第十三話 勇者パーティー崩壊への道 死者
アレンはフィッツの代わりになるパーティーメンバーを見つけて、何度かダンジョンに行ったが。
代わりとなった者は、レベルの差が大きいため付いていけず。一度行ったら、やめる者ばかりで、固定のメンバーは見つかっていなかった。
勇者パーティーは戦力減で、ダンジョン攻略がさらに難航していた。
しかし、アレンはそれでも自分を追い込むかのように、何度も何度もダンジョンに行っては、その度に敗退して、パーティーメンバーはかなりの不満を抱いていたが、今の所離反者は出ていなかった。
今日も勇者パーティーは、一人新入りを入れて、ダンジョンに潜っていた。
Sランクダンジョンの下層まで行っていたが、やはり苦戦していた。
Sランクダンジョンの階の数は、全部で20〜25階くらいだ。
15層くらいからが、下層になる。
現在、勇者パーティーは16階にいる。
このくらいの階になると、ほとんどの魔物がSランクの魔物になってくる。
一人、経験不足の者を抱えた状態なので、当然、苦戦していた。
(まだ……まだ発動しねぇのか……まだ追い込みが足りねぇのか?)
アレンが無茶をして何度もダンジョンの行くのは、自分を徹底的に追い込んで、ピンチになればなるほど強くなる能力を、発動させようとしていたからだ。
現時点で所々怪我もしており、体力もだいぶ消費しているが、それでもまだ追い込みが足りないと思っていた。
能力が発動している時のアレンは、とにかく強かった。
Sランクすらもあっさりと、倒せてしまうほど。
アレンは一刻も早く能力を発動させたいと、気を焦らせていた。
「なあアレン……もう皆、疲れちまってる。ここは帰った方が良くねぇか?」
ビクターがアレンに向かって言った。
しかし、アレンは無視して先に進み続ける。
すると魔物に出くわす。
Sランクの魔物が6体いた。
6体は一度に相手にできる数ではない。
普通なら一度、敵を撒くべき状況だった。
しかし、アレンはそのセオリーを無視して、魔物の群れに突撃して行った。
「アレン!?」
ビクターが驚いてそう叫ぶ。他のパーティーメンバーにも動揺が広がる。
アレンは全力で魔物の一体を攻撃。大ダメージを与えるが、防御を考えずに攻撃したため、がら空きの体を狙われる。
瞬時にビクターが守りに入り、攻撃を受け止めたが、本来ビクターが重点的に守らなければならない、後衛のメアリー、マチルダ、ドーマ辺りが狙われる。
メアリーとマチルダは魔法障壁を張り攻撃を防ぐが、完全には防ぎきれず、食らってしまう。
ドーマは何とか攻撃を回避し、瞬時に懐から、停滞のポーション(魔物の動きを僅かに止める)を取り出し、投げつける。
瓶が割れ液体が飛び出す、周囲に独特の匂いが広がる。
すると、魔物達が3秒ほど動きを止める。
その隙に一同はバラバラの方向に逃げ出した。ビクターはアレンを抱えて逃げた。
バラバラになってしまった場合は、その階の入口に戻るという決まりから、パーティーメンバーは入り口に向かった。
アレン、ビクター、メアリー、ドーマ、マチルダは戻ってきたが。
「ライトはどうした?」
アレンが聞く。
ライトとは新しいパーティーメンバーである。
「戻ってくるのに手間取っているのか、逃げ遅れて死んでしまったか……」
「単独になって一人で戻ってくるのは、正直難しいです。ライト君では死んでしまった可能性が高いでしょう」
ビクターとドーマがそう言った。
「まあ、ライト程度。死んだ所でどうでもいい」
「おいおい……アレン。お前があんな無茶な突撃したのが原因なんだぞ!? お前、何故あんな真似をしたんだ!?」
ビクターが怒りながらそう言った。
「俺の能力を発動させるためだ」
「まだそんな事、言ってんのかてめぇは。発動しないもんはしないと割り切って、行動するのが普通だろ!? それをいつまでも諦めきれずパーティーメンバーを危険に晒すなんてなぁ。それでもお前はリーダーか!?」
「ふん。能力が発動したら、今の苦戦も全て無くなる。多少、誰かが犠牲になろうが、あの能力が戻れば全てチャラだ」
「お前なぁ……」
ビクターは呆れて物も言えなくなる。
元々傲慢な人間だったが、ここまでだったかと唖然とする。
「ちょっと皆! マチルダさんの様子がおかしいの!」
メアリーが珍しく大声を出している。
「どうした」
アレンが様子を確認してみると、息を荒げながら、苦しそうに俯いている。マチルダの姿があった。
「何があった?」
「わからないの……いきなり苦しみだしたの……」
メアリーが動揺しながら説明する。
「異常回復の魔法はかけましたか?」
ドーマが尋ねる。
「うん。でも効かなくて……」
「ふむ……」
ドーマがマチルダを診る。
動悸が荒く。目の視点が合っていない。
「分かりませんね。異常回復の魔法が効かないとなると、特殊なスキルで作り出された毒としか…………僕の持っている解毒薬を一応、飲ませてみますが、恐らく効果はないかと。しかし、治せないならこのままだと死んでしまいます」
「死んじゃう……そんな……」
ドーマの言葉に不穏な空気が流れる。ドーマはいくつかの解毒薬をマチルダに飲ませるが、効果は無かった。
「これは地上に戻って、治し方を探すしかないかもしれません……間に合えばいいのですが……」
「それなら早速、戻るぞ」
アレンが指示を出す。
「おい、ライトはどうする」
「死んでる可能性が高いだろう。マチルダを助けるのが先決だ」
「アレンさんの言う通りです。ここにいたら高確率でマチルダさんは死にます」
「う……」
ビクターは苦しい表情を浮かべたが、最後は納得した。
一同は地上に戻った。
○
地上に戻って、マチルダをまずは医者に診せた。
医者にもお手上げらしく。ドーマは医者と協力して、解毒薬を急いで作ろうと試みる。
その間メアリーが、回復魔法を掛け続け。何とか延命していたのだが。
地上に戻って三日経ち……
「……すいません。間に合いませんでした」
マチルダは死んだ。
「うう……マチルダさん……」
同じ女性で仲の良かったメアリーは泣いている。
今この場にはアレン以外のパーティーメンバーが揃っていた。
一同に沈痛な空気が流れる。
部屋のドアが開き。誰かが入ってくる。
入ってきたのはアレンだった。
「どうだ?」
「死んだよ……」
アレンの質問にビクターが答える。
答えを聞いた瞬間。アレンはその場を立ち去った。
メアリーはその様子を見て、怒りがふつふつと湧き上がってくる。
(アレン君の無茶な行動のせいで、マチルダさんは死んだのに、なんなのあの態度は?)
メアリーの心を怒りと悲しみが支配する。
アレンとしては、ある程度ショックを受けていた為、無言で立ち去ったのだが、メアリーの目にはまるで悪びれない態度に映った。
徐々に勇者パーティーの崩壊が近づいてきた。
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