第十六話 vs勇者パーティー①
「アレン!? ビクター!?」
「……もしかして知り合いが来たのですか?」
「う、うん」
監視玉に映っている者達を、リックは見間違いじゃないかよく見て確認した。
「間違いない……アレンとビクター……それからあのメガネの男はドーマだったかな……? あれ? メアリーとフィッツとマチルダはいないな。知らない人達が4人いるし……僕以外にも入れ替えたのかな?」
「ご主人様とはどんな関係だったのです?」
「パーティーメンバーだったんだよ。あの先頭にいる金髪で目つきの鋭い奴が、リーダーで勇者だったんだ」
「勇者!? ご主人様は勇者のパーティーにいたのですか?」
「うん、言ってなかったっけ?」
「そうだったのですか……あの人が勇者って事はかなり強いのではないのですか?」
「うん、僕の知ってる限り、一番強い人間だよ」
「一番……強いのですか……」
ユーリが不安げな表情になる。
「あの、知り合いとの事なのですが、ご主人様は彼らを殺す事に抵抗はあるのでしょうか? 無関係な人間を殺す事には抵抗は無いとの話でしたが、知り合いとなると話は別だと思うのです」
「うーん……」
リックは少し考える。
追い出されたとき、アレンとドーマに復讐したいと思っていたが、あれは追い出された直後で、ショックで冷静な判断ができない状態だった為、思った事だった。
今はそこまで深い憎しみがあるという訳ではない。
深い憎しみは無いとはいえ、ドーマは元よりよく知らないし、アレンも追い出された時のやりとりで、縁が完全に切れたと思ったので、この二人を倒す事に抵抗は無かった。
(ビクターはよく助けられてたし、殺したくは無いな)
壁役のビクターに、リックはよく助けられていたので、殺したく無いと思った。
「ご主人様、仮に抵抗があるとしても、情けをかけてはいけないのです。勇者パーティーほどの強い相手に、殺すのを躊躇ってしまうと、こちらが殺される事になりかねないのです。今のご主人様は人間から見たら、完全に敵になっているという事を忘れてはダメなのです」
ユーリがそう忠告した。
「そうか……そうだね……」
リックは、ビクターを殺すことに抵抗は覚えるが、情けはかけないと決めた。
「でも、情けをかけないと言ったのですが、そもそも本気でやっても勝てるのでしょうか?」
「うーん……それは」
「強いと言ってもわし程ではなかろう、ここはわしが倒してくる」
「ちょ、ちょっと待って!」
勇者達を倒しに行こうとするクルスを、リックが止める。
「強いのならわしが行くのがよかろう。他の魔物達が無駄死にしてしまうじゃろう」
「いや、それはそうだけど……」
リックは迷う。
クルスは確かに強い。
真祖(トゥルー・ヴァンパイア)はSSランクの魔物で、伝説級の力を持っている。勇者パーティーといえど蹴散らせるだろう。
しかし、クルスは真祖と言っても、作られて日が浅い。
勇者単体なら倒せるだろうが、パーティー全員と戦った場合はどうなるか分からないと、リックは考えていた。
真祖は不死なので殺されはしないだろうが、行動不能にさせられる可能性はあった。
「とりあえず、クルスは1番強いからこの部屋で僕とユーリを守ってくれ」
「ぬう、父上が言うのならそうするのじゃ」
クルスは渋々従った。
少し時間が経ち、監視玉に映っていた勇者達が魔物と出くわした。
出くわした魔物は、Bランクの魔物アイアンタートル。
鋼鉄で出来た甲羅を持つ大きな亀で、守備力が高いのが特徴の魔物だった。
先頭のアレンがすぐさま剣を抜いて、斬りかかる。
守備力の高いアイアンタートルだが、あっさりと切り裂かれ絶命した。
「あっさりやられちゃったのです」
「うーん……本当は時間稼ぎをしつつ不意をつくみたいにしたかったんだけど、一瞬でやられたらなぁ……魔物の配置とか一から考え直さないといけないみたいだ……」
リックは顎に手を当てて悩む。
勇者ほどの強者が来るという事は全く想定していなかった。
「僕はアレンの性格を知っているから、ある程度行動が読める……相手は僕がダンジョンマスターだと知らないから、そこは確実に有利に働くはずだ……」
リックはアレン達を倒す方法を考え始めた。
〇
「たいしたことないみたいだな、このダンジョンは」
「油断するんじゃねーぞ」
余裕な様子のアレンに、ビクターが渋い表情で忠告した。
パーティーは急ぎ気味に歩く、急ぎ気味だが警戒を怠ってはいない。
アイアンタートルを倒して少し歩いた場所に、左右に分かれ道があった。
「どっちに行くの?」
「めんどくさいな、壊せないのか?」
壁は土で出来ているため壊せないかとクリストファーは考えた。
「ダンジョンの壁は壊しても即効で修復するようになっているので、壊しても無駄ですよ」
クリストファーの言葉を聞いたドーマが、眼鏡の位置を上げながらそう言った。
「そうなのか、それでどっち進めばいいんだ?」
「そうですね……少し調べてみましょう」
ドーマは背負っていた大きめのリュックを地面に下ろして、地面に置いた。そのリュックを開け中から妙な物を取り出した。
その物の外見は、緑の球体を二枚の正方形の板が挟むようにして付いているといった外見だ。板は複雑な模様が書かれた板と、何も書かれてない板に分かれていた。
ドーマは、複雑な模様が書かれている板を下にして地面に置いた。
「何だそれは?」
アレンが尋ねる。
「僕が作ったオリジナルの器具です。名前はまだ付けていませんが、これを使えばダンジョンの内部構造を大まかに把握することができます。これは錬金術だけでなく色んな分野に明るくないと作れないため、これを作れるには僕くらいのでしょうね」
「御託はいいから早く使え」
「あ、はい」
ドーマは得意げに話しているところを、アレンが止めた。ドーマは焦りながら返事をした。
「じゃあ、使います」
ドーマは緑の球体に手を当てて、ブツブツと呪文を唱える。
すると、模様が無かった板に複雑な模様が浮かび上がってきた。
「出来ました。これがこの迷路の地図です」
パーティーメンバー全員が、模様を確認する。
「すごいもんだな」
「これはどういう原理なんだ?」
「少し難しいは話になりますが……」
「難しくなるならいいや」
「それでどっちに行けばいい」
「えーと……」
ドーマは地図を見る。
「ここが現在地ですから…………えー…………左ですね。ここは左に行くのが正解でしょう」
「左か、行くぞ」
アレンが早速の左の道に行き、他の者もアレンに付いて行った。
道中、これといった強い魔物は出現しなかった。出てきたのは全てBランクの魔物だったので、あっさりと倒して進んでいった。
「アレン。スピード上げすぎじゃねーか?」
アレンは最初より速度を上げて移動していた。速度を上げた代わりに周囲の警戒が疎かになっていた。
「ダンジョンは階ごとで同じ強さの魔物が出るものだ。この階にはBランクの魔物しか出ないだろうから、スピードを重視するのは間違っていまい。時間をかけすぎると迷路の構造が変わり、面倒臭いことになるからな」
アレンの言うことにも一理あるので、反論する者はいなかった。
一同はアレンに従い速度を上げて付いて行く。
ある程度歩いたところで、別れ道があった。真っ直ぐ行く道と、右側の道に分かれていた。
「どっちだ?」
「ここは真っ直ぐです」
アレンに聞かれて、ドーマは即答した。ドーマの言うとおり、アレンは真っ直ぐ進む。
すると魔物が現れた。
通常のオークより一回り大きなオーク。ハイオークだ。
ハイオークはBランクの魔物だ。アレン1人でも楽に倒せる相手である。
低い声で唸るハイオークに、アレンは剣を構え斬りかかる。
ちょうどその瞬間。
上からパーティーの後方に向かって、魔物ワイバーンが襲撃してきた。
ダンジョンの天井までの高さはそれなりに高いため、上からの攻撃というのもあり得る事だった。
ハイオークに気を取られていたため、気付くのが少し遅れる。
ワイバーンは1番後ろにいたクリストファーに、背後から攻撃を仕掛けた。
「クリストファー!! 後ろ!!」
一番最初に気付いたトニーが、大声で叫ぶ。
急いでクリストファーは振り向き、咄嗟に魔法障壁を張る。
クリストファーは魔法障壁の防御力には自信を持っており、Aランクのワイバーンの攻撃も防げると思っていた。
だが、障壁はワイバーンの攻撃を受けて砕け散った。
「何!?」
クリストファーは驚愕する。明らかに通常のワイバーンより攻撃力が高い。
ワイバーンはそのままの勢いで、クリストファーの肩に噛み付いた。
「ぐあっっ!!!」
「クリストファー!!」
クリストファーを助けようと皆でワイバーンを攻撃するが、攻撃されたからといって怯まず、標的も変えず、狂ったようにワイバーンはクリストファーのみを噛み続ける。
そして肩から口を離し、喉元に食らいついた。
「っっがは!!!」
首元から大量の血が溢れて来た。
トニーがワイバーンを切り裂いて殺したが、クリストファーは倒れて動かなくなる。
「エーリン! 回復魔法だ!」
トニーがエーリンに回復魔法を使うように指示するが、エーリンはすでに魔法を使おうとしていた。
呪文が唱え終わるその直後。
「あ……」
クリストファーがダンジョンに、一滴の血も残さず吸収された。
魔導師クリストファー・ペレスはあっけなく死んだ。
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