第二十一話 決着
リックがアレンに殺される寸前、クルスが間に合い攻撃を止めた。
「クルスちゃん! 来てくれたのです!」
「僕は信じてたよ」
ユーリはほっとしたように言い、リックは軽く頷きながらそう言った。
「すまんのう。少し遅れてしまったのじゃ。もうちょっと経ったら、危なかったようじゃのう」
「てめぇは……! ドーマ達が足止めしていたはずだ!」
「ドーマとはあの眼鏡か。あの者が作った牢は手ごわかったのじゃ。破ることはできなんだ。外の魔物達が殺してくれなければ間に合っておらんかったな」
「っち……ドーマ達は死んだって事か……」
舌打ちをしながら、アレンは一旦後ろに下がる。
「父上、こやつは殺してしまっても構わんのじゃろ?」
「うん」
「じゃあやるかの」
そう言った後、クルスは予備動作なく瞬時に動き出し、アレンの背後に回り背中を思い切り蹴ろうとする。
完全に不意を突いたと思ったが、アレンは反応して振り返る。
そしてクルスの蹴りを受け止めるのではなく、受け流した。
攻撃を逸らされ僅かに体勢を崩すクルス。
その隙を狙ってアレンは素早く剣を振り攻撃する。その攻撃をクルスはあっさりと回避した。
「お主、やるのう。今のに反応するとはのうー」
「ふん。貴様は自分の動きは、誰にも見えないと思っているかもしれないが、俺には少しは見えるんだよ。見えさえすれば反応するには容易い」
「そうかのう」
もう一度クルスが攻撃を仕掛ける。
再び同じように攻撃を受け流した。
「てめぇの攻撃を馬鹿正直に受ける気はねぇ。受け流してしまえば問題ない」
アレンは余裕そうに言った。
表面上余裕そうだが、実際はどうすればいいか焦っていた。
攻撃を受け流す事は何とかできるが、自分から攻撃を当てることは出来ない。
このままではジリ貧だと、アレンは焦る。
「このスピードでは殺せぬのか。じゃあ、これはどうじゃ?」
クルスはそう言った瞬間、正面からアレンの顔を殴りにかかる。
アレンが攻撃に反応し受け流そうとする直前、クルスは殴るのをやめ右からアレンの背後に回り込んだ。
そして、背後からアレンの後頭部に殴りかかった。
「ぐあっ!!」
反応しきれず攻撃を食らったアレンは、うつ伏せで地面に倒れ込む。
手を緩めずクルスは追撃を加える。
アレンの腹部を思いっきり蹴る。
轟音が響き、鎧が破壊され、凄まじい勢いでアレンは吹き飛んで行き、壁に激突した。
「ぐ…………」
アレンは苦痛から呻き声を上げている。
死んではいないようだったが、大ダメージを受けたようで痛みにもがき苦しんでいる。
立ち上がろうと必死に力を入れている。
「死んでおらぬのか、わしも攻撃力は少し課題かもな」
クルスは余裕そうに言う。
「ぬ。これは」
地面に何かが落ちていることにクルスは気づく。
それは先ほどまでアレンが持っていた剣だった。
吹き飛ばされた時、アレンは剣を落としてしまったようだ。
クルスは剣を拾い上げる。
「なかなか良さそうな剣じゃな」
「か……返しやがれ……!」
何とか立ち上がりながら、アレンはそう叫んだ。
アレンは立っているだけで、精いっぱいというような様子だ。
「そうじゃの。ほら」
クルスは剣をひょいっと、アレンの前に投げやった。
「武器も何も持たんものを一方的に殺すのも、何だか気がひけるしのう。まあお主がそれを持とうが持つまいが何も変わらんのじゃがな」
見下しているわけではなく、ただ淡々と事実を告げるようにクルスは言った。
アレンはクルスの言葉に強くプライドを傷つけられる。
しかし、クルスの言葉は間違いなく事実であった。
この状態からアレンが勝つ可能性はゼロだった。
歯を噛み締めながら、アレンはクルスを見つめる。
そこでアレンは一つ、ある事を思い出した。
「はぁ……はぁ……そうだ……あの能力(ちから)……」
「なんじゃ?」
「ピンチになったら強くなる能力(ちから)……今ここであれが発動するんだ……」
「お主そんな力を持っておったのか?」
「そうだ……間違いない……こんな所で……こんな所で勇者であるこの俺が死ぬはずがないんだ……」
息絶え絶えながらも、アレンは笑みを浮かべながら言う。
何かに取り憑かれたような目をしていた。
「え? アレンその能力(ちから)って……」
アレンの言葉を聞いたリックは、戸惑う。
「あれは僕のゴールデンポーションを飲んだから、発現したスキルだったでしょ」
「何?」
リックの言葉を聞いてアレンは眉をひそめる。
「いや、ゴールデンポーションを飲んだら、人によってはスキルが使えるようになるって言ったと思うけど。今のアレンじゃ使えないよ」
「馬鹿を言うな。そもそもゴールデンポーションなら現在も飲んでいる」
「それドーマが作った物でしょ? ゴールデンポーションも作る人によって微妙に違いがあるから、僕の作ったのじゃないと駄目だと思うけど」
「なんだと?」
「あれ? 言ってたと思うけど、それを加味して僕よりドーマの方がいいと思って、追放したんだと思っていたけど、違ったの?」
「ふざけるな!! そんな話聞いてないし、お前ごときがあの力を引き出していたなどそんな事は断じてありえん!!」
アレンは怒鳴り否定する。
リックは言ってなかったかなぁ〜? と過去の記憶を掘り起こす。
リックの記憶では確かにアレンの能力(ちから)が初めて発動したその日、ゴールデンポーションについて説明をした覚えがあった。
実際は、アレンは当時からリックの事を気に入っておらず、リックの話はほとんど聞き流していた。
能力が初めて発動した日ということもあり、興奮して他の事に気が回らなくなっていたため、さらにリックから言われた内容が頭の中に入っていなかった。
「なんか行き違いあったみたいだけど、僕のゴールデンポーションのおかげだったのは事実だからなぁ」
リックの言葉を聞いたアレンは怒りに眉間に皺を寄せる。
「これ以上……これ以上戯言を言うな……お前は自分がいなくなったから、俺が弱くなったと言いたいんだろ……い、いいか? お前程度の雑魚がいなくなったから俺が弱くなるなんて……そんな事……」
アレンは剣を構える。
「そんな事、何があってもありえねぇんだよ!!」
アレンは絶叫しながら、リックに向かって剣を振りかぶりながら全力疾走した。
しかし、アレンの剣がリックに届くことは無かった。
クルスがすぐ反応して、アレンの顔を思い切りぶん殴った。
「ぐはっ!!!」
衝撃でアレンは吹き飛ぶ。
暫くして止まり、アレンはうつ伏せで倒れこむ。
アレンはピクピクと身体を痙攣させながら、倒れこみ続けている。
死んではいないようだが、意識を失っているようで、もう起き上がれそうには無かった。
「何だか可哀想だなぁ」
アレンの様子を見て哀れむようにリックは言った。
「可哀想ならどうするのじゃ? 殺さぬのか?」
「うーん」
「勇者は強いのでかなりのDPになると思うのです。ここで殺さないのは大分損失があると思うのですが、ご主人様が殺したく無いのなら、殺さなくていいと思うのです。ただもう二度と戦えないように、腕の一本くらいは貰った方がいいと思うのですが」
リックは少し考えるが、確かに可哀想だけどDPたくさん貰えるなら殺した方がいいか〜と言う風にしか思えない。
そう考えたその時、
「あ」
アレンがダンジョンに吸収された。
どうやら辛うじて意識はあったが、数秒経ったら死ぬと言う状態だったらしい。
「死んだようなのですね。まあこれにて一件落着なのです」
「とりあえず、父上を守れてよかったのじゃ」
この日勇者アレンは死に、勇者パーティーは壊滅した。
スポンサーリンク