第十七話 vs勇者パーティー②

2020年12月26日

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「クリストファー……」

 トニーは悲痛な表情で呟いた。

「……私がもっと早く回復魔法を唱え切れていれば……」

 エーリンが悔しそうに顔を歪める。
 リーツも悲しそうな表情をする。

 それなりに長い付き合いだった、エーリン、トニー、リーツの三人は、だいぶショックを受けていた。 それでも、大きく取り乱している者はいなかった。さすがに常に死と隣合わせである冒険者である。

「アレン。どうする?」

 ビクターがアレンに尋ねる。仲間が死んでしまった場合、一度地上に戻って態勢を整えるというの選択も視野に入れる必要がある。ダンジョンの序盤であるなら、なおさら考える必要があった。

「このまま行く」

 アレンは特に考えることなく、このまま進むという選択をした。

「行くのか? 俺は一度戻った方がいいと思うが」
「戻る必要はない。クリストファーが死んだのは奴が間抜けだっただけで、ワイバーンは特別強い魔物じゃない。この程度のダンジョンなら、俺一人でも攻略可能だ。ここで引き返す理由など無い」

 そう言って歩き出すアレンにエーリンが、

「ちょっと! その言い方はないでしょ!」

 と眉間にしわを寄せながら言った。

「俺は事実を言ったまでだ」
「何ですって?」
「待て待て、言い争いをしている暇は無い」

 アレンとエーリンが口げんかを始めそうになっている所を、トニーが止めた。

「だってトニー。こいつが……」
「誰がこいつだ」
「今は進むか引くかどうか決めるのかが先決だろ? ちなみに俺は進むべきだと思っている。このダンジョンに少しでも時間を与えるのは危険だと、俺の冒険者としての勘が言っている。お前はどうだ?」
「トニーが行くべきと言うのなら、行ったほうがいいんでしょうけど……」
「ま、どっちにしろリーダーの俺が決めたから、進むで確定だ。どうしても進みたくない奴は、帰るんだな」

 アレンはそう言って足早に進んでいった。
 他のメンバーはそれに付いて行く。

「アレン一つ訂正してくれ。クリストファーは間抜けじゃない。あいつは優秀な魔導師だった」

 トニーがアレンの横まで歩いていってそう言った。

「俺は事実は訂正しない」
「…………」

 アレンは短く言い放つ。
 そんなアレンの態度にトニー、エーリン、リーツは不満を覚えるが、離反するような事は無かった。

 ○

「やった。うまくいった」

 クリストファーが死んだ瞬間を見たリックはそう言った。

「あっさりうまくいったのです。Bランクの魔物を一階に集めて、難易度の低いダンジョンだと思わせて敵を油断させた後、あらかじめゴールデンポーションを飲ませていたワイバーンを、一体だけ一階に置いて、隙を付いて攻撃させる。一人を集中して攻撃させて、絶対に絶命させる。ご主人様の作戦がぴしゃりはまったのです!」
「アレンは少し調子に乗って、周りが見えなくなる時があるからね」
「そんな人がどうしてリーダーやってるのですか?」
「一番強いからねー。後は決断力はあるからその辺はリーダー向きなんだけど」
「そうなのですか」
「それでDPはいくつ取れたの?」
「えーと……6500DPです! 多いのです」
「前に来たAランク冒険者より多いね。これで7000DPくらいあるかな?」
「7200DPあるのです」
「それだけあれば、魔物がいっぱい作れそうだね。ゴールデンポーションも、もっと作っておこう」

 リックは4500ポイントを使って、魔物合成10回行えるように必要な物を作った。
 そして、合成を行なっている最中。

「ご主人様! 敵がもうすぐ二階までやって来るのです!」
「!!」

 リックは監視玉を確認する。ユーリの言う通り二階に降りる穴付近まで、勇者パーティーはやって来ていた。

「合成は後少しで終わるけど、ゴールデンポーションは間に合わないな」

 リックは合成を9回終わらせており、今は最後の一回をやっている所だった。
 作られた魔物はAランクが7体で、Bランクが2体だった。

 そして、ちょうど最後の魔物合成が終わる。作られたのはBランクの魔物だった。

「とりあえず、魔物を配置しておこう」
「そうするのです」

 通信紙に魔物の血をつけて魔物を配置し終えた後、今まで黙っていたクルスが口を開いた。

「ここはわしも行くのじゃ!」
「え? いや、ちょっと待ってよ。クルスにはいざという時ここに居て僕達を守って欲しいんだけど」
「よくよく考えれば、わしは早く動けるから離れて居てもすぐに戻ってこられるのじゃ。だから行っても問題ないのじゃ」
「いや……それはそうだけど」

 リックとしては、クルスが倒される心配をしているので、行けとは言えない。

(いや……迷路と違って森は広くて大勢で攻撃できるから……クルスとAランクの魔物複数で攻撃すれば、倒せるんじゃないか?)

 ふと、リックはそう思ったが、瞬時にその考えに疑念を抱く。
 確かに倒せるかもしれないが、倒し切れず何人か討ちもらしてしまった場合は? その間クルスが何らかの方法で足止めをされたら?
 アレンとビクターの実力は知っているが、他の4人の実力と何ができるのかをリックは知らない。
 一階ではアレン以外はほとんど戦っていない。
 間違いなくリスクがあった。

 リックが悩んでいるとそれを見越したようにクルスが、

「大丈夫なのじゃ。わしを信じるのじゃ」

 そう言った。
 リックはそう言われて、……そうだな。クルスの力は見てきた。確かにリスクはあるけど、Aランクの味方が大勢いるような状況でそう簡単に負けないか……と考えた。

「よし! クルスに行ってもらおう」
「任せるのじゃ!」
「いいのですか? ご主人様?」
「うん。きっと大丈夫さ」

 クルスが二階で戦うことになった。クルスは早速行こうとする。

「あ、ちょっと待って」
「なんじゃ?」

 二階に行こうとするクルスをリックが呼び止める。

「ゴールデンポーションを今から作るから、作り終わったらそれを持って行って欲しい」
「ゴールデンポーションってあの金ピカの液体の事か? わしはいらんぞ、そのままでも十分じゃ。他の魔物に飲ませるのじゃ」
「いや頼むから持って行って、お願い」
「ぬう。父上の言うことには逆らえんしな」

 リックは急いでゴールデンポーションを作り始めた。
 ちょうど作り終わったころ、勇者パーティーが二階に行く穴に到達した。

「じゃあはい。後で指示を出すから、僕の通信紙は持ってるよね?」
「バッチリなのじゃ。行って来るのじゃ」

 クルスはゴールデンポーションが入った瓶をリックから受け取り、二階に向かった。

 アレン達は2階に続く穴の前に来ていた。

「ドーマ。ゴールデンポーションをよこせ」

 アレンが手をドーマに差し出してそう言った。

「え? まだ序盤ですよ?」

 ゴールデンポーションは作れる量と持ってこられる量が限られているので、常に使っておくというわけにもいかない。
 ダンジョンの後半に使うというのが、基本的な使い方となっている。

「いいから、全員に配れ。次の階に降りたら飲むんだぞ」

 ドーマが疑問に思いながらも、リュックを開けゴールデンポーションを取り出し、パーティーメンバーに配る。
 アレンが頑なに飲んで欲しいと思ったのは、なにやら嫌な気配を次の階から感じたからだ。

 勘みたいなものなので確かな根拠は無いの為、説明はしなかったが、こういう勘は良く当たるとアレンは思っていた。
 パーティーメンバーは不思議そうな顔をしながら、ポーションを受け取った。

「降りるぞ」

 勇者パーティーは2階へと降りた。

 ○

 2階、森と砦。
 ここにいる魔物は、Aランクが15匹、Bランクが3匹ついでにボブゴブリンが1匹。

 魔物の種類は、Aランクはベヒーモス、リッチ、ゴブリンキング、キングスライム3匹、サイクロプス2匹、アラクネ、ワイバーン、ハイトレント2匹、ライカンスロープ、グリフォン2匹。

 Bランクは、トレント、オーガ、ガーゴイルだった。

「着いたのじゃ」

 クルスはワープ台を使わずに移動して、2階に到着した。
 森と砦は3階への入り口を守るように砦でが作られているため、到着した場所は砦だった。

『クルス聞こえてる?』
「ぬお! 父上か……これびっくりするのう」

 脳内にいきなりリックの声が響き、クルスは驚く。
 クルスは懐からリックに声を送れる通信紙を取り出して、それに向かって話しかけた。

「聞こえてるのじゃ。今着いたのじゃ。早速勇者とやらを仕留めに行くのじゃ」
『あーちょっと待って。最初から仕留めに行くのはリスクが大きいから、最初は敵の力を見たい。しばらく僕の指示に従って動いて欲しいんだけど』
「ふぬ。まどろこっしいのう。まあ、父上が言うのなら聞くがの」

 少し不貞腐れながらクルスは従う意を示した。

『ゴールデンポーションもまだ飲まないでね』
「分かったのじゃ」

 その後クルスが、砦を出た。砦の外は森になっている。

「それでどっちに向かえばいいのじゃ?」
『えーと、真っ直ぐ行って、止まる場所になったら言うから、なるべくゆっくり移動して』
「分かったのじゃ」

 クルスが本気で移動したら指示が追いつかないので、リックはスピードを緩めるように言った後、向かう場所を指示した。

「じゃあ行くのじゃ」

 クルスは指示に従い動き出した。

 ◯

「ゆっくり行けって言ったのに、それでも早いな」

 リックは地図を見ながらそう言った。
 地図上で、青い点がかなりの速度で移動している。
 この青い点はクルスを示していた。

 監視玉には2階の入り口が映されおり、ユーリが見ていた。

「ご主人様! 来たのです!」

 ユーリが叫び、リックは監視玉を確認した。
 勇者パーティーが2階に降りて来ていた。

「来たな。クルス、その辺で一回止まって」
『分かったのじゃ』

 クルスは指示に従って止まったのか、地図の青い点が動きを止めた。

「最初は少数の魔物とクルスを使って、敵の力量を見極めよう。えーと……リッチ、グリフォン、ガーゴイル、トレント、オーガを使おう」
「どういう戦い方をするのです?」
「そうだな……基本的にさっきと同じように魔物をパーティーの前に出してから、クルスが奇襲するといった感じかな? ワイバーンとは違って、一回攻撃したらすぐ引かせる。それで一人倒せたらいいけど、今度はさすがに警戒してるだろうからな……」
「でもクルスちゃんなので、倒せてもおかしくないと思うのです」
「うん、そうだね。じゃあ魔物達を動かそうか」

 リックは魔物達に指示を送り、クルスがいる場所付近に集めた。
 青い丸がいくつも集まったためどれがクルスかは分からなくなった。

『父上、魔物共が近づいてきたが、こやつらと一緒に敵を倒せばいいのじゃな?』
「うん。ええとちょっと待ってね、アレン達が動き出したら、また移動場所を教えるから、それまでそこで待機してて」
『分かったのじゃ』

 リックはクルスに命令し、勇者パーティーが動き出すのを監視玉を見ながら待っていた。

 ○

「森か」

 降りてきた直後に周りを見回しながらアレンがそう言った。

「森か……森と毒沼、森と湖、森と砦とか?」
「森系はいっぱいあるから、特定するのが難しいな」
「とりあえず、砦であるかどうかは簡単に調べられます。砦は木より高いため、木に登って調べれば分かります。さらに砦は次階に続く穴を守っているため、進むべき場所もそれでわかります」
「リーツ調べてくれ」
「はい!」

 トニーがリーツに木に登って調べるよう頼む。リーツは元気良く返事をした後、近くにあった木をするすると登り、あっという間に天辺まで登りきった。

「砦がありますよー。どうやらここは森と砦みたいですねー」

 リーツはそう言った後、木から降りてきた。

「どっちの方向に砦はありましたか?」
「あっち側です」

 リーツは砦があった方向を指差して伝えた。

「あっちかじゃあ行くぞ」

 アレンがそう言って、指差された方向に行こうとする。

「この階では油断するなよ。おいビクター」
「なんだ?」
「お前は一番後ろを歩け」
「ああ」

 ビクターはそう言われて、パーティーの一番後ろに移動した。

「後ろから奇襲されてもビクターなら死なないだろ。それとゴールデンポーションを飲んどけ」

 勇者パーティーはゴールデンポーションを飲んだ後、砦に向かって歩き始めた。

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Posted by 未来人A