第二十三話 エンシェントドラゴン
エンシェントドラゴン。
遥か昔この世界を支配していたドラゴンである。
エンシェントドラゴン達は支配する事に飽き、ほとんどのドラゴンはどこかに飛び去って行ったとの伝説がある。
エンシェントドラゴン達がどこに行ったのか、知っている人間はいない。
天空の彼方、神の元へ行ったとか、違う世界に行ったとか、色々な説がある。
何体かは飛び去らずこの世界に残った。
現存しているエンシェントドラゴンは全て、SSSランクダンジョンである、龍王山(りゅうおうざん)のダンジョンにいると言われている。
もっとも、中に入って確認した者はいないので、詳しくはわからない。
外に出てきたエンシェントドラゴンを、遠くから目撃したという話が数件あるだけだった。
「私の知っている話はこのくらいなのです。詳しい強さは知らないのですが、とんでもなく強かったという話です。ランクで分けるなら間違いなくSSランクはあるだろうと思います」
「それが本当なら、いい遊び相手になるかもしれんのう」
「僕もエンシェントドラゴンはお話の中でしか聞いた事ないな。本物なんだろうか?」
うーんと首を捻りながら、リックはエンシェントドラゴン? を観察する。
「なんなんすか、あんた達。あたしの事ジロジロ見て。見せもんじゃないっすよ? ほんきで困ってるんすから。どこなんすか此処は、そもそもあたしはなんなんすか」
凛々しい顔に似合わない、子供のような高い声で軽快に喋る、エンシェントドラゴン。
かなり困惑しているようだった。
「えーと僕は君を作ったリックって言うんだけど」
「んー? なんか言ったすか?」
大きさに差がある為、耳までの位置が遠い。
その為、リックの声が聞こえにくくなっているようだ。
「僕が! 君を作った! リックなんだけど!」
大声で言った。
「作ったって、どういう事っすか?」
「合成で! 作った!」
「合成? なんなんすかそれは」
リックはこのまま大声で話続けなければいけないのかと、気が滅入ってきた。
「あの、エンシェントドラゴンなら人化できるはずなのです。そうすれば話しやすくなるのです」
とユーリが提案した。
リックは人化できないかと、エンシェントドラゴンに大声で聞いた。
「人化って、あんた達みたいになれって事っすか? うーん…………できるかもしれないっす」
そう言って目を瞑って何かを唱え始める。
するとエンシェントドラゴンの体から、眩い光りが放たれる。
リック達は眩しくて目を閉じる。
目を開けたら、全裸の女の姿があった。
「!?」
「ぎゃー! なんで裸なのですか!」
「何でって、服なんてないっすからねー」
「ご主人様! 服を作るのです!」
「う、うん!」
リックは目を逸らしながら、カタログで衣服を探し作る。
白色のシンプルなワンピースを作り、それをユーリに渡し、ユーリは人化したエンシェントドラゴンに渡した。
「これ着るんすか」
「早く着るのです!」
「背中に翼あるんすが、どうすれば」
「穴を開ければいいのです!」
「いいんすか。じゃあ開けるっす」
ビリっとワンピースの背中に穴を開けて、そこに翼を通しワンピースを着た。
「ご主人様、見ていいのです」
リックはエンシェントドラゴンを見る。
人化したエンシェントドラゴンは金色の長い髪。背中から白い翼が生えている。
ドラゴン状態では凛々しい顔をしていたが、人化した状態だと、常に目が半開きで、気の抜けたやる気のなさそうな顔をしている。
顔立ち自体は美人なのだが。
「人化したっす。話を聞かせてくれると嬉しいっす」
リックはエンシェントドラゴンを作った経緯を話した。
「はぁー。じゃあ、あんたがあたしを作った親って事なんすか」
「そうなるかもね」
「確かにあんたの言う事には、なんとなく逆らえない感じがするっすね。そっちの精霊とちっこいのは?」
「私はユーリ。ご主人様と契約したダンジョン精霊なのです」
「誰がちっこいのじゃ! わしはクルスじゃ。お主より先に父上に作られた、いわばお主の姉じゃ。敬うがいい」
「はぁー姉っすか……ちっこいのに」
「だからちっこい言うな!」
クルスは小さいのを気にしているみたいで、顔を赤くして怒る。
「名前は覚えったっす。リッくんとユーリンとチビねぇですね」
「何その呼び方」
「愛称っす」
「私、地元の友達にはそう呼ばれてたので、懐かしいのですね」
「ちょっと待てい! わしの呼び方は蔑称じゃろうが! 訂正せい!」
「嫌っすか。じゃあチビ姉様で」
「何でそっちを変えるのかじゃ! チビを変えろというておるのだ!」
「面倒くさいっすねー」
「のう父上、こいつ捻り潰してよいか?」
「だ、駄目だよ。仲良くしてね……」
リックは苦笑いしながらそう言った。
クルスとエンシェントドラゴンは相性が悪いようだ。
「聞きたいんだけど、名前とかあるの?」
「付けられてないなら、あるわけないっすね」
「そ、そうだね。じゃあ僕が付けてあげるよ」
「お願いするっす」
リックはそう言って、名前を何にしようか考える。
と言ってもそんな簡単に思いつかない。
クルスの時はすぐに思い浮かんだが、どうしようかだいぶ悩む。
「ご主人様思いつかないのですか? じゃあ私が代わりに考えるのです。そうですね。白いエンシェントドラゴンなので、シロエちゃんでどうでしょう」
「ええ……? そんな適当な」
「あ、それでいいっすよ」
「ええ!? いいの?」
「これからシロエを名乗るっす。よろしくっす」
エンシェントドラゴンの名前はシロエに決まった。
「じゃあ、あたしは眠いんで寝ます」
「え? 寝るの?」
「眠い時は寝ないといけないっすね。なんかあったら起こすっす。ふわー」
シロエは大きなあくびをして眠りに着いた。
床に直接寝ているのだが、健やかな表情で眠っている。
「ぐーぐー」
「えー本当に寝ちゃったよ」
「この子大丈夫なのでしょうか?」
「強いのは間違い無いと思うのじゃがな。いい遊び相手ができたと思うたのに残念じゃ」
若干不安だが、新しいSSランクの魔物。
エンシェントドラゴンのシロエが、ダンジョンの仲間に加わった。
「さて気を取り直して、ダンジョン強化を続けようか」
「ええ、そうするのです」
リックとユーリはダンジョン強化を続けようとした。
ちょうどその時。
「父上、母上、ダンジョンに何かが入ってきたぞ」
「え!?」
クルスがそう言ったので、リックは慌てて監視玉を見る。
監視玉にはダンジョンの入り口が映されている。
そこに全身黒ずくめの人型の生物がいた。
人間では無いように見えるが、何かは分からない。
その生物が地面に何かを置いた瞬間、ダンジョンから速攻で脱出して行った。
「出てったのです」
「なんだった今の」
「なんか置いて行ったみたいじゃ、確認してこよう」
「あ」
止める間もなく、クルスはそう言って確認しに行った。
しばらくして戻ってくる。
「あの黒いのは、これを置いていったようじゃ」
「何それ?」
「手紙……なのです」
クルスの手には、少し汚れた手紙があった。
「父上。読むか?」
「うん」
リックは中身を読んだ。
「えーと、なになに? そなた達のダンジョンは勇者を倒すほど強いダンジョンであるとわかった。我が赤叡山(せきえいざん)のダンジョンはそなたのダンジョンと契約を結ぶことを望む。どう言う事?」
「契約なのですか……もう一枚紙がないですか?」
「え? ……あ、二枚重ねになってた」
紙は一枚でじゃなくて、二枚だったようだ。
リックは紙をめくりもう一枚の方も見て見る。
「えーと? 契約書って書いてある」
「やはり……ですか」
「何なのこれ」
「契約書を作ることで、他のダンジョンマスターと契約する事が出来るようになるのです。
作れるようになるのはCランクからなのです。
ダンジョンマスターどうしで、何かを差し出し合うことで契約は成立するのです。
紙を見るのです。右の方に自らの差し出す条件。左に相手に求める条件が書いてあるのです。この契約書では、相手が作って持って来たので、左が私達に差し出して欲しい条件、右が相手が差し出す条件になるのです。
両ダンジョンマスターの血の印が入れば契約は成立するのです。この紙には既に相手側のダンジョンマスターの印が入っているようなのです」
紙の右上に、血が滲んでいる。
これが契約書を送ってきた、ダンジョンマスターの血だろう。
「えーと、右側には……不戦って書いてある。左側には……不戦と週のDP収入の20%って書いてある」
「はぁーなるほどなのです。簡単に言えば、攻めないでやるから、週20%のDPを寄越せと言ってきてるのです。不戦を条件として差し出せば、何があってもそのダンジョンに攻撃することができなくなります」
「ええー何それ?」
「何じゃその要求は。飲むわけなかろう。無視じゃ無視」
「うーんしかし、赤叡山のダンジョンと言えば、Sランクのダンジョンなのです。さらに言えばSランクの中でも上位の実力があるとされているダンジョンなのです。放っておくのは面倒になると思うのですよ」
ユーリは忠告するように言った。
Sランクダンジョンの中でも実力が上の方とされているダンジョンには、SSランクに近いほどの強さを持った魔物がいると言われていた。
「それは、このダンジョンを攻撃してくるって事? それってメリットあるのかな?」
外で魔物を殺してもDP収入にはならないだろうし、高ランクの魔物をダンジョンまで生け捕りにして、連れて行くのも中々難しいのでは? とリックは思った。
ダンジョンの外に魔物を出すのには、DPが必要なので、マイナスになる可能性すらあるのでは? とリックは思った。
「一度ダンジョンをほぼ完全に攻略した後、ダンジョンマスターを脅してこれよりひどい条件で契約を結ばせる事もあるのです。それと、他のダンジョンのダンジョン精霊を捕まえて、それを自分のダンジョンに連れて行けば、稼いでいた累計DPの半分のDPが手に入るようになっているのです」
「累計DPの半分? それは大きいな。じゃあ多少のリスクは承知で、攻めてくる事もあるのか?」
「そうなのですね……ただ累計の半分と言っても、Sランクダンジョンからすればそれほど、多いDP数ではないのです。
基本的にダンジョンは見つかりにくい場所にあるので、Sランクダンジョンが、わざわざ探してまで低ランクダンジョンに攻撃することはないのですが、このダンジョンは分かりやすい位置にあるのです。
既に位置を知られてしまっているので、この契約に乗らなければ攻撃される可能性は大です。
最終的に契約を結んだ方がメリットがあるので、恐らく滅ぼされるのでなく、脅して契約を結ばされる事になると思うのです」
どっちにしろリックは嫌だなと思う。
「まーでも、うちにはクルスと、一応シロエもいるし。大丈夫でしょ?」
「そうなのじゃ!」
「ぐーぐー」
クルスは元気よく返事をしたが、シロエは相変わらずぐーぐーと眠っている。
リックは微妙に不安になる。
「まあ、私もこれは無視していいと思うのです。破り捨てるのです」
ユーリがそう言った。
リックは躊躇なく、契約書を破り捨てた。
「じゃあ、ダンジョンの拡張とフィールドチェンジ。してみようかー」
気を取り直してリック達は、ダンジョン強化を始めた。
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