第十一話 Aランクの侵入者
「やったー! 出来た!」
リックが両手を上げながら、そう言った。
彼の目の前には、大きな錬金壺、フラスコ、小瓶、てんびん、かき混ぜ棒などの錬金術で使用する道具が揃っていた。
少し前、Bランクくらいの、冒険者パーティー6名が来たので、
倒し、DP8000ポイントほど獲得し。
リックはそのポイントを使って、錬金術に必要な道具を作った。
「材料は作れないのに、何で作るのですかね」
不満げな顔でユーリは、そう言った。
道具を作るのにポイントを、大方使ったため、
材料を作る事はできなかった。
ユーリとしては、ダンジョンの強化をして欲しいと言ったが、
クルスがいるからしばらくはいいと、リックは言い。
錬金術で使う道具を作った。
「数日間、錬金術の道具を見てないと、落ち着かなくなってさぁ」
「はぁー仕方ないのです。ご主人様は……」
「父上、母上、これらは何なのじゃ?」
クルスが尋ねる。
「錬金術を行う時に、使う道具さ」
「錬金術とは父上が使う術だったかの。そもそも錬金術とは、何なのじゃ?」
「そうだなー、分かりやすく言うと、違うもの同士を混ぜ合わせて、別のものを作ったり、物を全く別の物に変えたりする、術のことだね」
「ふむ、父上は何故、錬金術をやろうと思ったのじゃ?」
「あ、それ私も聞きたいのです」
「うーん、そうだねー」
リックは過去のことを思い出す。
「僕の生まれた村には、高名な錬金術の先生がいてね。その人が子供達に錬金術を教えていてさ。僕もその人に錬金術を教わっていたんだ。それがきっかけだね」
「先生がいたのですか」
「まあね。その人がいつも言ってたなぁ。錬金術師とは、全ての根源、真理を探し求めている者達だって。子供だったから、意味は理解できてなかったけど、何故か覚えてるんだよね」
「ふぬふぬ、また一つ父上の事を知ったのじゃ」
クルスは満足したように、小さく頷いた。
「でも私は、錬金術の道具を作るより、ダンジョン強化をして欲しかったのです」
「まだ言うか」
「言うのです。見るのです、このダンジョンを!」
ユーリは監視玉を指差して言う。
そこにはダンジョンの一階が映し出される。
「見るのです! この魔物が配置してある以外、ただの何の仕掛けも無い部屋を!! 二階も同じなのです! こんなのダンジョンとは、言えないのです!」
「いや……でもさぁ……下手に罠付けたりするより、今は魔物作った方が、強化できるでしょ?」
「ご主人様は理解していないのです! ダンジョンの醍醐味というものを!」
「醍醐味って……」
どうやらユーリには、自分なりの、ダンジョンの美学みたいなものが、あるらしかった。
リックもユーリの言いたい事が、分からないわけではないため。
「うーん……分かったよ。次はダンジョンを改装して、本格的にダンジョンっぽくしよう」
「本当なのですか? 約束なのです!」
ユーリは満面の笑みを浮かべてそう言った。
「父上、母上、何か来たのじゃ」
「え?」
クルスが監視玉を指差して、そう言った。
リックは確認する。
5人の冒険者パーティーが、侵入して来ている。
リックは冒険者達の装備を見てギョッとする。
「Aランクのパーティーだ。この人達」
見た瞬間に分かった。
AランクとBランクは、あまり差の無いように見えるが、
実際はAとBとの間には、物凄く大きな壁があり、
Aランクの冒険者の実力は、数多いる冒険者達の中でも、間違いなくトップクラスだった。
そのため装備は、普通じゃ絶対に手に入らないような。
売ったら三代まで遊んで暮らせるくらいの、価値のある装備をそれぞれが装備していた。
「もしかしたら、Sランクかも? いや、Sランクなら一人くらい、見たことある人がいるはずだよね。やっぱりAかな」
リックは戦力を見定める。
一階に配置してある魔物は、サイクロプス、オーガ、トレントだ。これでこのパーティーに勝つのは……
正直無理だ。
と思っていると、パーティーが一斉に動き出して、
サイクロプスに攻撃する。
サイクロプスはあまりの速度に、反応出来ない。
まず一人が、サイクロプスの足を攻撃。
サイクロプスはバランスを崩して、転倒する所を、他のパーティーメンバーが待ち構え。
サイクロプスの首を二人掛かりでぶった切った。
ものの数秒であっさりと、サイクロプスは絶命した。
「想像以上に強い!」
「あわわなのです!」
サイクロプスを倒した後、冒険者達はオーガ、トレントと、あっさりと倒してゆく。
「やばいなのです!」
「ぐぬぬ」
二人が困っていると。
「仕方ないのう、わしが倒してくる」
クルスがそう言って、一階に向かった。
〇
「ここが例のダンジョンだな」
厳つい顔の男が低い声で言った。
ここは森の中。
足元にある穴を、5人組の冒険者パーティーが見つめている。
穴からは、怪しげな瘴気が漏れ出している。
彼らが今から挑もうとしている、ダンジョンの入り口だ。
「このダンジョンは、出来て一週間くらいだそうだが、挑んだ冒険者は全員、帰って来てないらしい。その中にはBランクの冒険者も含まれるとの話だ。気を引き締めて行くぞ」
パーティーのリーダーである、アルバスがそう言った。
「でも、私達なら楽勝でしょ!」
「今の俺達が、出来立てのダンジョンで死なないだろ」
「こら! お前ら舐めてかかるな!」
楽観的な態度のパーティーメンバーを、アルバスが叱る。
しかし、アルバスとて、油断しているわけではなかったが、自分達が負けるなどとは、まるっきり思っていなかった。
自惚れではない。確かな実力と実績を持つ、Aランクの冒険者パーティーである彼らが、出来立てのダンジョンで負けるなど、考えられないことであった。
「よし、準備はいいか?」
「「「おお!!」」」
一人づつ順番に、ダンジョンへ飛び込んで行った。
穴は多少、深かったが、
全員ロープを使わずに、降りて行った。
そしてダンジョンの内部に降り立つ。
視界は狭いのだが、遠くに薄っすらと魔物の姿が見える。
「サイクロプスだ」
「なるほど、サイクロプスか……Bランクじゃ勝てないわけだな」
強力な魔物である、サイクロプスの姿が見えても、彼らは全く動揺しない。
冷静に合図を取り合い、一斉に攻撃を開始した。
完璧な連携が取れ、サイクロプスを難なく撃破した。
そして他の魔物も容易く倒して行く。
「やっぱり、楽勝だったな」
楽に倒せたため、このダンジョンは楽勝で攻略できると気を抜き始めていた。
アルバスも、油断するパーティーメンバーを叱ったりはしなかった。
そして、
それは現れた。
「ふむ」
何の気配も前触れもなく、少女の声が聞こえた。
パーティーメンバーは、慌てて声が聞こえた方向を向く。
そこには、白い髪の少女が佇んでいた。
幼い容姿に惑わされ、気を抜く者はいない。
見かけで判断できない魔物など、山ほど見て来たからだ。
「お主ら……」
少女が口を開く。
パーティーはわずかに目配せをして、攻撃のタイミングを計っていると。
突然。
パーティーメンバーの一人の、剣士である男の頭が、消失した。
あまりの出来事にパーティーメンバー達は、見間違いかと思う。
しかし、残された体から、おびただしい量の血が噴き出したのを見て、全員、状況を把握した。
「お主らそこまで強くないのう。これなら本気を出さすとも倒せるのじゃ」
少女の手に、男の首が握られていた。
「きゃああああ!」
女性の悲鳴が上がる。動揺するのも無理はないだろう。
他のパーティーメンバーも動揺している。
動揺が一番少ないのが、アルバスだ。
どんな時でも冷静でいられる彼は、リーダーとして優秀だった。
動揺したパーティーを立て直そうと、叱咤激励をしようとする。
しかし、間に合わず。気づいた時には、次々とパーティーメンバーは殺されて行き。
残りはアルバスだけになった。
「か、神よ……」
祈りは虚しく。
アルバスは首を刎ね飛ばされ、死んだ。
◯
「す、すごいのです……」
監視玉で様子を見ていたユーリが、呟いた。
「全く苦労せずに瞬殺した……これが真祖(トゥルーヴァンパイア)の力……」
Aランクの冒険者パーティーですら、余裕で倒したクルスの力に二人は驚嘆する。
「戻ったのじゃ」
クルスが一階から戻って来た。
ちなみにクルスはワープを使わずに、ほぼ一瞬で行き来していた。
「上にいる魔物達は、あの程度の奴らに勝てぬようじゃダメじゃぞ」
「あの程度って……Aランクの冒険者だと思うんだけどな……」
常識外の強さを持つクルスからすれば、Aランクの冒険者すらもあの程度の扱いだった。
「しかし、そうなのですね……Aランクの冒険者パーティーを倒した事で、もっと強いパーティーが来る可能性もあるのです。そうなると……クルスちゃんが負けるとは思いませんが少し手こずってしまった場合、私達は一巻の終わりなのです」
「わしは手こずらんぞ?」
「万が一の話なのです! ご主人様! やはり一刻も早くダンジョン強化すべきです! さっき倒した冒険者は、DPをたんまりくれたでしょう。えーと……あ!」
「どうしたの?」
「ぱんぱかぱーん! DP25000ポイントを獲得して、ダンジョンランクが、Eランクにランクアップしたのです!」
「おおー?」
「なんじゃランクアップって」
「これでカタログに載る物も、増えるのです! さあダンジョン強化するのです!」
リックは新しくなったカタログを見て、ダンジョン強化を始めた。
スポンサーリンク