第十八話 vs勇者パーティー③
「ビクターさんちょっといいですか?」
移動している最中、ドーマは真後ろにいるビクターに声をかけた。
「なんだ?」
「アレンさんの事です。ゴールデンポーションを要求してきたり、少しピリピリしていたり、強敵が近くにいるとアレンさんはこんな感じになりますよね」
「そうだが……お前そこまで付き合い長くないのに、よく気付いてるな」
「人間観察は得意ですから。アレンさんをピリピリさせるほどの魔物がこの階にいるのなら、少し厄介な事になります。ビクターさんこのポーションを一応飲んで置いてください」
ドーマはリュックから,黒い液体の入ったポーションを取り出して、ビクターに渡した。
「これは……防御力上昇ポーションか」
「そうです。飲んでください」
「ああ、分かった」
ビクターはゴクゴクとポーションを飲み干す。
「もう一ついいですか? 今回は後ろにいるビクターさんではなく、真ん中にいる僕やリーツさんエーリンさんが狙われる可能性が高いと、僕は思っています」
「どうしてだ? 前は後ろを狙ってきてたぞ?」
「前は立地上、一番後ろを狙うのがよかったんでしょうけど、今回はそうでもないですからね。ビクターさんは見るからに防御力が高そうなので、他の者が狙われる可能性が高いと思います」
「魔物がそこまで考えるもんか?」
「魔物でも知能が高い者は高いですよ。ダンジョンマスターになるようなのは、特に高いです」
「うーん……まあ分かった」
「お願いします」
会話が終わった少し後。
戦闘を歩くアレンが、いきなり歩を止めた。
「来るぞ」
アレンがそう言った後、5匹の魔物がパーティーを囲むように出現した。
「ふん、こいつらは雑魚だな」
そう言いながらアレンは剣を構えるが、無闇に突撃せず相手の出方を伺っている。かなり警戒していた。
オーガが一匹飛び出して、アレンを攻撃する。
アレンはあっさりとオーガを倒すがそれと同時。
パーティーの右側から、黒い何かがとてつもないスピードで突っ込んできた。
狙いはエーリン。あまりの速さにほとんどのパーティーメンバーは反応できないでいたが、唯一ビクターだけが反応できていた。
ビクターは腕をクロスさせながらエーリンの前に立ちふさがり、襲撃者の攻撃を受け止める。ビクターの腕に攻撃が直撃し轟音が鳴り響いた。
「ぐっ……!!」
「ぬ!」
ビクターは攻撃を受け止める。強烈な衝撃が発生したが、死ぬほどのダメージは受けなかった。
猛スピードで移動していたため、まともに姿を確認できなかった襲撃者の姿が判明する。
黒いドレスを着た少女クルスだった。
「ぬう……おぬし中々強いのう」
「な……こいつ」
ビクターは力を込めて、クルスを押しのけようとするが、あまりの力強さに押されぎみになる。
「ビクター!」
アレンがビクターを助けに行こうとする。
ちょうどそのタイミングで、パーティーを囲んでいた魔物達が、一斉に飛び掛ってきた。
「トニー! エーリン! リーツ! お前らは雑魚を倒せ!」
「分かった!」
アレンは瞬時に指示して、ビクターの救援に行く。両手で剣を握りながら走り、目にも止まらぬスピードの突きをクルスの顔に向かって放った。
「ぬお!」
クルスは素早く後ろに下がって攻撃をかわす。完全にはかわしきれず頬に傷が付いたが、瞬時に傷は塞がった。
「助かったアレン」
「…………」
ビクターにお礼を言われるが、アレンは黙ったままクルスを睨みつけている。
「お主ら中々やるのう」
「っち」
アレンは舌打ちをする。今の突きは確実に仕留めるために手加減無しで放ったが、あっさりと回避された。
アレンは今までこの技をかわされた記憶は無かった。
少なくとも今まで対峙した事のある敵の中では、最も速い敵であった。
「傷が即効で治りましたね……そしてこの強さ……もしかして真祖(トゥルーヴァンパイア)ですかね……?」
ドーマがそう呟きながら、地面を手でいじっている。すると地面がゴゴゴゴゴゴ、と音を立てながら土が盛り上がって行き。全身に複雑な模様が描かれた巨大なゴーレムが出現した。
「本当に真祖なら、こういう小細工もあまり意味がないかもしれませんがね」
ドーマがそのゴーレムを出した瞬間。
「ぬ? ここで引けじゃと?」
クルスが呟いた。
「父上がそう言うなら仕方ないのじゃ」
クルスはタンっと地面をひと蹴りして、勇者パーティーから離れて行った。
何故去ったのか分からないアレン、ドーマ、ビクターはしばらく呆然としていた。
◯
「だいたいわかった」
リックは監視玉を見ながらそう言った。リックは先ほどまでのクルスとアレン達の戦いと、トニーと魔物達の戦いを見ていた。
ちなみに魔物達はトニー達に倒されていた。
「ちょっとしか戦ってないけど、わかるものなのですか?」
「だいたいね。魔物達と戦ってた人達は、女の人は回復魔導師で、少年みたいな方はアサシンとかシーフとかかな。この二人はそこまで戦闘力があるようには思えない、でももう一人の男はかなり強いね。さっきの戦闘で、この人だけは強さの底が見えなかった。要注意だね」
「なるほど。あの人間が強いのですね」
「それとアレンとビクターはやっぱり強い。クルスでも簡単には倒せないか。僕が一番知りたかったのはドーマの実力だ。僕の代わりに勇者パーティーに入るくらいだから、レベルの高い錬金術師だと思ってはいたけど予想通りみたいだ。ルーンゴーレムを作成するなんて」
「ルーンゴーレムってのはさっきの奴なのです?」
「そうだよ。かなり作るのが難しい特殊なゴーレムなんだ。ルーン文字って言って、無詠唱で魔法を使うのに必要な文字が、体表にかかれているゴーレムなんだけど。強さ自体は普通のゴーレムと一緒だけど、倒したら体表に書かれている魔法が、倒した者にかかるという罠が仕掛けられてるんだ。あれは多分弱体化の魔法のルーンかな? でも少しアレンジが掛けられていた気がする。下手に掛けられたまずそうだから一旦引かせたわけだけど……」
リックは口元に手を当て考える。
「うーんそうだなぁ……このパーティーを楽に倒すのは、アレンを倒すことが重要だとは思うんだよ。リーダーの欠いたパーティーはうまく連携が取れなくなって、瓦解する可能性が高いからね。確実にアレンを仕留めれるような作戦を、考える必要があるな」
「どうするのですか?」
「さっきの襲撃で、相手は警戒して少し速度を緩めるだろうから、少し時間に余裕ができるわけだ。時間ができるとゴールデンポーションが作れる。6つほど作れて元々2階にはゴールデンポーションが1つあったから全部で7つある。7匹の魔物にゴールデンポーションを飲ませて一斉に襲撃させる。それでアレンをどうにかして孤立させて、アレンはクルス単体で倒す。これで行こうか、具体的にどうやって孤立させるかだけど……うーん、ごり押しで行くか、策を練るか。策を練るならどんな策を……」
リックはゴールデンポーションを作りながら、アレンを倒す策を考え出した。
〇
「作戦会議をしませんか?」
ドーマがパーティーの皆を集めてそう言った。
特に意義は無いようで、集まり輪になって話し合いを始めた。
「あれはなんだったんだ?」
アレンがそう言った。
「僕の予想では真祖(トゥルーヴァンパイア)ですが、まあ正確には分かりませんね。ただ物凄く強い魔物だというのは確かです」
「真祖ってSSランクの魔物よね……勝てるの?」
「先程戦った感じでは、正攻法で戦った場合、勝ち目は無いと感じました」
「え? 勝ち目ないって全く無いの?」
「アレンさんが本気で放った突きをあっさりと回避したり、とにかく今まで見たことないくらいのスピードを持った敵でした。その上ビクターさんを上回るほどのパワー。それだけの力を発揮しておきながら、僕の目には本気で戦っているようには見えなかった。その実力を持った上で、高い治癒能力を持っている。僕は正攻法では勝ち目は無いと予想します。アレンさんはどう思いますか?」
「勝てないだろう」
アレンは即答した。
「ええ!? あんたさっきまで偉そうな顔して、俺一人でもいけるとか言ってたじゃん!」
エーリンが驚きながら、つっこんだ。
「あんなのがいるとは誰も思わんだろ。SSランクの魔物はいずれ倒せるようになるつもりだが、今は無理だ。あの能力が発動すれば倒せるかもしれんが、あてにならんしな」
「倒せないならどうするのさ?」
「知らん」
「知らんって……」
エーリンは絶句する。
「ちょっと疑問なんだが、そんなに勝てない相手なら何故あの魔物は引いて行ったんだ?」
トニーが質問する。
「何かから指示を受けて引いていったような感じでした。ダンジョンマスターから指示を受け引いたのでしょう。僕がルーンゴーレムを出した後、引いていったように見えたので、このダンジョンのマスターはかなり慎重な性格なのか、錬金術に関する知識があるのか、どちらかだと推測できます。
正直さっき奇襲してきた時、引かずに全滅させる気でこられたら、僕らは今頃全滅してたと思いますよ」
「錬金術の知識があるといったが、魔物が知ってるものか?」
「ルーンゴーレムはかなり高位のものしか使えない錬金術ですからね……知識があるのではなくて、昔使われたから警戒したとかの可能性もあります」
「それで、さっきドーマは正攻法では倒せないと言ったが、正攻法じゃない方法なら倒せるって事か?」
「どうでしょうね……足止めくらいなら可能かもしれませんが倒すのは難しいと思いますね。仮にあれが真祖だったら倒すのはまず不可能です」
「でも真祖だって決まってるわけじゃないでしょ?」
「真祖じゃ無かったら、正体不明のSSランク級の力を持った魔物と言うことになります。それもそれでかなり厄介です。何してくるのか予測がつきません」
「そ、そうね……」
「何とか足止めをしている間に逃げるってのが、一番いい策ですかね……」
「逃げる? 馬鹿を言うな逃げられるか、このダンジョンを潰さないと俺は勇者じゃなくなるんだぞ?」
逃げることを提案するドーマに、アレンが真っ向から反論する。
「アレンさんそんな事、言っている場合じゃないですよ。逃げないでどうするんですか? 倒せないことはあなたもわかってるでしょう?」
「何もダンジョンを潰すのにあれを倒す必要は無い。ダンジョンマスターを倒せばダンジョン内の魔物は消滅する。あれを足止めしている間にダンジョンマスターを殺せばいい」
「不可能ですよ。そこまで長い足止めはできません。ここは2階なので、ダンジョンマスターがいる階まではまだ先は長いでしょう」
「それは間違っている。まだ先が長いならこんな所にSSランクの魔物が出るか? 基本的に下に行けば下に行くほど魔物は強くなっていく。侵入者を弱らせて確実に仕留めるためだ。このダンジョンのマスターが慎重な性格なら、なおさら浅い階に最強の魔物を置く選択はしないはずだ。このダンジョン自体がかなり浅いと考えるとつじつまが合う」
「……真祖がこのダンジョン最強の魔物で無い可能性は?」
「仮にそうだったら、俺達は逃げられんだろうな」
「…………」
ドーマはアレンの言うことも一理あると思って考えを張り巡らせる。
「確かに倒せる可能性もあるかもしれませんが、やはりここは逃げるのが一番の選択ですよ。不確定な要素が多すぎる」
「俺からもちょっといいか?」
トニーが手を上げて意見を言おうとする。ドーマは「どうぞ」と意見を言うように促した。
「あの真祖もそうだが、ここには出来て間もないダンジョンとは考えられないほど、ランクの高い魔物が大勢いる。俺の予想ではこのダンジョンには、強い魔物を生み出す何かがある。あの真祖がこのダンジョンにいるのも必然的な事なのかもしれない。そう考えるとこのダンジョンを潰さず放っておくと、SSランクの魔物が大量に発生して、人類では攻略不可能なSSランクのダンジョンにまで短期間で成長するかもしれない」
「そ、それは大変な事よね。こんな町の近くにSSランクのダンジョンって……」
「そうさせない為にも、可能性があるなら出来る限り早いうちに潰した方がいい」
トニーは熱心に語る。
聞いていたパーティーメンバーも真剣な表情で聞いていた。
「た、確かにそれはそうですが……一旦帰って対策を考えてから、もう一回攻略しに行けば……」
「真祖の対策が簡単に出来るか? その間にさらにダンジョンの難易度を上げられたらどうする」
ドーマはやはり帰るべきと主張するが、アレンに反論され言葉につまる。
「このパーティーのリーダーは俺だ。俺が全てを決定する。このダンジョンからは逃げない。ドーマはこのダンジョンを攻略する方法を考えるのに頭を使え。これは命令だ」
「……はぁ分かりましたよ。正直この決断をするという事は半分以上死んだようなもんですよ?」
「俺は勇者だ。こんな所では死なん」
自信満々に言うアレンを、ドーマは呆れた顔で見る。
「何を根拠に言ってんだか。えー作戦ですが、真祖を足止めしている間にダンジョンマスターを討つ。問題はその方法ですね。最初に役割分担を決めましょう」
「俺はダンジョンマスターを討ちに行く」
即効でアレンが言った。
「アレンさんはそれがいいでしょう。僕は足止め係です」
「俺も足止めだな」
「あ、ビクターさんはアレンさんと一緒に行ってください」
「なぜだ? 足止めとか得意だぜ?」
「足止めの方はぶっちゃけ僕の錬金術が主体になると思うので、トニーさんとビクターさんはアレンさんと一緒に行ってください。足止め係はエーリンさんとリーツさんがいれば十分です」
「で? 具体的にどんな作戦で行く?」
「僕も漠然とした案しか浮かんでないので、皆で少し話し合いましょう」
勇者パーティーはダンジョンを潰すための決死の作戦を立て始めた。
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