第十四話 勇者パーティー崩壊への道 勇者の称号、剥奪の危機
マチルダが死んでから数日後。
メアリーがいなくなっていた。
宿の人に聞くと。
早朝、自分の宿泊代だけを払って、宿を出たという。
出るとき、アレンに渡して欲しいと、手紙を渡されたらしく。
アレンはその手紙を受け取り、読んだ。
『突然いなくなってしまい申し訳ありません。しかし、今のあなたについていくことは、私には無理です。冷静に自分を見つめなおして、何故マチルダが死んだのか、今のパーティーの問題は何なのか、しっかりと考えてください。私では、直接あなたに忠告できないので、卑怯だとは思いますが、手紙で伝えさせていただきます。以前のあなたのように、強い勇者に戻る事を願っています。 メアリー・プラトーより』
アレンはその手紙を引き裂こうとしたが、すんでの所で思いとどまり、手紙を床に投げ捨てた。
「クソが……」
アレンは忌々しげな顔で、そう呟いた。
ビクターが床に落ちた手紙を拾い。読む。
「……メアリーが…………アレン。メアリーの忠告は正しいぞ。しばらくの間ダンジョンに行くのはやめて、ゆっくりこれからどうするか、考えようじゃねぇーか」
「っち……」
アレンは舌打ちをした後、宿屋を出ようとする。
「おい、アレン」
「気分転換に歩いてくる。付いて来るなよ」
アレンはそう言って、街中に歩いていった。
特に目的も無く、アレンはただ適当に街を歩く。
アレンにとっても、マチルダが死に、メアリーがいなくなったのはさすがに堪えた。
フィッツ、マチルダ、メアリーの三人がいないのは、パーティーとしては、実質、壊滅状態だ。
ある程度、質の高い代わりのメンバーを、見つけて来なくてはいけない。
しかし、メアリーとマチルダもトップクラスの実力者だ。
そう簡単に代わりなど見つからない。
しばらくの間、ダンジョンには行かずに人材探しをするしかないだろう。
さすがにアレンも、自分が持っているはずの能力を発動させる為に、無茶をする気はもうなかった。
アレンは街をある程度、歩いた後、宿に帰ろうとする。
すると。
「勇者アレンだ……」
「ほんとだ……」
アレンを見ながら、二人組の女がひそひそと話をしている。
勇者として有名であるアレンには、慣れている事だったので、無視して帰ろうとする。
「最近、ダンジョン攻略何回も失敗してるらしい……もう落ち目なのかしら……」
それを聞いたアレンは、ピタリと歩を止めた。
「うーん……期待していたのにな……早く違う勇者が出てこないかしら」
女達はひそひそと小声で話す。聞こえていないと思っているのだろうが、耳の良いアレンには、しっかりと聞こえていた。
アレンは女達をひと睨みする。聞こえていたことに気付いた女達は、慌てて会話を止めてその場から立ち去った。
アレンはイライラを募らせながら宿に戻った。
○
「アレン! ちょうどいい所に戻って来た! 大変なんだ!」
アレンが宿に戻ると、ビクターが慌てながらそう言った。
「どうした?」
「さっき王国の使者を名乗る奴が来たんだ」
「王国の使者?」
「ああ、今もいるからそいつから、直接話を聞いてくれ。こっちだ」
ビクターが使者の元に、アレンを案内する。
宿屋の一室に案内される。部屋の中には、上品な服を来た細身の男が座っていた。
「初めまして、勇者アレン様。私はアルフレッド・プライスと申します」
「俺に何の用だ」
「国王陛下からアレン様へのお言葉を、伝えに参りました」
アルフレッドはそう言いながら、懐から王家の印が押された手紙を取り出す。
アレンはそれを確認し、王国の使者だというのは本当だと確認する。
アルフレッドは一度咳払いをして、
「勇者アレン。そなたの今までの働き、大変立派ではあるが、最近ダンジョン攻略に幾度と無く失敗し、仲間も何人か欠いてしまったと聞く。民からもそなたの実力を疑問視する声が、いたるところから沸きあがっておる。このままではそなたから、勇者の称号を剥奪するしかない」
「何!? この俺から勇者の称号を剥奪するだと!?」
アレンは、アルフレッドを怒鳴りつける。
しかし、気にせず。アルフレッドは、読み続ける。
「しかし、そなたの実力は余も認めている。そなたには信頼回復の為に、今度こそダンジョン攻略を成功させて欲しい。何度か成功すれば勇者の称号剥奪は無しにしよう……以上でございます」
アルフレッドは手紙を懐に戻す。
「ダンジョン攻略すれば、勇者の称号は剥奪しないんだな? 分かった。おい、ビクター早速行くぞ」
「ああ、お待ちください。攻略して欲しいダンジョンにいくつか指定がございます」
「指定?」
「ええ。最近、国民の間で話題になっているダンジョンです。いくつかございますが、最初はアルラージ近くの森に発生したダンジョンです。ご存知ですか?」
「アルラージにダンジョン? 知らないな」
「一月ほど前に出来たダンジョンです。出来て日は浅いのですが、このダンジョンに挑んだ者は全て帰って来ておりません。その中にはAランクの冒険者も含まれております。このように出来て日が浅いにも関わらず、強力になっているダンジョンは、放っておくとほぼ攻略不可能なレベルのダンジョンにまで、成長するケースが多いのです。そのダンジョンが街の近くに、出来たということはかなり危険であり、育ちきる前に潰すため、至急有力な冒険者を集めている状況です」
「そこの攻略を俺にやらせると?」
「そうです。このダンジョンは大分話題になっており、アレン様、主導で攻略していただければ。ある程度、名誉挽回できるかと思います」
「攻略に成功したら、勇者の称号、剥奪は無しになると思っていいんだな?」
「えーと……他にもいくつか攻略していただく必要がございますが、最初にアルラージに出来たダンジョンを攻略してもらいたいです」
アレンは少し考える。
彼としては人に指図され、ダンジョンに行くのは、癪ではあったが、勇者としての称号はアレンにとって、かなり大事なものだったため、受けることにした。
出来立てのダンジョンくらいなら、楽に攻略できるだろうという考えもあった。
Aランクの冒険者がやられたと言っても。アレンからすれば、Aランクの冒険者は格下である。
「受ける。約束は守れよ」
「はい。受けていただけるということで了承しました」
話が纏まったと思った時、今まで黙って聞いていたビクターが。
「ちょっと待ってくれ。俺達はパーティーが三人しかいないんだが、探す時間とかはくれるのか?」
そう聞いた。
「あ、アルラージのダンジョンは、攻略の為、冒険者を集めております。その者達と一緒に攻略していただければ良いと思います」
ビクターはアルフレッドの答えに、連携とかいろいろあるんだけどなぁ……と思ったが、彼もそこまで今回のダンジョン攻略が、難しくなると思っていなかったので、一応納得した。
「さっそく行くぞ。ドーマを呼んで来い」
勇者パーティーは、アルラージに向かった。
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