第十話 勇者パーティー崩壊への道 脱落者
Sランクダンジョン中層十階。
細い一本道があり、両脇は崖になっている。
並の者ならそこにいるだけで、気を失うような瘴気が立ち込めていた。
そこを勇者アレンをリーダーとするパーティー6人が満身創痍になりながらも歩いていた。
「おかしい……」
誰かがポツリと呟いた。
その声に返答する者は居なかったが、皆が同じ思いを抱えていた。
今の彼らの見た目は、
服はボロボロ、敵の血と自分の血とで肌は汚れきっている様子はまるで敗残者だ。
実際に彼らは下層での戦闘に負け、逃げ帰るように上層を目指している。
何故こうなったのか?
今回は油断したつもりは無かった。
新入りのドーマも動きは間違いなく良かったし、
つまらないミスや命令無視などがあったわけでもない。
なのに負けた。
勇者パーティーにとってSランクのダンジョンの下層を突破するのはそこまで難しいことでは無かったはずだ。
しかし何故か今まで避けれたはずの攻撃を食らったり、
一撃で倒せていたはずの敵が攻撃を耐えたり、
魔力が早く切れたり、
すぐ体力がなくなってバテて攻撃速度が鈍ったり、
そんな事がいくつか重なり明らかにいつものペースでダンジョン攻略を出来なり、
最後敗北し逃げる事となった。
個々で原因を探すが心当たりはない。
敵が強くなっていた? そんな事はない。
鍛錬が不足していた? いつも通りやっていたはずだ。
それぞれ疲れでうまく回らない頭で考えていた。
その時、
疲れでうまく周りが見えていなかったパーティーの背後に、
大きな剣を装備したリザードマンが近寄ってくる。
パーティーの一番後ろはフィッツ、
リザードマンが剣を振りかぶりフィッツを斬ろうとする
。
「フィッツ!!」
一番先に気付いたアレンがフィッツに危険を知らせる。
フィッツは瞬時に回避する、しかし、
「っだ!!! 」
直撃は免れたものの足を斬られ。
膝の辺りから下を斬られる。
斬られた足が宙にまい。
崖下に落ちそうになる。
フィッツは斬られた足に手を伸ばすが、
「あ……」
僅かに届かず足は崖下に落ちた。
その後アレンが、リザードマンは一撃で倒す。
「フィッツ!」
パーティーメンバーがフィッツの元に駆け寄る。
「ぐうぅうう」
フィッツは足を抑えて痛がる。
膝の下が完全に切断されていた。
切り取られた足があるならくっつける事は可能だが、
一から元通りにすることは不可能だった。
「メアリー!」
「う、うん」
メアリーが回復魔法をかけて傷を塞ぐ。
傷は完全に塞がるが、足は元通りにならない。
「マジかよ……」
ビクターの呟きが虚しくダンジョンに響いた。
◯
一同は何とかダンジョンの外に出て、近くの町に戻った。
パーティーメンバーは宿の一室に集合し、
緊急会議をしていた。
もの凄く雰囲気は暗い。
武闘家であるフィッツの足がもう使えなくなる。
質の高い義足がないこの世界では、
もう二度とまともに戦えなくなるということ事を意味していた。
「皆、元気出せって! 俺はもう戦えねぇかもしれねぇけど代わりの奴が見つかるって!」
「フィッツ……」
一番辛いであろうフィッツが周りに気を使わせないため、
無理に明るく振る舞う。
そのフィッツの様子を見て、ビクターが申し訳なさそうな顔をする。
しかし、パーティーメンバーはわかっていた。
フィッツの代わりなどいないと言う事は、
勇者パーティーの一角を担っているフィッツは、
それこそ人類最高レベルの達人だ。
そんな彼の代わりができるものなど、
探してもそう見つかるようなものじゃない。
彼らが暗くなっているのはフィッツが足を無くしてしまった事だけが原因ではない。
ダンジョン攻略の失敗を立て続けにしてしまったということも大きかった。
フィッツの代わりをどうするか、パーティーが弱くなった原因はどこあるか、
意見を出し合おうと緊急会議を開いたが、
結局、誰も何も言えなかった。
「あの……」
ここで珍しく普段喋らないメアリーが、手を上げて意見を言おうとしている。
「何だメアリー」
アレンがそう言った。
「え、えっとフィッツ君の代わりに心当たりはないけど、私達が弱くなった原因には心当りがあるの」
「何だ?」
「リック君を追放したからだと思うの」
パーティーメンバーは首を動かさず視線をメアリーに向ける。
彼らも馬鹿ではない。
それは薄々皆、皆気付いていたことだった。
しかし、リック追放はアレンが言い出した事の手前、
指摘できなかったのである。
よく言ってくれたと内心メアリーに感謝した。
「リック君の作るポーションとかはやっぱ凄かったと思うの、あれがあったから皆やっていけたんだと思う。あ、ドーマ君を外したいわけじゃないの、ダンジョンでの動きはリック君より良かったし、調合を今まで通り、リック君にお願いして、ダンジョンにはドーマ君が行く。二人で一人みたいな。どうかな?」
パーティーメンバーは妥当ないい案だと素直に思った。
ドーマですらあのポーションには自分が見ただけでは見抜けなった何かがあったのだと認めており、
そうした方がいいと思った。
「だからまずリック君に謝らないと、追放してごめんなさいって、リック君は優しいからきっと許してくれるよ」
「まあ、あの研究馬鹿の手を借りるのは癪だがそれっきゃねー」
ビクターが同意する。彼はあまりリックの事が好きでは無かった。
パーティーメンバーはその意見に納得した。
アレン以外は、
「メアリー」
「……!」
アレンに呼ばれメアリーはビクッとする。
それなりに付き合いが長いため、
声色でだいたいどんな精神状態かわかるのだが、
これは激怒している状態の声だとメアリーは恐怖する。
「お前はつまりこう言いたいわけか、俺はあの無能の力を借りなければただの雑魚であると、この俺にそう言いたいわけか?」
「い、いやそうじゃ……」
「馬鹿にしてるんだよなぁ!!! この俺を!!! 勇者であるこの俺を!!! いい度胸してるじゃねェか!!!!」
「ひぅ……!」
アレンに怒鳴られ身を縮こませるメアリー、
「アレンやめとけって! 怖がってるだろ?」
ビクターが止めに入る。
「いいか、二度とあの無能の名前を口にするな」
「う……」
メアリーは涙目になる。
「いや……でもアレンよう……確かにいつもより俺ら動き鈍かったし、もしかしたらリックがいたら俺の足も」
フィッツがそう言う。
「違うお前が足を斬られたのはお前が弱かったからだ」
「なっ!」
「俺はお前にあの時、避けるように知らせたはずだ。 あのタイミングで避けられなかったのはお前が弱かったからだ」
「おいアレン! それはいくら何でもひどすぎるだろう!」
ビクターが叫ぶ。
「ふん、いいかあの無能は絶対に探すな。フィッツの代わりは俺が見つけてくる。それまでお前達は自己鍛錬をしておけ」
アレンはそう言って部屋を後にした。
そのアレンの態度に納得の行かないとこともあったが、
皆従った。
◯
「くそったれが!!」
アレンは外に出て大声で叫ぶ。
通行人がビックリしてアレンを見るが、
気にも留めない。
(ちくしょう認められるかよ)
アレンはかつてないほど苛立っていた。
薄々アレンも気付いている、
リックを追放したせいでこうなってると、
ただ彼のプライドの高さが、
一度見限った者を認める事を拒んでいた。
(今回もあれが発動しなかった……あれさえ発動すれば……)
アレンは自分が持っている。
ピンチになれば強くなる能力さえ発動すれば、
どうにでもなると思っていた。
(最近はちょっと調子が悪いだけだ……次は……次は発動するはずだ)
アレンはそう思い。
フィッツの代わりのパーティーメンバーを探しに行った。