラゴン体に変わった。
「これで飛んでいけば余裕っす。この状態なら、デカイし、全員乗せていけるっす」
「た、確かにそうだね……」
連れてきたSランクの魔物は、小さめの魔物を中心に連れてきている。潜入するのに大きいのを連れて行くのは、不便であると思ったためだ。
巨大なドラゴンであるシロエになら、全員乗って飛ぶことも可能だった。
(いや、最初からこれで行けば、もっとあっさり行けたんじゃない?)
リックはそう思ったが、歩く事でゴブリンの体に慣れる事が出来たと、無理矢理納得して、シロエの背に乗った。
全員乗って、シロエは赤叡山の頂上に向かって、飛び始めた。
〇
「あれだ! あれがダンジョンの入り口だ!」
シロエが山の頂上付近まで行った時、ベリアスがそう叫んだ。
穴が山の側面に開いている。シロエはその穴の近くに着地した。
「到着したっす」
「ありがとうシロエ」
リックはシロエにお礼を言い、背から降りた。
ほかの魔物たちも降りる。
「人間になるのめんどくさいっすから、このままでいいっすか? この穴も通ろうと思えば通れそうっすし、戦うときはどうせこれなんで」
「問題ないよ!」
エンシェントドラゴン状態のシロエにも聞こえるように、リックは大声を出して返答した。
「えーと、ベリアス。一度ダンジョン内の構造は行く前に確認したけど、おさらいとしてもう一回説明してくれるかな?」
「分かった」
一度リックは、ベリアスから赤叡山のダンジョンについての細かい情報を聞いていたが、ダンジョンに突入前に最終確認として聞くことにした。
「まず、ダンジョンの階数は全部で十五階、マスタールームを含めて十六階。それぞれのダンジョンのフィールドは、一階が雪原、二階が毒地、三階が迷路、四階が暗闇、五階が巨大化、六階が森、七階が灼熱、八階が鏡路、九階が崖、十階が狂化、十一階が加速、十二階が砦、十三階が城、十四階が結界、十五階が城と墓地だな」
ベリアスは全階がどんなフィールドになっているのか、説明する。
「それぞれのフィールドには、進攻部隊とは別の防衛部隊が守っている。その階の仕掛けを最大限発揮するための訓練を積んでいるから、結構手強い。まあ、それでも九階までなら、このメンバーなら苦もなく進めると思うけど、十階以降は特別強い敵が集まってるから、一筋縄では突破できないかもしれねーな」
「十階からが怖いんだったね。それで進行をする部隊はどこかを守っていると言うわけではなく、ダンジョン精霊からの命令で、効果的な場面で侵入者を襲いに行くんだってね」
「そうだ。侵入者との戦いを見ながら、戦況に応じて進行部隊は防衛を任される。どんな時も油断してはいけない」
ベリアスの注意を受けて、いくらSSランクの魔物が三体もいるからといって、決して油断はしないようリックは肝に命じた。
「それから、オイラが言ったことを全て確実に正しいと思わないでくれ。相手はオイラから情報が漏れている可能性を読んでるだろうから、作戦を変えてるかもしれねーし、フィールドだって変えることが出来るから、変えているかもしれねー」
「それもそうだね。向こうも馬鹿ではないだろうし、少なくともいくつかのフィールドは変えられていると思った方がいいかな」
「まあ、でも最後らへんの、狂化、加速、結界、城と墓地は多分変えてねーと思うぜ。結構レアでそれも強力なフィールドだから、変えることは難しいはずだ」
「分かった」
リックはうなずく。
「それじゃあ皆、準備はいい?」
「大丈夫じゃ」
「いいっす」
「問題ありません」
「オイラはいつでもいいぜ」
クルス、シロエ、ギル、ベリアスが返事をしたあと、ほかの魔物も準備万端だと返答していく。
「よし、じゃあ行こうか!」
一行はダンジョンに突入した。
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