第二話 ダンジョン精霊との出会い
アルラージの街、昼。
勇者パーティーが拠点としているこの街だが、
人は少ない方で、あまり発展していない。
「はぁ……」
その街の中を、リックは大きなため息をつきながら、とぼとぼと歩いていた。
「くそー僕がいったいどれだけ、貢献してきたと思っているんだ……」
恨み節をぶつぶつと呟く。
リックが勇者のパーティーに居た年数は長い。
パーティーメンバーが6人いた中で3番目の古株だった。
それがこんなにあっさり切られるとは夢にも思っていなかったのである。
これからどうしようか……
勇者に復讐でもしたい所だけど、
勝てるわけがないよな……
悔しいけど追放されたのは黙って受け入れるしかないな。
リックは復讐は諦めて現実的に何をすべきか考え始めた。
まずリックは基本アトリエにこもって研究していたため、
街に親しい人物はいない。
いくらか金は持っているが、
すぐに使い果たしてしまいそうなほどだ。
リックは何をするべきか考えるが、結局一つしかない。
錬金術。
リックには錬金術しかなかった。
本格的な調合物はアトリエがないと作れないが、
簡単な物なら今ある道具で十分作れる。
(まずは簡単なポーションでも作って、お金を稼ぐか)
リックはそう決めた。
まずはお金を稼いで、自分でアトリエを買って、前までのように、
研究に没頭できるような環境を作るんだ。
リックは決心して歩き出した。
追放されて落ち込んだが、
早く立ち直る事が出来た。
前向きな所がリックの美徳だった。
(取り敢えず近くの森で材料を集めよう。あそこなら大した魔物もいないし、一人でも大丈夫だ)
リックは森へ向かった。
◯
「よし、この辺だな」
樹木が生い茂る森の中、
木漏れ日が地面に光の斑点を作り出している。
ここら辺は野草が生えていて、
一見ただの草だが、これは薬草で、
低級の回復ポーションの材料となる。
これらを採取してポーションを作ればそれなりの稼ぎになる。
追い出されたと言っても、
勇者のパーティーにいた男、
調合はそんじゃそこらの錬金術師には負けないという自負があった。
「よーし! 採るぞ!」
掛け声をあげて採取を開始する。
一時間ほどが経過。
夢中で採取していたためリックは少し森の奥に来ていた。
川のせせらぎが聞こえてきた。
どうやら近辺に川があるみたいだ。
(そう言えば、ここの川は水が綺麗だったな)
ポーション調合には水が欠かせない。
水が綺麗であれば品質も上がる。
リックは水を汲むため、川の方に向かう。
リックは川に着いた。
川の水は魚が泳いでいるのをはっきりと視認できる程、澄み渡っている。
水を採取するため川に向かって歩くリックの目に、驚くべき光景が飛び込んで来た。
女の人が半身を川の水に浸からせたまま、仰向けに倒れているのである。
「!!?」
リックは驚いて声も上げられない。
一瞬どうするべきか考えるが、
取り敢えず安否確認だと思い。
女性に近づいた。
水色の長髪、男なら誰もが目を奪われるだろう綺麗な顔。
うっすらと開けられた目は透き通るような水色だ。
非常にスタイルがよく胸も大きい。
際どい衣装を着ていて、水に濡れてさらに際どいことになっているが、
リックは慌てているため、気付かない。
「誰かいるんですか~? 助けてくださいなのです~お願いなのです~……」
か細い声が聞こえる。
どうやら女性は生きているみたいだ。
しかし助けてくれと言っている為、安心は出来ない
「あの大丈夫ですか? 何かあったんですか?」
リックはしゃがみ込み女性に話しかける。
少し落ち着いて余裕が出来たためか、
女性の際どい衣装を見てリックはドキッとする。
何とか取り繕い、なるべく体の方は見ないようにする。
「あ……ほんとに誰かいた……あれ? 人間の方ですか?」
「え? あ、はい」
リックは何だか妙な言い方に戸惑う。
しかし、よく女性を見るとその言い方に合点が行く。
背中から羽が生えている。
半透明の緑色の羽でよく見ないと分からないが、確かに生えている。
ほとんど人間に近い容姿だが、半透明の羽を持っている種族、
リックの知った限りそれは、
(人間じゃなくて精霊だ。何の精霊かは分からないけど)
精霊とは自然物から発生した化身のようなものである。
何の精霊かは分からないが、
だいたい森にいるのは、木の精霊、川の近くに居るので水の精霊などが推測される。
「私はユーリと言うのです……お願いです人間さん。私はこのままだと死んでしまうのです。助けてくださいなのです……」
ユーリと名乗った精霊は、苦しそうな顔をリックの方に向けて懇願してきた。
「死んでしまう!? それは大変だ!」
お人よしのリックは、
罠ではないかと疑う事など一切せずに、ユーリの言うことを信じた。
「私はダンジョン精霊なのですが……」
(ダンジョン精霊って確か……)
リックは昔、聞いた話を思い出す。
ダンジョン精霊は、
各地にあるダンジョンを、作り出している存在だったはずだ。
人間にとってはあまり良い存在ではない
しかしこんなに苦しそうにしている女の子を、見捨てたくはないと思ったリックは、
ユーリの話を引き続き聞くことにした。
「この……このままだと死んでしまうのです……」
それはさっき聞いたと思うが口には出さない。
するとユーリは少し体を起こし。
「だから私と契約してください!」
いきなりそんな事を言ってきた。
「契約?」
リックは聞き返した。
リックには精霊は他の生物と契約することがあるみたいな、あやふやな知識はある。
それが何を意味するかなどは知らなかった。
「私と契約してダンジョンマスターになる人物が現れないと、もうすぐ死んでしまうのです! お願いなのです! 人助けだと思って!」
ユーリは縋るようにリックに向かってそう言った。
必死な表情で目にはうるうると涙が浮かんでいる。
リックは少し困りながら。
「ダンジョンマスターって……」
そう呟いた。
ダンジョンマスターってのはダンジョンのラスボスみたいな存在の?
正直断りたいけど、もうすぐ死ぬって言われると……
断りづらいなぁ……うーん
リックは受けるべきかうーんうーんと悩むが、
結論を出した。
「うん、分かった契約するよ。放って置けないしね」
「駄目なのは分かっているのです! でもどうしても……ってえ? 今、何て言ったのですか?」
「契約するって……」
「マジなのですか?」
「マジだけど」
死ぬとまで言っている少女を放っておけないリックは、
契約することにした。
「本当に契約してくれるのですか? こんな急に言われて……」
「でも契約しないと死んじゃうでしょ? それは可哀想だよ。で、どうすれば契約ってできるの?」
「け……」
「け?」
「契約成立なのです!」
「ええ!?」
「双方が契約に合意した。これはもう契約成立と言っていいのです!」
ユーリがそう言った後。
リックの足元に大きな穴が開いた。
「うわ!? ええええ!? わあああああああああ!」
リックは悲鳴を上げながら、穴に真っ逆さまに落ちていった。
○
「わああああああああああああああああああ!」
リックは体感的に20秒くらいの時間、落ち続けた。
地面に落ちる直前で急激に減速し、
無傷で着地した。
「な、何なんだ一体……」
リックは混乱しながら辺りをキョロキョロと見回す。
リックがいる場所は、
薄暗い、土の壁と床で出来た広い部屋だった。
広い部屋なのだが何も置いていない。
リックは部屋の真ん中で一人ポツンと座り込んでいた。
『ダンジョン完成したのです!』
ユーリの声が部屋に木霊する。
先程まで消え入りそうだった声が打って変わって、
非常に元気そうな声だった。
「えーとユーリ……さん? 何処にいるの?」
『あ、ちょっと待つのです!』
そう言った後、リックの目の前がピカっと光り、
そこからユーリが現れた。
「お待たせしたのです! ご主人様のユーリです! ご主人様! 私の事を呼ぶ時さん付けなどせず! 呼び捨てにするのです!」
「はぁ……ご主人様……って僕の事?」
「はい、ご主人様です。リック・エルロード様です!」
「僕、名前言った?」
「言ってないのです。契約した時に分かるようになっているのです」
「そうなんだ」
リックは改めてユーリを見る。
美少女なのは相変わらずだが、
先程の弱っている印象は完全に消え、
活発で元気な女の子という印象を受ける。
背中の羽も少し大きくなっている。
相変わらず際どい服で目のやり場には困っていた。
「ご主人様……本当に本当に契約してくださってありがとうなのです……」
ユーリはリックを見つめながらお礼を言った。
目からは涙が零れ落ちている。
「わわわ、どうしたの」
リックは涙を流すユーリを見て慌てる。
「あ、ごめんなさいなのです。今までの苦労を思い出したら泣けて来て……」
「苦労してたんだ……」
「はい……ダンジョン精霊は誕生してから10年以内に契約をしないと弱って死んでしまうのです。9年間後で探すと思って遊び呆けてたら、残り1年になって……必死で探したけど見つからなくて……もうダメかと思った時ご主人様が契約してくれて……」
「そ、それは大変だったね」
半分以上。自業自得のような気もすると思ったが、
それは言わなかった。
「私ご主人様に一生何があっても付き添うのです!」
「ええ!?」
「ご主人様の命令なら何でも聞くのです! だからご主人様も私を一生側に置いてください!」
(なんかとんでもない事、言い出したこの子……)
リックは、まるでプロポーズしているような言葉に困惑する。
顔は文句なしに可愛いけどあったばかりだし……などと考えて、狼狽えている。
女に縁のなかったリックはどうすればいいか迷い。
話を逸らすため。
取り敢えず現在の状況で、
分からないことが山ほどあるので、
それを聞くことにした。
「あの、ダンジョンマスターになったのかな? 僕は? イマイチ状況が分かってないので説明して欲しいんだけど」
「はい! ダンジョンマスターの事ですね! 懇切丁寧に説明させていただくのです!」
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